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2011年10月06日

本来の年功序列 ~西島株式会社の共同体性~


皆さんこんにちは
・・・突然ですが、「定年退職」って必要だと思いますか?
社会通念上は「一定の年齢に達したら職場から引退すること」なのだと思います。でも、見方を変えれば、定年は、身分や肩書きが力を持つ「序列制度」に、なくてはならないものだと思えてきます。
序列上位のポストに同じ人が長年居座っていたら、下位の人が登っていけません 。序列上位を弾き出すことによって、玉突き的に序列下位の人にポストを分け与える。そうすることで、年齢に応じた身分や肩書が分配されて「年功序列」が形成されるわけです。定年制度は、その原動力になっているとみなせます。
しかし、年齡と共に給与も高くなり、身分相応の組織管理能力も身に付いて行く、というのは果たして普遍的な構造と言えるのでしょうか?この、一見当り前のように見える組織形態に大きな波紋を投げかけてくれる企業があります。管理職に必要とされる能力、現場での新人指導に求められる能力等、組織力を高める為には適材適所が勿論ありますが、今回紹介する企業は、共同体的年功序列制度とでも言うべき、すぐれた人材配置を行い、定年制度を設立当初から撤廃し続けてきた、「西島株式会社」です。

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「モノづくりは人づくり」~熟練工の存在~☆

西島株式会社(以下:「西島」と呼ばせていただきます)は、愛知県豊橋市にある工作機械メーカー
従業員数140名の中小企業です。主要取引先はトヨタ自動車、日産自動車などそうそうたる大企業。それだけに高い技術力が求められるわけですが、そこを支える重要な基盤となっているのが「熟練工」です。
西島は、素晴らしい技能を持った熟練工を擁しており、中には「愛知の名工」に任じられた人もいます。この方の年齢は70歳を越えています。・・・そう、西島には定年がないのです
西島は「人材は宝」という確たる理念の元、不況期であっても決して人員整理しない方針を貫き、今日まで成果を上げてきました。高齢に達したことによる退職は、社員自らが決める自己申告制。週5日間8時から17時まで8時間働けることが条件で、それがしんどくなったらリタイアするというもの。普通の会社であれば、定年まであと何年という意識で働きますが、同社では元気なうちはいくらでも働けるのです。



「モノづくりは人づくりです。人が育たない、あるいは人が続かない社風では、モノづくりも、会社も続かない。ウチのような製造業には、ベテランの経験や技術は欠かせないんです。ベテランたちも、若手から頼りにされることでやる気になる。そのやりがいや責任感って、会社にとっても、ものすごく大きなパワーなんですよ。高齢者雇用のコツは、若手社員の教育と理解にあると思いますね」(西島社長の言葉)

定年後のことを考えて逃げに入っているベテランは、若手から信頼されません。西島のベテランが若手から頼りにされるというのは、評価の現れ。熟練工が60歳を越えてなお活力をもって働けるのは、そこに明確な課題・期待・役割・評価があるからに違いありません
技術の継承 ~“技能と経験”という評価軸の固定~☆
西島では熟練工の技能が重要視されています。しかし、その技能を若手に継承していかなくては、会社として永続できません。若手育成・・・どの会社にも共通する大変重要な課題です

西島は、熟練工の経験や技能を若手従業員に伝承することを重要な経営課題と位置付けている。
同社では、熟練工一人に2~3人の若手従業員を付けて技能を学んでもらうというOJT(On-the-Job Training)を通じて、技能の伝承を進めている。熟練工に割り当てる若手従業員を選定するにあたっては、相性や適性、素質などを見極めている。OJTの期間はさまざまだが、一つの工程をマスターするまでに5年以上かかることもあるという。技術について信頼できる相談相手がそばにいることが、若手従業員が技能を習得するためには極めて重要だという。
他方、技能伝承を円滑に行うためには、学ぼうという強い意欲を若手従業員がもつことが不可欠である。そこで、西島社長は、「技能や経験をもっていないと高齢者になったとき働けない、そうした技能や経験を身に付ければ自分の存在価値を高められる」ということを若手従業員に説いている。さらに、技能資格を取得した場合には要した費用の全額を会社が支給するなど、技能を学ぶことを金銭的にも支援する制度も導入している。

西島社長の「技能や経験をもっていないと高齢者になったとき働けない」という言葉。一見すると当たり前に聞こえます。しかし、これは「身分や肩書きの否定」であり「役所的な年功序列の否定」と読み取れます。西島社長は、若手社員に対して「わが社では、技能や経験が評価軸。身分や肩書きにあぐらをかくのは許さない。技能習得に励みなさい」と言っているのです。若手が技能習得をしようと努力したことに対して、会社が全面的に支援するという制度は、その現れでしょう。
人材配置 ~若手が管理職・ベテランが現場という発想の転換~☆
西島は、特徴的な人材配置を採用しています。それは「若手が管理職・ベテランが現場」という人材配置です。

「当社では20・30代で課長、40・50代で部長職をやってもらいます。課長は若い世代に近いから部下も話しやすい。ベテランと若手の橋渡し役も務めてもらいます。ただし、机に座って『おまえら、やっとけ』では駄目。自分も現場で油にまみれて、しかも、部下より難しい仕事ができなければいけない。設計も電気回路も、組み立ても加工もこなす。そうすることで、ベテランも若手も、その人間についてくる。そこに強いリーダーシップが生まれてくるんですよ」(西島社長の話)

