2011年12月14日
七福醸造株式会社~『日本で一番心の豊かな会社』であり続ける~
今回ご紹介 するのは、小麦を材料にした白醤油にだしを入れた「白だし醤油」でトップシェアを誇る醤油メーカー、七福醸造。『日本で一番心の豊かな会社』であり続けるため、同社では本業以外に、実に様々な活動を展開されています。例えば、
三河湾チャリティー100km歩け歩け大会
ありがとうの里(工場見学)
環境への取り組み(早朝環境会議、沙漠緑化など)
さらに注目は、社員の方々が運営しているブログ 。
更新頻度も高く、イキイキ した仕事振りが伝わってきます。
七福醸造 ”鬼”の営業部長・岡本ブログ
味とこころネット事業部ブログ
あっこ店長のブログ
いずれも社員さんの自主性、サービス精神の旺盛さがとても伝わってくる内容ですが、こうしたモチベーションの高さはどうやって生み出されているのでしょうか
調べてみると、同社が乗り越えてきた数々の逆境の歴史、経営者の本気度、このあたりにヒントがあるように思えました。
七福醸造は70年代、好景気の波に乗り業績急拡大 、しかし過剰投資がたたって資金繰りに窮し、倒産の危機 に瀕したそうです。この事態を救ったヒット商品が他ならぬ「白だし醤油」なのですが、この時経営者である犬塚氏は、「社員達に、二度とあんな思いをさせたくない。社員が将来に希望を持てる会社にしなければ駄目だ」と心に堅く誓ったそうです。
そんな犬塚に、運命を変える「ある人」との出会いが訪れる。経営コンサルタントの一倉定さだむだった。求道者の真剣さを漂わせた一倉は、講演会の壇上で、こう力説した。
「社長が自社の未来像を明示せずに、どうして社員が希望を持てようか。社員の最大の不安はここにあり、それを取り除くことが社長の役割。いわば、電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、すべて社長の責任なのだ」
ショックだった。犬塚は、それまでの自分を鑑みて、場当たり的な経営しかやってこなかったことを悔いた。中小企業はビジョンなど描けない、と思っていたが、それは自分が浅はかなだけだった。
自己研鑽に目覚めた犬塚は、その後、一倉の指導を仰ぐようになった。しかし、どんなビジョンを描けば、社員に誇りを持ってもらえる会社を作れるのだろうか。きっとそれは、お金で買えない、もっと大切なものに違いない。
答えがひらめいたのは、環境問題に取り組む「地球村」代表の高木善之の講演を聴いた時だった。
オゾン層破壊による温暖化、砂漠化が進む大陸。今、地球が置かれている現実を切々と語る高木の言葉に、犬塚は強い衝撃を覚えた。自分もぜひ、この活動に加わりたい。そして、社員達に「うちの会社はこんな素晴らしいことをやっているんだ」と自慢してもらいたい。
以後、犬塚氏は様々な環境活動に取り組み始め、社員達を積極的に巻き込もうとしていきます。例えば内モンゴル砂漠の植林活動においては、毎年社員を連れて現地へ赴いていました。
「あの荒涼たる砂漠が、人間の努力で緑に変わっていく様を見た社員は、限りある資源の大切さを痛感し、『自分たちも何かしなければ』と思うようになる」
「社員全員を同志にしたい 」という想いが、犬塚氏を衝き動かしていたのではないでしょうか。それでも一方では、
「社長の言っていることはきれい事に過ぎない 」
という考えがまだ一部の社員の中にはあったようです。
しかし95年、転機 が訪れます。
それを一掃したのが、95年1月17日の阪神・淡路大震災だった。マグニチュード7の直下型大地震の惨状が伝わると、犬塚はすぐさま行動を開始した。2tトラックを運転して現地に駆けつけ、炊き出しを始めたのだ。社員も同行させた。「七福醸造の名では、ただの宣伝行為になってしまう」と、「西三河救援隊」を名乗った。
それは、来る日も来る日も続けられた。社員達は、なんとか仕事をやりくりして、入れ替わり立ち替わり応援に駆けつけた。一日に提供された食事は3000食にも及んだ。
最初に音を上げたのは、犬塚でも社員達でもなく、経理担当の幹部だった。
「社長。このままでは会社が潰れてしまいます! もう炊き出しはやめてください」
すると、犬塚は、穏やかな表情で言った。
「まだ倒産していないのだから大丈夫。被災地の人達に比べたら、私達は恵まれているんだ。恵まれている人が恵まれていない人を助けるのは、当たり前の事だろう?」
「社長は本気だ。」
その幹部はこの時、そう感じたと言う。彼女は自分の心の狭さを恥じ、次の日から、自ら軽トラックを運転して近隣の農家や精肉店などを駆け回った。食材調達役を買って出たのだ。
こうして社員達による救援活動は、38日間、1200万円をつぎ込むまで続けられた。被災者達は、食事を受け取る度に社員の手を取り、「ありがとう」を繰り返した。ある社員は、当時の体験をこう話す。
「今、思えば、私達が被災者の方々を助けたのではなく、私達が彼らに、人の心の温かさを教えてもらった。思い出すだけで涙が出てきます」
阪神大震災の体験は、七福醸造の社員達を生まれ変わらせた。犬塚は言う。
「あの支援事業によって、『人様のお役に立てる会社を作りたいんだ』という私の真意を、社員が汲み取ってくれました。あれで会社が、本当の意味で成長した気がします」
七福醸造の社員は、慈善活動から学んだ気付きの精神を、本業でも生かしている。例えば、通信販売で商品を購入してもらった顧客に、社員達は、絵を添えた手書きの手紙を送る。
「○○様 この度はうれしいご用命をありがとうございます。先日、お電話でお話した時はお風邪のようでしたが、回復されたでしょうか。寒い冬は、あったか料理で心も体もほっこりしたいですね」
こんな手紙に感動し、「七福ファン」になる顧客も少なくない。
犬塚が実践してきた慈善活動の意義は、実はここにある。当たり前のことを当たり前にできる“気付きの深い人間”を育てること。それが、犬塚にとっての喜びであり、経営者としての醍醐味なのだ。
「利益を差し置くとは言語道断」と、犬塚を異端視する経営者もいることだろう。しかし、七福醸造が、こうした活動を通して質の高い人材を育成することに成功し、業績を上げていることも事実だ。
「慈善活動は、余裕があるからやるのではなく、たくさんの方々に喜んでいただけるから『やりたい』のです。社員のモチベーションを高める方法はただ一つ。自分達の会社が、皆に喜ばれる会社であるかどうかということです。私も、そのことにやっと気付きました。利益追求から脱却するとね、経営が楽しくなるんですよ」
充足いっぱい の七福醸造さんですが、その背後には、社長の想い、本気度がみんなに伝播し、本気の集団に生まれ変わっていくことで逆境を乗り越えてきた歴史があります。
『自分達の会社が、皆に喜ばれる会社であるかどうか』
ここが活力の源泉であることを、七福醸造さんは体現されているのだな、と思いました。
- posted by taka at : 1:18 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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