2013年03月07日
『共同体経営とは?』12-2. 実績予測システム~専門分化と職能意識からの脱却~
■はじめに
前回ご紹介した、2-12-1【経営への主体的な参画】
に引き続き、今回は【専門分化と職能意識からの脱却】
として、日々の実績予測システムの元で行われている生産活動の実態をご紹介したいと思います。
一般的な株式会社の場合、企業の経営方針は取締役会の場で定められ、株主総会での決議を得てから、各従業員への業務指示がくだされます。実際に生産を担う従業員達には、そこで与えられた課題通りの成果を上げれば、その分の報酬(分け前)が得られる、という形です。如何に効率よく仕事を回すか?という点については工夫の余地が与えられているものの、経営方針を共に考え、自分達の組織をどう統合していくか?という観点では全く期待されていない状態とも言えます。つまり、殆どの場合「自分に与えられた課題」の事だけを考えていれば良い、といったぶら下がり思考にずり下がり、組織の一員というよりは自分の給料を稼ぐための手段でしかない、と言った意識になってしまうのも、やむを得ない構造に有ります。そうである以上、各成員の持つ能力が万全に発揮される状態とは程遠い組織体制とも言えます。
では、全員が経営者として企業運営に参画している共同体企業・類グループでは、日々の活動が他企業と比べてどう違うのか?を具体的に見て行きたいと思います。
■類設計室の専門分化体制について
まずは、類グループ設立時からの基幹部門でもある、設計室の体制に焦点を当てて見て行きましょう。
類設計室は業界屈指の成長を遂げてきた総合設計事務所。確かな時代認識とともに、ディテールにこだわり続けてきた厚い技術蓄積が、その成長の源です。設計事務所は大手といえども2人~4人で構成される設計チームの集合体であるのに対して、類設計室は豊富なマンパワーを最大限に活かすため、20年前に大きく体制を変革しました。企画、意匠、構造、環境・情報の各部門をさらに細分化した専門房と、物件全体を統合するプロデューサー、ディレクターが連結した「専門分化体制」です。
~中略~
みんなが、事実の共認によって統合されている共同体だからこそ、逆に徹底した技術の専門分化が可能となっています。この徹底した事実の追求と専門分化が相まって、作品が一段高い質に結晶してゆくのです。
(類設計室HP“専門分化体制”より抜粋)
■職能意識の弊害について
それぞれの専門領域を追求する利点は上述の通りですが、注意しなければならないことがあります。「自分の役割さえやっていればいい」という意識=職能意識は、本人の充足も活力も下がって成果が上がらないばかりか、周囲の人間もそれに引っ張られて、集団の活力や成果も下がっていくことになるんです。
己の狭い役割意識・課題意識に囚われて、組織課題に収束しようとしない(真正面から捉えようとしない)社員は、高い成果が出ない原因を、自分の役割の外に求めるようになる。主観的には成果を求めて頑張っているのだが、組織課題を捨象しているが故に成果が上昇しない。その原因を、自分の役割の外に求めれば、その言葉はほとんど「言い訳」になってしまい、それが続けば(本人も自覚できない潜在意識のレベルで)周囲への否定意識(→”反組織”意識)が形成されていくことになる。(こんなにやっているのに成果が出ない→成果が出ないのは、○○だから→それを解決してくれない周りが悪い)こうなってしまっては、本人の充足も活力も下がって成果が上がらないばかりか、周囲の人間もそれに引っ張られて、集団の活力や成果も下がっていくことになる。
このような「自分の役割さえやっていればいい」という意識=『職能意識』は、序列意識の末端形として存在しているが、企業の共同体化(指揮系統の撤廃)における最大の壁として目の前に迫っているように感じる。この壁を突破できるかどうかによって、企業の共同体化を推し進め高い成果を実現できるかどうかが決まるのではないだろうか。
(【企業の共同体化における大きな壁となりつつある『職能意識』】より抜粋)
【その他参考】
◎唯我独尊と事なかれ主義、その中軸は職能主義
◎「どうしたら成果を上げられるの?」の本質的な答え
◎思考の枠を取っ払ったら、「応えていく幅」は、無限に広がっていく☆.:*・゜
同じ組織の一員であっても、職能意識という殻に閉じこもっていては、活力も出ないし成果も上がらない。近年、どこの会社でも活力不全に陥る社員が多数存在しており、企業内カウンセラーを設置するような動きすら出始めていますが、実は最も本質的な部分を見落としているのではないかと感じます。
それは、私権から共認へと時代転換している事実に気付かないままに、私権序列のままで組織運営を行なっているという体制問題そのものがもたらす弊害なのかもしれません。
では、専門分化体制の中で高度な専門技術を磨きながら、一方で職能意識を廃した組織運営に取り組むにはどうしたら良いのか?
