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都市開発の将来予測-1(2020年までの建設市場)

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以前、当ブログでは日本の産業シリーズで、建設都市の未来についても扱いました。そこでは日本の建設市場は縮小過程に入り、建設業は存亡の危機に立たされ、生き残りをかけて海外進出や異業種への進出などが検討されていること、その中でも地域社会に根ざした建設業の取り組みが注目されていることなどを紹介しました。市場延命型の都市開発はもはや限界であり、自給型・環境調和型の都市構造に転換することが求められていると結論づけました。
参考:日本の建設産業・都市の未来はどうなる?(前編 [2]後編 [3]
ところが政権交代後、状況は一変しました。東北復興とアベノミクス、消費税の駆込み需要で建設市場は過熱状態です。今後さらにTPP交渉妥結、2020年東京オリンピックに向けた施設インフラ整備、リニア新幹線の2027年名古屋開通などが続きます。一方で長期的には日本全体は少子高齢化、人口減少に入り経済力は衰弱、平行して高度経済成長期に集中整備された都市インフラ公共施設の老朽化が急速に進みます。
日本の都市開発、建設市場は今後どうなっていくのか、市場延命型の都市開発はいつまで続くのか、2020年までの短期見通し、2050年頃までの長期見通し、2段階で検討します。今回は1回目の短期見通しですが、建設市場に与える影響が大きい、東北復興、消費税増税、TPP、東京オリンピック、東京の都心再開発、リニア新幹線の状況を概観してみました。


◆東北復興
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復興予算の総額は2011年度が15兆1697億円、2012年度が4兆931億円、2013年度が4兆3840億円、2014年度概算要求が3兆6377億円。日本の建設投資(官民・建設土木含む)が2010年度で42兆円であり、復興予算の全てが建設投資に向うわけではありませんが東北復興の規模の大きさが分かります。
2011年度は15兆の予算の内約9兆円を消化、2012年度は前年の繰り越しも含めると9兆7402億円の予算があり、このうち6兆3131億円を消化しました。その後、2013年、2014年と予算は減少してきており、復興予算のピークはすぎつつあります。
復興財政のフレームでは、集中復興期間を2015年までとし、総額25兆の財源を確保している。2013年度までに20兆円を使う見込みであり残り2年間で5兆円と減少していきます。
東北復興の課題は、この集中投資が一過性のばらまきに終わらず、地域の活力を再生し自立的な発展へとつなげていけるかです。
参考:東北復興事業の進捗状況(既にピークは越え、平成27年度には終息に向う) [4]

◆消費税増税の駆込み需要
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日本建設業連合会の法人会員98社の受注額は、2013年9月に前年同月比101.9%増(倍増)の約2.5兆円を記録しました。民間は138%増の1.9兆円、官庁は53%増の0.5兆円。13年度上期(4月~9月)の累計も過去10年で最大の約7兆円で39%の増。民間からの受注は約5兆円(43%増)、官公庁からの受注は約1.7兆円(26%増)でした。
官庁の発注増はアベノミクスと東北復興の影響と考えられ、消費増税の駆込み需要は民間発注の増と考えられます。民間の上期の受注増は昨年比1.5兆円となっていますが、98社の受注額は建設工事費全体の1/3程度であり、この1.5兆円の増を消費税の駆込み需要と仮定すると、日本の建設工事の消費税の駆込み需要は、単純計算すると3倍の4.5兆円となります。
日本の建設工事費は2010年度で年間42兆円であり、建設市場に与える影響の大きさが分かります。2013年10月以降は反動で落ち込む可能性もありますが、消費税は2015年10月に10%に増税される見込みであり、反動の落ち込みが本格的に来るのは2015年10月以降の可能性が高いとおもわれます。
政府も反動減を避けるために、インフレ誘導や住宅ローン減税などを実施していますが、需要が増えたわけではなく需要の先食いにすぎないことは間違いが無く反動減は避けられません。
参考:消費税増税の駆込み需要(日本建設業連合会は前年同月比倍増) [6]

◆TPPの経済効果
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TPPの経済効果は政府の資産によると3.2兆円とされていますが、実は、政府も関税を撤廃すると、輸出の造よりも輸入の増の方が大きくなると推計しています(輸出増加が2.6兆円に対して、輸入の増加は2.9兆円)。それにもかかわらず、経済効果が3.2兆円のプラスになるのは不思議ですが、その中身は、TPPに参加することで、国内消費が3兆円、国内投資が0.5兆円増えると推計しているからです。
貿易収支は赤字になるにもかかわらず、国内消費が伸びると推計した理由は、輸入で物価が安くなった分、消費が活性化すると言うことのようです。しかし、今の日本は国が借金をしてお金をばらまいても消費が全く伸びない状態であり、国内消費が伸びるという推計が絵に描いた餅に終わることは明らかです。
さらに、輸出の増加もこれまでの輸出実績をベースに推計していると思われますが、今後はアジア諸国の国際競争力がさらに高まると予想され、政府推計通り輸出が伸びるとも思えません。TPPで内需産業は大打撃を受け、輸出の暫減傾向は止まらない結果になる可能性が高そうです。
TPPで貿易が自由になっても、人件費の安いアジアの優位は変わらず、日本企業の生産投資が海外に向う傾向は変わりません。TPPによる内需拡大や国内投資の増加は期待できないでしょう。
参考:TPPの経済効果(政府も輸出の増より輸入の増が大きいと推計しているが…) [8]

