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真っ暗闇のエンターテイメント ~ダイアログ・イン・ザ・ダーク~

あなたは目以外のなにかで、ものを見たことがありますか?
完全に光を遮断した純度100%の暗闇の中で「五感」の気付きや「コミュニケーション」を楽しむソーシャルエンターテイメント。それがダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、DID)です。参加者はその暗闇の空間へ8名程度のグループで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障碍者)のサポートにより、様々なシーンを体験します。

1988年にドイツの哲学者アンドレアス・ハイネッケ博士の発案により始まって以来、ヨーロッパを中心に世界41か国以上で開催され、800万人が体験しています。

日本でこの事業を展開するのは、志村真介代表・志村季世恵総合プロデューサー。一般向けの他に、企業研修向けも行っている。実は日本以外の国ではドイツと同内容のプログラムしかしていないが、日本は志村さんに一任されているため、四季折々のプログラムを展開しています。一体この空間の付加価値は何なのでしょうか? 調べてみました。

視覚からの情報は80%と言われます。DIDではその視覚が完全に奪われます。だが実は奪われるのは視覚だけではありません。年齢も、地位・肩書も、見た目も、名前も関係ない世界なのです。現実世界でまとった鎧が全て剥がされ、まるで別世界に放り込まれたような感覚になる。頼りになるのは声ぐらい。そうするとどうなるか?

自分は無力だということをつくづく感じさせられる。手を取って助けていただき、人の温かさを感じる。丁寧なコミュニケーションの重要性に気付かされる。見た目が無意味な世界で自分が一体何者なのかということに思いを巡らせる。最も驚いたのはたった1時間半で見知らぬ8人が非常に仲良くなることである。同窓会が続いているグループも多いそうで、結婚したカップルまでいる。実は人間関係を構築する上で、視覚が障害になっているのかもしれない。五感の中で先端機能である視覚を奪われることで、それ以外のより根源的な感覚機能を使って仲間や空間、そしてこの世界を把握しようとするので、プログラム終了時には、その感覚が研ぎ澄まされているのです。

私たちは新しい価値を創造しようとするとき、何かを足すことを考えます。ところがDIDでは徹底的な引き算をやったのです。視覚を奪うことで、利用者に全く新しい世界を提供している。これがDIDの革新性の一つです。

もう一つは、先導するアテンドに視覚障碍者を起用したこと。この人たちはどちらかというと「周りの人に助けてもらいなさい」と言われることが多い。しかしこの空間では完全に立場が逆転し、健常者を助ける立場になる。彼ら彼女らが頭の中に持っているマップや視覚以外の感覚の感受性は私たちのものとは全く精度が違い、その能力に驚かされる。つまりDIDは「弱者」と呼ばれてきた人たちを「強者」に変えるビジネスモデルを作り出したのです。

特徴的な出来事を一つ紹介します。総合プロデューサー志村さんが、以前出張先のホテルでアテンドスタッフと同じ部屋に宿泊したときのこと。「お風呂を入れてくるね」と言って蛇口をひねって、しばらくしてから「もうお湯がたまったかな」と浴槽を見に行ったら、スタッフが笑ったのです。そのスタッフに「お風呂のお湯が丁度いい音も分からないのか。目が見えるって不便だな」と言われたそう。他にも彼らは耳と肌感覚だけで、音の響き、空気の揺れ方・圧迫具合を感じて天井の高さが何メートルかが分かるらしい。そう考えると、健常者の捉えている視野の何と狭いことか。

さらに考えれば、私たちの周りにあるものは、大抵、触感があり、音を出したり、振動を感じたり、味を感じたりすることでも捉えられます。しかし文字は無機質な記号でしかない。視覚で捉える情報のうち、文字に占められる量が多いことも、現代の特徴です。視覚を遮断することは、文字により硬直し固まった思考を解放する効果を上げるのだと考えられます。

※参考資料:「日本の革新者たち」(齊藤義明著:㈱ピー・エヌ・エヌ新社)

※参考:暗闇で解放される心と五感 [1]

 

 

 

 

 

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