2023年04月27日
【次代の先端市場を切り拓く】バイオものづくりで世界をリードするには?
以前の記事で、日本がどの領域で世界に立ち向かおうとしているか?について、国の重点投資対象である「量子技術」について言及をしました。AIの追求では付加価値づくりには人間の力が必要なことがわかり、量子技術の追求では、人間の力を助長する方向で発展していることがわかりました。
今回の記事では、AI・量子技術を基盤に、バイオテクノロジーの領域でどのような展望があるかを探っていきます。
なぜバイオなのか
バイオテクノロジーは、「健康・医療産業」「化学産業」「環境・エネルギー産業」「食品産業、農林水産業」などの幅広い領域(以下バイオという)で社会問題解決に寄与すると期待され、いま世界中で注目を集めています。
世界のバイオ産業の市場規模は、2020年時点で7,528億8,000万米ドル(約100兆円)。日本は5兆円(現状「健康・医療産業」が市場全体の87%を占めている)。今後5年で世界の成長率は5%にも及ぶとされており、その背景には、これまで記事としてまとめてきたAIや量子の急速な技術革新が基盤となり大きく寄与しているのです。
これらの技術に加え、ゲノム解析・編集技術の劇的な進歩も原動力として、「食品産業、農林水産業」と「工業の各分野」も急成長すると予想されています。
まさに第五次産業革命と呼ぶに値する産業構造のパラダイムシフトが起こりつつあるのです。
日本では骨太方針2022において、国益に直結する科学技術分野としてバイオ産業を、「バイオものづくり」と「再生・細胞医療・遺伝子治療等のバイオテクノロジー」に分類し、戦略を実行しています。
本記事ではとりわけ、第五次産業革命の核となっていくと予想される「バイオものづくり」についてまとめていきます。
テーマは、
①何がすごいのか?
②バイオものづくりの”いま”
③さらなる発展に向けた企業・教育機関の動向
①何がすごいのか?(何ができるのか?のほうが興味をそそる)
バイオものづくりは、遺伝子技術(合成生物学)により、微生物が生成する目的物質の生産量を増加させたり、新しい物質を生産するテクノロジーであり、海洋汚染、食糧・資源不足など地球規模での社会的課題の解決と、経済成長との両立を可能とする、二兎 を追える研究分野です。
(事例があると分かりやすい、身近なもので)
②バイオものづくりの”いま”
米国や中国では兆円単位の投資が行われ、国際的な投資競争が激化してます。
・米国の合成生物学ベンチャーへの民間投資額:2019年約4000億円→2021年約2兆円
・中国の戦略的投資:11兆円(山西合成生物産業エコロジーパーク(山西省)約1400億円、合成生物技術イノベーションセンター(天津市)約360億円)
・日本:大規模生産・社会実装まで視野に入れた、微生物設計プラットフォーム事業者と異分野事業者との共同研究開発の推進(エコシステムの構築)、味噌・醤油・酒類など全国の事業者が強みを有する微生物の発酵生産技術やゲノム合成・編集技術等の基盤技術の開発支援・拠点形成や人材育成等、バイオ分野で世界をリードしていくために中長期的視野で大胆かつ重点的な投資を行っていく必要があります。
バイオものづくりでは、合成生物学を活用した上流側の微生物開発では、AI・ロボットを用いた効率的な微生物構築技術、下流の発酵生産では、培養・精製技術の高度化とった、バリューチェーンの段階に応じて全く異なる高度な技術・設備が必要です。
また、バイオものづくりは、生物情報のデータ化・デジタル化と生物機能のデザインを行い、DBTLサイクル(Design/Build/Test/Learn)を循環させることでスマートセル(物質生産性を高度に高めた細胞)を生産しています。このサイクルの中で、D(Design)の部分で人間の創造的思考が必要になります。
③さらなる発展に向けた企業・教育機関の動向
※画像出典:我が国におけるバイオものづくりの産業化にむけて~関西の「次の産業の核」とするために
・バイオものづくりの発祥の地と言われている関西。長年にわたって我が国のバイオものづくりをリードしてきた歴史的背景から、バイオものづくりに関わるアカデミア、企業、インフラ等の集積が進んでいます。また、バイオコミュニティ関西(BiocK)の設立等、集積を連携へと発展させる取り組みも進められている。
・関西では①バイオものづくりの産業化を担うアカデミア発スタートアップの登場 / ②公的支援の拡充 / ③播磨臨海地域(兵庫県)における水素へのエネルギー転換に向けた取り組み / ④2025年大阪・関西万博等、バイオものづくりの産業化に向けた機会が拡大しています。これらの機会を捉え、産学官が連携して戦略的に取り組むことにより、関西においてバイオものづくりの産業化を実現していくことが期待されています。
①アカデミア発スタートアップ
・神戸大学スタートアップ『バッカス・イノベーション」はDEFTAグループ、ロート製薬、太陽石油や島津製作所などから出資を受け、微生物開発、生産プロセス開発を実施する統合型バイオファウンドリサービスを展開。