この一見矛盾しそうな方針を両立させた生産活動の実態に焦点を充ててみましょう。
■末端まで貫く外圧を掌握し、組織全体で役割を共認する為の様々な生産活動
1.専門房と物件チーム
1-1)専門房
専門分化体制の単位部門を「房」と呼んでいます。ひとつの房は、概ね3~8人くらいで構成され、これを「専門房」と呼んでいます。
先に紹介した通り、専門房の特徴は、建築の部位もしくは分野ごとに房が割り当てられている点です。たとえば、建築の意匠設計ならば、外装・開口・内装・外構造園という具合に建築の部位に応じて専門房が置かれます。外装房なら防水(雨水)や防風・防音等の性質を深く追求しますし、開口なら窓や扉の性能を深く追求します。外部系は主に対自然外圧に対して要求される性能、内部系は主に施設用途ごとに求められる機能性の追究など、自然の摂理を対象化しながら、各分野ごとのスペシャリストを目指して日々の業務に取り組みます。
1-2)物件チーム
物件チームとは、“プロジェクトチーム”と呼んだ方が通りが良いかもしれません。建築設計の場合は、ひとつの建物の設計に携わるチームということになります。この物件チームに専門房が結集しています。各物件のチームを統合するのが、プロデューサーとディレクターの役割。ここで上位課題を構造的に整理して、実現基盤が発掘された段階で、各専門房に具体的な課題や役割が割り振られます。
類設計室の場合、一時期に複数のプロジェクトが同時進行していますから、専門房は色々な物件チームに同時並行的に関ることになります。
1-3)物件運営・・・課題と時間
建築の設計は、時間がかかります。その一方で、必要以上に時間をかければより良い設計が出来るかというと、そうでもありません。短時間で最適な答えを導くのがスペシャリストの仕事。そのために専門房があります。
各専門房は、物件ごとに異なる自然条件やお客様のご要望を整理して、課題を設定します。そして、その課題をクリアするのに、どれくらい時間がかかるのかを予測します。期限内に、どのような流れで答えを出していくか、スケジュールを立てるわけです。
1-4)物件運営・・・採算管理
設計業の採算は、究極的には「時間」です。無駄な作業をせず、手戻りをなくし、短時間で効率よく最適解を導けば、採算が良くなります(この反対をやらかすと採算が悪化します)。類設計室では、この採算管理を物件チームが自主管理します。
月ごとに、クリアした課題と残課題を明らかにして、目標の採算に乗っているかを検証します。期限の圧力と成果の圧力だけでなく、採算の良否も圧力として捉えて、物件チームで共認し自主管理していくわけです。
1-5)房運営・・・組織課題
房の運営は、キャップ(リーダー)を中心に行われます。キャップは、複数の物件チームにまたがる設計課題を掌握するだけでなく、人材育成課題、経営課題も担います。具体的には、上記の物件運営とリンクして、月ごとに房の状況を洗い出します。
物件課題の成果、採算の状況、メンバーの活力、成長度合いや悩み事・・・これらを総合的に検証し、最適な運営方針を立案します。類設計室では、これを房実績予測と呼んでいます。
実績予測は、設計課題ではありません。通常であれば、限られた上級職が管理する経営課題であり組織課題です。これを房(単位部門)が自主管理でやっているところがポイント。組織を自分達のものとして捉えているからこそ、そこに注力できるといえます。
1-6)現業課題と組織課題・・・あわせてひとつ
サラリーマンは通常、お金を生み出す課題(現業課題)だけに没頭します。「お前はそれだけやっていろ」と経営者から言われていたりして、ある意味で仕方のないことかもしれません。しかし、その結果生じるのが“自分の仕事だけやっていれば良い”という「職能意識」です。エンジニア的な理系集団(=設計組織)は、特に職能意識に陥りやすく、その結果、企業の意思と社員の意思が分断されて、様々な問題を引き起こします。
この問題を解消する方法。それが、ここで述べさせていただいた内容です。簡潔に申し上げると「自主管理(=組織管理)」の視点を持つことです。現業課題、経営課題、人材育成課題などを垣根なく皆で担うやり方です。
例えば、各物件ごとの課題抽出は上述したようにディレクターが主に担いますが、キャップは単に指示通りに動けば良いという訳ではありません。ディレクターを通じて施主の期待を的確に掴み、それをスタッフに伝える。あるいは、スタッフの能力を伸ばすために、ディレクターと調整しながら「期待課題」を割り振っていく等。共同体の一員として、常に『みんなの力になる』事を規範に添えて、全員が業務に取り組んでいます。
このように、一つのプロジェクトを通じて、施主の期待に応える事を軸として、成員みんなで企業を取り巻く外圧を捉え、日々の活動を数字に置き換えて積み上げながら、実績予測システムという『事実の共認』を羅針盤にして組織運営が成されています。こういった日々の業務実態やそこから導き出される実績も含めて全情報が常にオープンにされている事で、誰もが「今自分の置かれている状況」を看取し、「今やるべき事」を見失う事無く業務に取り組めるようになるのです。
また、このように見てみると実に多くの摺り合わせ事項が実際にある事が解りますが、膨大な情報のやり取りをブレなく取扱う上でも、社内ネットを活用した日々の情報共有が重要な核となる事もお解り頂けるかと思います。
しかし、実は類グループには上記以外にも様々な活動の場=社員全員が主役となって活躍できる場が生み出されています。次回は、現業以外の活動にも焦点を当てていきますので、お楽しみに
- posted by asato at : 15:43 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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