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ランチェスター戦略 ~充足関係が市場原理を駆逐する~

緊急事態宣言は5月25日に全面解除されましたが、コロナショックは激しく、当面は引き続きマスク着用や手洗い、3密回避は続くでしょう。

以前の記事「ランチェスター戦略~弱者は人間関係に分け入っていく戦略~」 [1]で弱者の戦略として「4.接近戦:弱者はエンドユーザーに直接営業する」を紹介しました。withコロナの状況下で「直接営業」は今後衰退するのでしょうか?

大企業が最大公約数的に万人に受ける商品を提供するのに対して、中小企業は一部の顧客のニーズにとことん応える商品を提供するのが勝ち筋になります。そのために直接顧客に対応することが不可欠なのです。

市場原理の中では商品の売れ行きを左右する要素は品質と価格ですが、買い手は品質を判断することが困難な場合が多く、そのため価格が最も大きな要素になります。しかし「売り手の信頼感」が「品質」の代わりになれば形勢が逆転することがあります。つまり直接営業とは、客との間に、市場の取引関係以前のもっと根っこの部分で人と人とのつながりで、充足関係を作ること。そこから、同じものなら「あの人から買いたい」「むしろ少々高くてもあの人のところで買いたい」につなぎ、市場原理を引っくり返すのです。

例えば、東京都中央区のベルテンポ・トラベル・アンドコンサルタンツ
この会社は1999年に日本初の障害者専門の旅行代理店としてスタートしました。
高萩徳宗社長は大手旅行会社に勤務していた頃、大量販売で画一的なツアーに疑問を抱き、さらに効率重視のため障害者や車椅子のお客さんを断る現実に心を痛めていました。
そんなとき、ボランティアで障害者との旅行に同行中の出来事。

夜中の2時にある障害者に「ビールが飲みたい」と叩き起こされた。高萩氏はキレて「ふざけるな。障害者だからといって甘えるな!」と怒鳴った。すると「俺たちだってボランティアにはいつも気を遣っているんだよ。本当は堂々とお金を払い、客として正当なサービスを受けたい」と返されたそう。

これでボランティアという名の善意が逆に障害者のプレッシャーになっていたことに気付き、有料のバリアフリー旅行会社を創業したのです。客は障害者、高齢者なので、事前に観光地を調査して、車椅子の利用状況を調べたり、もしもの場合に備えて医師や看護師、理学療法士なども同行させます。当然、ツアー料金は通常の旅行の倍以上になります。(当初は「障害者を食い物にしている」とバッシングを受け、創業から4年目までは赤字だったそう。)それでも構わないという人が会員になります。旅を共にするのは、趣旨に賛同するその会員のみ。旅行は、観光も楽しみですが、誰と行くかも大事な要素。気が利かない添乗員やわがままな客がいると旅は台無しになっていますので、会員制は客層戦略の一つとして欠かせない要素です。

この事例で気付くのは、相手との絆を作るには「相手を知る」だけでは足りないこと。相手にこちらのこと、つまり人となりや想いも知ってもらうことがないと、本当の意味での関係深化にはならないのです。そしてそれは1対1の一本線では継続しづらい。網目状の関係性の中(この事例の場合は会員制で会社と会員、会員同士の関係)で相互に補完し合うことで継続した信任関係になっていくことが推察できます。

こうして改めて直接営業の核心部分を見ると、不安発のソーシャル・ディスタンスで避けられる関係ではないことが分かります。まさに家族のように良いこともダメなことも互いに受け入れる存在になるということなのです。
人間関係も「必要か、否か」の判断で振り分けられ、ウィルスに負けない信任関係作りが市場も制していくのです。

※参考資料「小さな会社の稼ぐ技術」(栢野克己著 竹田陽一監修/豊倉善晴取材・執筆協力:日経BP)

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