前述の「技能と経験が評価軸」を実践しつつ、若い世代に管理職を任せるという人材配置。これには大胆な発想の転換が必要と思います。しかし、その分、会社として大きなメリットが得られると思います。
まず、「若い頃から経営感覚を身につける ということ。管理職は、現在の会社が置かれた状況を俯瞰しつつ、所属するの部課ひいては会社全体のことを考えて指揮・指導をしなければ勤まりません。西島社長が「リーダーシップ」と仰っているなかには、会社全体を俯瞰する能力も含まれるでしょう。若いうちから、会社の皆のことを考える人材を育成するわけです。
つぎに、50歳以上の管理職が現場に戻ってくることのメリットです。
西島のベテランは、前述のように、管理職にあった間も技能習得を休まず続けた人たち。経営感覚を身につけ、かつ、熟練工に達したベテランが現場に帰ってくるのです。これはなかなかすごい。
「技能と経験が評価軸」である西島のベテランは、身分や肩書きにあぐらをかきません。現場に戻ってからは、重要な工程を期待され任されます。一方、若手にしてみると、経営感覚を含めた幅広い経験をもつ熟練工は、単なる技能オタクではありません。まさに多能工です。絶大な評価の対象であり、自然と師として見習うようになるでしょう。結果として、現場に戻ったベテランには、後進の育成という期待と役割が自然と生まれているのだと思います。
不況を乗り越える力 ~「若手が管理職・ベテランが現場」が力になった具体例~☆
90年代、バブル崩壊により自動車業界の設備投資が大きく落ち込みます。当時、取引のほとんどが自動車関連企業で占められていた西島は、売上半減の打撃を受けます。まさに倒産の危機です。このとき、「若手が管理職・ベテランが現場」の人材配置が功を奏しました。

しかし当時、バブル崩壊の影響で売り上げは激減し、危機に瀕していました。
そんなおり、“菊の花を自動的に束ねる機械”を作れないか?という話しが舞い込んで来ました。
実は、西島がある愛知県豊橋市一帯は昔から菊の栽培が盛んな地域。中でも有名なのが夜間に照明をあてる「電照菊(でんしょうぎく)」です。花が咲く時期をずらして1年中収穫できるため、愛知県は年間5億本もの菊を収穫できる日本一の産地。菊を収穫するには、葉を取ったり、茎を束ねたりしなければなりません。当時はそのほとんどが手作業。夜なべ仕事に追われる農家を救ってほしい、というのです。
「自動車以外に進出する良い機会かもしれない。他の分野でも我々の経験が活かせるはずだ。」そう考えた西島さんは開発を決意します。
しかし、菊は生き物。一本一本の太さや硬さが違います。開発では葉を削り取る力が強すぎて茎を傷つけたり、逆に弱すぎて葉が取れない、という苦労の連続。いったいどれくらいの力で削ればよいのか?
開発は暗礁に乗り上げていたその時、あるベテランの職人がこう言いました。「葉っぱを削り取る力を0.05ニュートンにしたらどうだい。」早速試してみたところ、完璧でした。ベテラン社員のこの一言で、後に会社を救うことになります。
(中略)
この機械は100台以上売れて、15億円を売り上げました。それは当時の年間の売り上げの半分近くを稼いだといいます。

バブル期以降、西島は、自動車関連企業以外に活路を見出す市場開拓を行っていきます。この時に活躍したのは管理職として営業の役割も担う若手。彼らは、次に訪れた大不況=リーマンショックの折にも医療、建設、航空分野などへの市場開拓を積極的に行い、それを乗り越える原動力となったのです。(今では、西島の売上げの4~3割りは自動車関連企業以外の分野になっています。)
若手の活力が新規市場を開拓し、ベテランの技能と経験が技術開発を支える。「若手が管理職・ベテランが現場」の人材配置が功を奏して倒産の危機が回避されました。
                             
まとめ ~既存の序列制度にとらわれない共同体性、それが西島の強さ~☆
これまで見てきたように、西島には特徴的な面があります。「定年がない」ことだけでも特徴的で、よく語られているのですが、本質はそこではないと思います。
西島社長の「モノづくりは人づくり」という言葉からは、人材に対する大きな期待を感じることが出来ます。
事実、西島で働く皆さんは、信頼や期待を受けて、若い頃は管理職を任されながら技能習得に勤しみ、歳をとったら重要な工程と若手の育成に励む(サボる暇なんてありません)。工作機械の製造という大きな課題に対して、皆に明確な役割が与えられているわけです。そして、これらは「技能と経験」という評価軸に貫かれている。
課題・期待・役割・評価は、それが明確であるほど皆の活力につながるもの。そこが上手くいっている西島では、高齢に達しても活力が維持され、結果として、定年など必要なくなるのでしょう。
このように西島を見ていくと、そこには、日本古来の村落共同体と共通する側面があると思えてきました。

若い頃から集団の組織的役割を担うのは、村落共同体では当たり前でした。村のために働くことで、自己中心的な行動は抑えられ、村のことを考える人材が育ちます。そして、歳をとり、皆の評価が得られるようになると、重ねた経験を元に、長老的な立場で知恵や教えを伝承する。そこには、身分や肩書きもなく、役所的な年功序列もありません。あるのは、課題・期待・役割・評価。皆の評価によって年配者の立場が自ずと決るので、役所的な年功序列など必要ないのです。

西島の特徴は、村落共同体に通ずるころが多くあります。意図的に共同体性を持たせる経営方針をとったわけではないでしょうが、自然とそのようになっている。西島の経営は、既存の身分や肩書き(序列制度)や年功序列にとらわれず、日本人に染み付いた共同体性を生かしたもの。いわば、共同体的年功序列制度といえるものです。ここに、不況にも負けない西島の強さがあるのだと思いました。
いかがでしょうか?
参考:
西島株式会社 ホームページ
企業が変えてはいけないもの
「モノづくりは人づくり」を実践する定年のない会社
人材重視の経営 [西島]
西島株式会社 ~熟練工の技能を生かして新分野に進出~(PDF)

 

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