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子どもの「心」の成長には何が大切か? ~ 健全な「心」を育む、子育て環境とは?

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子どもへの虐待、母親のうつ、子育てにまつわる問題は深刻さを増しています。
厚生労働省の調査によると、児童相談所が対応した虐待事例は30年連続で増え続け、2015年には10万件を超え、2020年度は過去最多の20万5029件にもなります。(リンク [2]

子どもの「心」の成長には何が大切か?
人の脳は、大人レベルに成熟するまでには25年以上の年月がかかるとも言われ、人は他の哺乳類に比べて、“子ども期”が相対的に長い特徴があります。つまり、後天的に獲得する能力の比重が高く、育つ環境に、身体的な適応力と同時に目に見えない「心」のはたらきも規定されているのです。
そしてそれは、産後からではなく、胎児の段階から始まります。

◆「脳→心」の発達には「触覚経験」が重要
◎胎児期の早期から、多種の感覚情報を処理する機能は発達している。
[触覚]妊娠7週頃から、触覚刺激に反応する。
[視覚]妊娠18週頃から、視神経が大脳(後頭葉一次視覚野)と結びつく。
[聴覚]妊娠20週過ぎから、聴神経が大脳(側頭葉一次聴覚野)と結びつく。
胎児期間半分の20週(身長25㎝弱、体重300g程度)の胎児期には、様々な感覚器官や中枢神経の大枠を発達させてる。つまり、脳を発達させているのです。
◎妊娠後期と新生児がみせる身体の動きには、ほとんど違いは見られない。
単発的瞬き、あくび、舌出し、しかめっ面や微笑み、目や口の開閉、手や顔や目、頭頂などの東部周辺に接触させるなどといった身体運動は、胎児と新生児に共通して見られます。
胎児期と新生児期との間には、発達の連続性があります。
◎新生児の脳は、「聴覚<視覚<触覚」の順に活動する脳領域が広がる。
[聴覚]側頭部の局所領域が顕著に活発化。
[視覚]後頭部の領域だけでなく、聴覚情報を処理する側頭部まで活発化。
[触覚]頭頂部の領域だけでなく、視覚情報を処理する後頭部、聴覚情報を処理する側頭部にかけてまで広い領域が活発化。
感覚器官の中でとりわけ重要な役割が、最も早く発達する「触覚」情報です。
★「心」の働きは脳の働きによっておこり、脳の発達において「触覚経験」が重要な役割を果たしていることは、育児期における“スキンシップ”が「知能→心」の成長に極めて重要なことを示しています。

◆「スキンシップ」は、生物が進化的に獲得してきた生存戦略
スキンシップは親との愛情的な絆を意味しているわけではありません。育児期のスキンシップは、(人を含む)哺乳類にとって、極めて重要な生存戦略の機能です。
★スキンシップにより強い安心感、信頼感を刻み込む経験を豊かにすることで、子どもは新たな環境を積極的に“探索”し冒険できるようになります。そのなかで他者との関係を広げていきます。
逆に幼少期に親との間のスキンシップがうまくいかないと(希薄、剥奪、虐待などの不適切な養育)、心身の発達に遅れや問題が生じたり、病気に対する抵抗力や免疫のはたらきが低下することがわかっています。また、思春期以降にうつ病や多動性障害、解離性障害などが現れやすくなることも知られています。

◆「スキンシップ」を介して多感覚情報を同時受容する環境で「相互作用(同期)」を高めていく
生後半年すぎの乳児の脳活動は、「身体に触れながら語りかける」場合と「触れずに語りかける」場合とで違ってきます。「身体に触れられながら」聞いた単語の方が乳児の脳が大きく活動します。とくに、言語処理に関わる左側の側頭葉、そして思考に関わる前頭葉の活動が高まります。
更には、身体に触れられたときによく笑顔を見せた乳児ほど、その単語を聞いた時に高い脳波活動を示します。
人は、視覚や聴覚、触覚といった多種の感覚情報を同時に積極的に提供される環境のなかで、周りとの「相互作用(同期)」を高めていきます。
★身体を取り巻く(とりわけ周りの人との)環境と相互作用を繰り返すなかで、身体が成長していくと同時に、「心」のはたらきも可塑的に多様に発達していくのです。
身体を介した相互作用(同期)こそが、人特有の社会的認知(知能)→「心」の基盤です。

◆人類は共同保育によって進化してきた
最近の研究で、スキンシップは特定の母親と子どもとの二者間で形成されるだけではないとされています。複数の人とのスキンシップを形成し、その多様な経験を統合していくことこそが、より安定した心理、社会的適応を可能にすることがわかっています。
人類は、血縁だけでなく非血縁を含む所属集団の複数メンバーが子育てを行う「共同保育」により進化してきた。この考え方は人類学や霊長類学を中心とする見方と一致します。

◆母親の「心」を健全に保つ環境が不可欠
健全な「心」を育むうえで大切なのは、育児期における母親との身体的接触(スキンシップ)通じた安心感・充足感をもたらす環境です。
ただしそれは、母子が一対一の密室化関係(核家族)となると子育ての限界がある(母親の子育て不安→鬱など)。
子どもの「心」の健全な成長には、母親の「心」を健全に保つ人と関わる環境が大切になります。
★子どもの「心」の成長は、突き詰めれば「集団」の有り様の問題でもあります。

 

【参照】
※(論文) リンク [3]「新生児にも脳の機能局在があり、触覚刺激が脳の発達に重要なことを確認(全頭型NIRSプローブを開発)」
※(書籍)「ヒトの発達の謎を解く」明和政子 著
リンク [4] 子どもの「心」の成長には何が大切か? ~ 母子間のスキンシップと母親の「心」を健全にする人と関わる環境
リンク [5] 脳の発達には、胎児期と新生児期の「触覚経験」が重要な役割を果たしている
リンク [6] 人はスキンシップを介した多感覚情報を同時に受容する環境で「内識=外識」の統合回路を太くしていく

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