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老人共同体の実現に向けて その萌芽となる事例の紹介 市場社会を卒業した高齢者が、新しい事業を起こしていく可能性

「老人共同体の実現に向けて その萌芽となる事例の紹介」シリーズ第2回をお送りしたいと思います。今回紹介するのは、保育園と老人ホームを複合させた「幼老複合施設」での活動です。

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■01市場社会を卒業した高齢者が、新しい事業を起こしていく       

日本の市場を牽引してきた製造、販売、飲食業などの事業群は、概ね100年ほど前の華やかな都会の出現とともに拡大し、さらに高度経済成長期に並行して飛躍的に成長してきました。このような市場社会の中では、生産するのも消費するのも若い世代が中心でその核心部分には「性」と「核家族の子育て」があり、高齢者はその外側に追いやられる存在でした。

しかし見方を変えると、高齢者は「市場社会から卒業」した存在であり、だからこそ市場社会に馴染まなかった潜在的な需要を発掘してこれを主体的に事業化できる可能性もあるのではないでしょうか。

 ■02高齢者が活躍している領域        

現在、高齢者が主体的に働いている事業を調べてみると、肉体的負担の大きいフルタイムの製造業や、危険を伴う領域の建設業などは高齢者に向いていませんが、以下のような活躍の場があることがわかりました。

①ガードマンやマンション管理、などの「見守り系」のサービス業

②保育や介護では「話し相手・世話焼き系」の領域、

③農業や食品その他の製造業では単純労働よりも「熟練が重視される」領域

④運輸では広域の運送よりも「狭い配達」の領域 

これらの事業領域は、大量生産・大量消費の事業形態から外れたあまり儲からない領域だと見ることが出来ます。逆にいえば、だからこそ賃金の安い高齢者の雇用があるともいえます。市場全体が縮小し、少子高齢化が進行する現在の社会の中では、さらにこういった大量生産・大量消費の事業形態から外れた潜在的な需要は増えていくはずです。

■03保育や介護領域に高齢者事業の可能性は?      

そこで今回紹介したいのは、保育や介護では「話し相手・世話焼き系」の領域での新しい試みです。保育園と老人ホームを複合させた「幼老複合施設」での活動を紹介します。

 

 

以下、「感謝の心を育むには 集団の再生どうする?~再生への取り組み事例:幼老複合施設~ [1]」 より引用

  ◎幼老複合施設『江東園』:リンク [2]

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「おじいちゃん、おばあちゃん、げんきですかぁー!」園庭に元気いっぱい、可愛らしい声が響き渡ります。

その声に負けじと、「元気ですよぉーー!!」お年寄りの大きな声がかえってきます。ここ江東園で、毎朝繰り広げられる光景です。

江東園の1日は、お年寄りと園児たちのラジオ体操から始まります。

ラジオ体操が終わると、子どもたちは一斉にお年寄りのところに駆け寄り、思い思いに抱きついたり話しかけたり、なかにはだっこをせがむ子もいます。お年寄りも子どもたちもとても楽しそうです。

ここ江東園では、毎朝の体操から始まり、子どもたちがお年寄りの部屋に遊びにいったり、施設のあちこちで、お年寄りにだっこしてもらう子の姿や、絵本を広げている姿を目にします。子どもたちの行動範囲は全館といいますから、まさに「一緒に暮らしている」といえます。

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◎『ひかりの里』『くわなの宿』:リンク [4]

病院のそばには、多湖さんが経営するグループホーム「ひかりの里」があります。グループホームとは、痴ほうの人が小規模で暮らす施設。それぞれが個室を持っています。痴ほうの人にとって、環境が急激に変わることは病気の進行を早める危険性があると言われています。しかしここでは料理を手伝ったり、趣味に打ち込んだりしながら、自宅と同じような落ち着いた環境で暮らすことができます。

このグループホームのユニークなところは、同じ建物の中に放課後の小学生を預かる学童保育所があることです。もともと多湖さんは学童保育所を先に運営していました。ところが子どもたちややんちゃで、保育士の言うことはなかなか聞かず、いじめも起きるありさま。そこで思いついたのが、子どもたちのしつけに痴ほうのお年寄りの力を借りることでした。

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このユニークな取り組みは、実は様々な良い効果をもたらしています。 お年寄りと日常的に触れ合ううちに、子どもたちに変化が見られたのです。

保育士が注意しても聞かない子どもたちが、お年寄りがしかると従うのです。お年寄りが本気でしかり、本気で褒めることで、子どもたちが素直になるのではないかと多湖さんは考えています。

さらに、食事などをいっしょに作るうちに、子どもたちがお年寄りに尊敬の気持を抱くようになりました。お年寄りの料理の知恵に、子どもたちも関心しきりです。

お年寄り:「ご飯にも酢が入っとるから、酢水でこうやると、このおはしもきれいに取れるようになるの。」

子どもたち:「うわー、本当だ。」

子どもたちの変化以上に多湖さんを驚かせたのが、痴ほうのお年寄りたちの変化でした。子どもといると生き生きとして、はいかいの癖がなくなる人もいました。失禁を繰り返していたお年寄りが、子どもたちの前ではきちんとトイレに行く光景も見られました。

お年寄りは子どもたちに、時には「お行儀が悪いよ」「残さないで食べなさい」など注意もします。それを子どもたちは素直に受け入れます。

暴れて遊んでいる子どもも、車イスや松葉杖のそばでは静かに通るというように、思いやりが自然に身についている、ともいいます。

お年寄りと一緒に暮らしていると、時には亡くなることもあります。そのときは子どもたちに自然な形できちっと話をして最後のお別れをしてもらいます。「死」というテーマも自然な形で受け入れてもらおうとしています。

このように、幼老複合施設で生活することでお年寄りも子供も良い影響を与え合っています。幅広い年齢層の人々がお互いに接するという姿は本来の集団に近い姿です。

しかし、良いことづくめに見えるこの幼老複合施設ですが、まだまだ普及しているとはいいがたい状況にあります。それはどうしてでしょうか?

既存の幼老複合施設はあくまでも主が老人ホームであり、その補完作用を狙って保育園を一緒にしているものが殆どのようです。それでは子供たちへの効果という意味では不十分にならざるを得ません。もっと保育や介護領域に高齢者が生産者として関わる可能性はないのでしょうか?

■04定年退職直後の高齢者に可能性あり                                     

例えば、”定年退職直後の高齢者が参加する”というのはどうでしょうか?

定年直後と言えばまだまだ身体的にも元気で、何か人に貢献したくてウズウズしている人は多いはずです。そこで定年直後の元気なお年よりも一緒にすれば、子供たちは様々な遊びや知恵をより多く教わることが出来ます。単なる賃金労働から解放=市場社会から卒業した高齢者にとっては、個的な悠々自適な生活よりも、次の世代を育てる役割があることは日々の生活に希望と潤いを与えてくれるように思います。

子供(幼年)-施設スタッフ(中高年)-定年直後(高年)-老人ホームのお年寄り(老年)と、これまで以上に幅広い多様な人々が集うことで、世代間の交流や循環がうまれていくでしょう。高齢者が増え続ける社会の中で、定年退職直後の役割をいかに作るかという課題は、社会的にも大きな課題です。定年退職直後の高齢者にこそ、新事業の基盤と可能性があるように思います。

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