◆東京オリンピックの経済効果
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東京都が発表した、東京オリンピックの経済波及効果は約3兆円です。需要増加額が1兆2239億円(内、施設整備費3,557億円、大会運営費3,104億円、その他5,578億円)、これに伴う経済波及効果を全国で2兆9,609億円と見込んでいます。2015年から投資が本格化するとして5年で割ると年平均6000億円、これはGDPの0.12%でしかなく殆ど影響が無いというレベルです。
この推計は、東京都が税金の無駄遣いと批判されないために需要増加額を過小に評価しているからだとも言われていますが、過去のオリンピックの経済効果を参考にしても、東京と同じように施設整備を抑制した2012年ロンドン五輪の英国は五輪全体の経済効果は約165億ポンド(約2兆6000億円)でした。五輪の直前まで3四半期連続でマイナス成長、五輪開催時の3カ月のみ、年率3.0%の成長、その後、失業率が改善したわけでもなく、大きく経済成長を遂げたとも言えません。
施設整備を大量に行った2008年北京五輪の場合、開催決定翌年の2002年から開催前年の2007年の間に、インフラ関連などの投資が毎年GDP成長率を0.3~0.4ポイント押し上げたとされていますが五輪開催の前年に14%を超えた経済成長率が、開催年と翌年は9%台に鈍化しました。
さらに言えば、オリンピックを開催した国の多くは、開催後に不景気に見舞われています。日本の1000兆円を超える国債も、そのスタートラインは東京オリンピック終了後の建設需要大幅減を補うためでした。
参考:東京オリンピックの経済効果(やっぱり効果は期待できない) [10]

◆東京都心部の再開発
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大手町・丸の内・有楽町地区では過去10年間の平均で30万㎡/年のビルが建設されてきました。工事費が50万円/㎡として年間1500億円程度の投資です。大手町・丸の内・有楽町地区再開発マップに掲載されている予定案件は2016年までで、そろそろ再開発も一段落しそうです。
これから始まるのがJR田町車両センター再開発で、10~15haの用地が生み出されます。平均容積率を600%と想定すると90万㎡の建設が可能です。事業は2014年にスタートし2020年の完成が見込まれており、年平均15万㎡程度の事業になりそうです。工事費が50万円/㎡として年間750億円程度の投資です。
この他にも、日本橋や八重洲でも再開発の動きはあり、東京都心部全体では、田町の投資の2倍程度の事業量はありそうです。今後も都心の再開発は年間1500億~2000億円程度の事業は見込めそうです。
都心部の開発は2020年以降も継続すると思われますが、建設市場全体から見ればかなり規模は小さくなります。そしてオフィスや商業の需要が増加しているわけではなく、東京一極集中が進み日本のなか、東京のなかでパイを食い合っているにすぎません。その需要も無限ではなく供給が過剰になり都心部のオフィス賃料も値崩れを起こしてきており、再開発できるエリアはどんどん狭まってきています
参考:東京都心部の再開発(大・丸・有地区は一段落、次は田町周辺) [12]

◆リニア新幹線
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JR田町車両センター再開発と関連が深いリニア新幹線は2014年に着工し2027年に東京名古屋間が開業の予定です。投資の規模は13年間で5兆1300億円、年間3946億円です。都市部の再開発に比べれば、比較的大きな投資ですが、2020年以降の建設市場を支えるほどの力はありません
加えて、リニア新幹線は9兆円もの建設投資を返済できるのか疑問もあります。JR自身も在来の新幹線との食い合いになり売り上げは大きく伸びないと予測し経常利益も75%の減少を見込んでいます。それでもリニア新幹線が大阪まで開通する2045年には10%の売り上げ増を予測しています。今後の人口減少やそれに伴う市場縮小を考えると、この見込みもまだ甘いと言わざるを得ません。リニア新幹線の建設投資は焦げ付く可能性が高く、最終的には国の借金になると思われます。
参考:リニア新幹線の投資効果と問題点 [14]

◆まとめ
2020年までの建設市場の動向を整理すると3段階に分かれます。2015年までと、2020年まで、それ以降です。東北復興と消費税駆込み需要という巨大な実需に、オリンピック開催決定、リニア新幹線着工などの大きな話題が重なり、2015年までは建設市場の過熱状態は続くと思われます。
2015年以降は、オリンピック、リニア新幹線、田町再開発など需要はあるものの、東北復興と消費税駆込み需要という巨大な実需が収束し、TPPも思ったような効果が出ずリーマンショック後の沈滞と同水準に向います。そして、2020年にオリンピックと田町再開発が終わる頃には、国際貿易でもアジア諸国との競争敗北が明らかになり、大不況に突入する可能性が高そうです。

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