2011年07月30日
時流探索 ~社員全員で「企業理念」をつくった会社 ナガノトマトの取り組み~
2005年、長野県に本社のある食料品メーカー・ナガノトマトに新社長が就任しました。中村仁氏です。
【主力商品のトマトケチャップ 同社HPより】
「経営には数字の伸長だけではない、何か、がある」
「理念を、みんなで議論し、再確認し、共有化することが企業活動に必要不可欠だ」
すでに2つの会社で企業の再建に取り組んできた彼には、企業経営にあたってこのような確信と熱い想いがありました。
今回の時流探索は、そんな彼の想いが社員全員に浸透し、実を結ぶまでを記録した「500人の会社が劇的に変わる瞬間」(きこ書房・中村仁著、以下「同書」)をご紹介しつつ、共同体的企業における企業理念のあり方について考えてみます。
ナガノトマトって、どんな会社?
長野県と言えば同じく共同体的経営で有名な「伊那食品工業」がありますが、このナガノトマトも老舗の部類に入る地元では有名な企業の一つです。実は、大阪で有名なオムライス店「北極星」でも同社のトマトケチャップが使われているんです☆
同社の沿革を見ると、
1940年 創業
1957年 長野トマト株式会社を設立
1959年 日本初の無着色トマトケチャップ発売
1976年 麒麟麦酒(現・キリンHD)と業務提携
1995年 株式会社ナガノトマトに社名変更
2006年 企業理念を策定
2010年 MBOによりキリンHDから離脱
このように現在は、2010年キリンHDによる事業再編の流れの中で、新経営陣による自社買収(MBO)という形で従業員112名の会社に落ち着きましたが、中村氏が着任した2005年当時、同社はまさに時代の荒波の中にありました。
「八〇年の歴史がある老舗でしたが、そのぶん工場設備や社屋の老朽化がかなり進んでいました。会社の売上は伸びているのに利益額は一定の幅の中で上下しているという状態だったのです。(中略)加えて雇用環境の変化、日本の食料業界で多発する不祥事に表われているモラルの問題、食品業界を支える農業の衰退など、対応していかなければならない課題が山積みでした。」(P3)
なぜ社員全員で企業理念をつくったのか?
それは、中村氏の以下のような想いから始まりました。
「自社に存在する遺伝子が何かを探し、それを『理念の柱』にして『理念』を再構築したい。私のこの想いは、社内変革の柱でした。」
「当然のことながら『経営理念』や『行動規範』は存在していました。しかしながら、日々の仕事のなかで、理念や規範が引き合いに出されることは特にありませんでした。まれに改定も行われてはいましたが、実際その内容を覚えている社員はごく少ないのが現状だったのです。」
「『経営理念』はトップダウンで生み出されますが、企業理念はそれと大きく異なって、社員全員の共同思考から生み出されるというわけです。」
「さらに、企業理念は、社内だけでなく社内外両面へ、『この会社はなんのために存在するのか』を発信する役割が要請されています。その役割は、『経営理念』より一層大きなものであり、時代の移り変わりのなかで、ますます大きくなっているのです。」(P28~P32)
どうやって企業理念を作ったのか?
ナガノトマトに、本当の意味での「企業理念」が生まれるまで、社内では1年と数ヶ月にもおよぶすり合わせが行われました。
【同社HPより】
①ナガノトマトの価値って何だろう?
2005年4月~10月
まずは部門長、経営陣で「理念」の検討会を立ち上げ、日常業務とは一風異なるこの種の議論について共認をはかった。
②みんなで語ろう
2005年7月~10月
「残しておきたいところ」「変えていきたいところ」など、10~15人の会議「社員ワイガヤ」で社員全員の想いを棚卸し。
③ナガノトマトが大切にしたいことって何だろう?
2005年11月~2006年4月
部門長、経営陣、社員から出た意見を踏まえて、様々な部署メンバーで構成される理念検討チーム「ビジョナリーカンパニーチーム」で検討を重ねた。
④皆さんはどう思う?
2006年2月~3月
ビジョナリーカンパニーチームで考えた理念案について、各職場毎の会議「職場ワイガヤ」で意見を聞いた。全社員が参加。
⑤想いがまとまってきた!
