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2021年07月29日

「微生物学の父」と呼ばれる織物商人

コロナ禍により、私たちの周りにはウィルスや微生物など目に見えないもので溢れていて、時にそれに振り回されてしまうことを痛感しました。地球から見れば私たち人類の方が新参者ですが、人類はこの目に見えないものを一体どうやって発見したのでしょうか?

まず肉眼では見えないものは、皆さんも理科の授業で使ったことのある顕微鏡でしか見ることはできません。つまり顕微鏡こそがこのミクロの世界の入口になっています。だとしたら、この専門分野を研究する上で必要に迫られて、高度な顕微鏡が開発された、と考えがちですが、実際に開発した人は、大学に勤める研究者でもなければ、大学教育を受けた知識人でもありません。

実は微生物を最初に観察したのは、オランダに住むアントニ・ファン・レーウェンフックという名の織物を扱う商人。彼は、自ら顕微鏡を開発し、様々なサンプルを観察することで、それまで誰も見たことのない世界を覗き見できたのです。

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写真はコチラからお借りしました

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彼の自作顕微鏡は、凡そ5㎝×2.5㎝の小さな金属板に直径1㎜の極小レンズをはめ込んだシンプルなものでしたが、精度の良いものは凡そ250倍以上の倍率をもっていました。織物商が生地の質を見るときに使うルーペがその始まりだったと考えられています。レーウェンフックが顕微鏡を使って微生物を観察していたのは、実に1670年代のことであり、日本なら江戸時代の初期にあたります。

彼は雨水にわいた微生物や、歯についた歯垢にいる微生物を観察したり、精液に精子が含まれていることを観察したり、さらには赤血球を観察したりしたのです。これらの観察結果の中に今でいう原核生物が含まれていました。これは微生物学において画期的な発見でしたが、彼の功績はそれらに止まりません。

今でこそ、全ての生物には親がいて子が生まれると分かっています。そうでなければばい菌やカビのように分裂して増える。ゼロから生物が生まれることはない、のは常識です。しかし当時は、肉などが腐ってウジが湧くのは自然に発生するからだと考えられていました。当時「下等」とされた生き物は「無」から突然誕生するのだと理解されていたのです。

レーウェンフックはウジやノミも卵から生まれることを顕微鏡で観察し、生き物が例え「下等」であっても無から生まれるわけではないことを示しました。それがきちんと実験的に証明されたのは19世紀に入ってからでしたが、レーウェンフックも観察によって生き物がどうやって誕生するのかという理解の進展に貢献していたのです。

レーウェンフックは、当時最も権威のある科学協会のロンドン王立協会へミクロの世界の観察記録を提出し、その功績を認められたのですが、研究者として生計を立てることはありませんでした。彼は織物商の他にも役人、ワイン計量士などをして暮らしていました。
では何のためにレーウェンフックは苦労を重ねて高解像度の顕微鏡を自作し、ミクロの世界を観察し続けたのでしょうか?

「それが何の役に立つのですか?」という質問には興味がありません

これがレーウェンフックの答え。
当時はバリバリの私権時代。金儲けにつながらないことには誰も興味を持たない。実際、最初のうちこそ、レーウェンフックの発見に世間は注目したものの、次第に人々の関心は薄れていきます。「世界は微生物で溢れている、だから何?」
学者たちの間でさえ微生物の存在は忘れられていき、1730年代に全ての生物の分類化に取り組んでいたスウェーデンの生物学者カール・フォン・リンネも、気に留めるほどのものではないと言わんばかりに、レーウェンフックの微小動物をひとまとめに「蠕虫(ミミズのようなもの)綱カオス(秩序のないもの)属」に押し込んでしまったのです。

レーウェンフックはただ「見てみたかったから作ってみた」。専門家では辿り着けなかった未知の世界を切り拓いたのは、私権欠乏ではなく素人の根源的な飽くなき好奇心だったのです。

※参考資料:「京大式へんな生き物の授業」(神川龍馬著:朝日新聞出版)

 

 

 

 

 

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