②公的支援の拡充
・バイオものづくり革命推進事業(経済産業省 2022年度2次補正予算)3,000億
・革新的GX技術創出事業(文部科学省 2022年度2次補正予算) 496億
バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進(経済産業省 国費負担額上限)1,767億
・ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業(経済産業省 2022年度2次補正予算)1,000億
③播磨臨界地域におけるエネルギー転換に向けた取り組み
播磨臨界地域は関西の製造業の中核拠点(AGC、神戸製鋼所、カネカ、三菱重工業、川崎重工業など)であり、同地域において水素細菌を活用したバイオものづくり等に取り組み、石油を起点とする既存のバリューチェーンを水素起点に再構築していく。
④2025年大阪・関西万博
全世界から約2820万人の来場が予想されており。関西のバイオものづくりに係る取り組みを広く世界にPRしていく貴重な機会としていく。
バイオものづくりの領域は、AIや量子などの他領域に比べても、優れた発酵技術を有する日本ならではの技術革新で、世界をリードしていく可能性があります。
そのため、国策や他企業・他大学での連携を強化することが不可欠であり、またそれぞれの強みを上手く活かし、創造的な人材の育成・または社会課題を解決する力のある企業を創出する必要があります。
日本の新しい産業の創出・革新は、優れた個人とそれが集積する複数の企業、そして様々な機関との連携に期待が集まります。
見えてきたものはやはり、現代にないモノを生み出す創造力と、複雑化する事業における共創する力が未来の日本に必要になります。
▼参考文献
1.OECD, “The Bioeconomy to 2030: designing a policy agenda”
4.経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)
5.生物資源(bio)の量(mass)を示す概念。動植物に由来する有機物である資源(化石資源を除く)
6.菌根を作って植物と共生する菌類のこと。例えば、森林の地上に発生するキノコは、多くが菌根菌。土壌中の糸状菌が、植物の根の表面または内部に着生したもの。
11.Good Manufacturing Practice(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)
12.経済産業省「バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進」プロジェクト
13.複数の種類の原料(例:バイオマス原料等と化石燃料由来の原料など)により製品を製造した際に、特定の材料(例:バイオマス原料等)の投入量に応じ、製品の一部にその特性全てを割り当てる方式
14.New Dietary Ingredients(新規ダイエタリーサプリメント成分)
15.Contract Development and Manufacturing Organization
16.英国では2021年11月に20万人分の全ゲノム情報を網羅した「UK Biobank」、米国では2022年3月に10万人分の全ゲノム情報を網羅した「All of US」が公開されている
17.Decentralized Clinical Trial(分散型臨床試験)
18.医薬品開発において、動物試験で安全性と有効性が確認された後、ヒトに初めて投与する段階の治験のこと
19.Sustainable Aviation Fuel
20.Feed-in Tariff
21.産業構造審議会 商務流通情報分科会 バイオ小委員会 バイオものづくり革命推進ワーキンググループ バイオテクノロジーが拓く『第五次産業革命』
22.経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 生物化学産業課 「バイオものづくり革命」の実現に向けて
23.国内の注目「バイオ」ベンチャー・スタートアップ企業一覧【厳選20社】 コンサル転職&ポストコンサル転職のアクシスコンサルティング【公式】 (axc.ne.jp)
25.バイオ業界ランキング2021【年収・売上・将来性】 | 金融エンジニア (lanchesters.site)
26.世界が挑む「バイオものづくり」、日本は高機能化学品にチャンス:材料技術(1/2 ページ) – MONOist (itmedia.co.jp)
27.人生100年時代を可能にする最先端医療 (pictet.co.jp)
- posted by matudai at : 17:48 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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