2006年4月
職場ワイガヤの意見を取り入れて、仕事が終わった時間に有志が再度理念案をとりまとめ。
⑥完成!理念発表会
2006年6月10日
そして遂に企業理念が完成しました。
↓↓↓
【私たちの使命】
おいしさと健康をお届けし、すべての人々と感動と喜びを分かち合う
【私たちの行動】
もっと誇れる会社にしよう
■誠実でいよう
社会に感謝の気持ちを持って、誠実な行動を実践します
■品質を追求しよう
全ての人々に信頼され、満足いただける品質を追求します
■思いやりをもとう
人との温かいつながりと思いやりを持った行動を実践します
■本気でやろう
とことん本気で取り組み、常に挑戦しつづけます
※策定時の社内風景はこちら⇒同社HP
これらの企業理念とは、実際言葉にしてみると「当たり前」であり、「普遍的」なものです。でも、あるいはだからこそ、そんな「当たり前」が社内に浸透し、肉体化できている社員がたくさんいる企業は強いのだと思います。
理念ができてどう変わったか?
以下、同社で理念の検討したときに最初から加わった社員(Zさん)の声を引用します。
「理念という言葉は、いまでは世間でも当たり前です。でも、私はその頃は、大企業だけがもつものであり、『何それ?』というのが正直な気持ちでした。
しかし、当社の理念構築のプロセスを体験していった結果、出来上がった理念は、自分が仕事をしていくうえで大黒柱のような存在になっています。理念に支えられながら、日々の行動をしてきたのです。もし理念がなければ、全員が自分の思うように解釈をし、各々が別の方向に進んでしまっていたでしょう。 私は、当社はただ製品を製造しているのではなく、理念が生きている商品を製造しているのだ、だから私たちの商品の一部である包材も理念が生きた包材でなければいけない、と資材メーカーに訴えてきました。
すると、取引相手も、『いろいろな食品会社と取引があるが、御社のように本当にお客様のことを真剣に考えている会社はない。ファンです!』と言ってくださるようになりました。
この理念がなければ、きっと普通の食品会社、ただそれだけだったと思うほどになっています」(P81)
このほかにも、「困ったときのよりどころになっている」「理念を意識して新商品を決定する」「製品は絶対に安心できるものに、という意識が向上」「立場に関係なく判断の基準が大きくぶれない気がします」といった変化が同社に生まれたそうです。
理念の樹の成長イメージ
もちろん理念は作るだけでは意味がありません。「おのおのの心の中に理念が入り込んで行動に置き換える、と同時に、企業風土の基盤にならなくてはならない」(中村氏)。
以下、理念の「樹」を成長させていく上で必要となる、全社共通の指針としての「四つの質」と、特に経営者に必要となる「四つの視点」を図示したものです(P189~P190)。
【苗木】
理念に根ざした会社作りのプロセスには、添え木のような全社共通の指針が必要
↓↓
【成長期】
さらに経営者には、企業理念を強化するためさらに4つの視点が必要
↓↓
【成熟期】
大地に根を張った幹の太い大きな樹=会社への成長
なぜ企業には理念が必要なのか?
中村氏は企業の成長を「理念の樹」に例えていますが、この理念の位置づけは生命原理で捉えるとよくわかります。
人間の意識の構造は、本能・共認(心)・観念(頭)の三位一体の構造で捉えることができます。人間は自然外圧のみならず、同じ人間からの同類圧力も含めた外圧状況に適応するために、これら本能機能、共認(共に認め、充足する)機能、観念(言葉)機能をフルに活用しつつ生きています(意識が統合されています)。
それは、企業における統合も同じで、
○本能の位相 :個々の社員が食べていくために、労働の対価を得ているレベル
○共認の位相 :会話やおしゃべりしたりして、想いをすり合わせるレベル
○観念の位相 :想いを言葉にして固定するレベル
が存在しており、特に大きな集団になればなるほど、観念(言葉)の位相での統合が不可欠になります。
でないと社員の想いがバラバラのまま統合されず、不全・不満が蔓延して、結果として成果を落としていくことになります。だから、企業統合においては、特に状況が見えにくい大きな変化がおきている時代には、理念のすり合わせが大切になり、これが企業の成否につながるのだと思います。
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今回、このナガノトマトの「物語」を読んで、「会社は『理念』で変わることができるんだ!」ということを実感できました。
最後に同書から営業部門の女性の言葉を引用します。
「以前企業理念の作成に携わったメンバーと話す機会があり、『今でも企業理念を作成したときのことを思うと、気持ちが込み上げて涙がでるよ』とおっしゃっていました。私が入社したときには、当たり前のように理念があったので、はじめはなかなか想いは伝わらなかったのですが、その話を聞いたときは理念ってただあるだけではなくて、社員の気持ちが詰まった宝物なんだなって実感しました。」
以上、社員全員で「企業理念」をつくった会社・ナガノトマトの取り組みをご紹介させて頂きました。
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- posted by seiichi at : 18:35 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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