☆ランキング☆
にほんブログ村 経営ブログへ

最新記事一覧

最新コメント

最新トラックバック

2012年08月14日

日本の農業の可能性はどこにあるのか?(中編)

%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%99%E3%83%84%E7%95%91120813.jpg
「日本の農業の可能性はどこにあるのか?」前編(リンク)では「儲からない農業経営の実態とその原因」「農業政策の方向性と壁」「農産物の貿易自由化(TPPなど)の問題」について扱いました。TPPについては政治課題ですが、このままいくと国家の基盤である農業の壊滅になりかねないこと、あるいは財政危機によって農業を守ることができなくなる可能性も高いことがわかりました。
一方で、補助金頼みの農業経営の実態はなんとかしないといけない課題です。農業は市場社会の中で他の産業と同列に扱えない生産行為なので助成金の投入は必要、ただし現在のような補助金頼みの経営は改革しなければいけません。
お上頼みではなく自力で農業の可能性を広げるためにも、また経済破局対策としても、農業が「生産体・経営体として自立」していくことは極めて重要な課題だと思います。
今回は、実際に農業で利益を上げ、経営を軌道に乗せている農業経営者に学びます。
なぜ彼らは利益を出すことができているのか、彼らの視点や取り組みに学び、農業の活路を見出していきます。

にほんブログ村 経営ブログへ


■「農業は儲からない」は本当か?
まず気づいたのは、勝っている農業者=生産体・経営体として自立できている農業者に共通するのは、「農業は儲からない」という固定観念にとらわれていないことです。

●「一人経営、売上1000万、経費率半分」のヒミツ 青木恒男リンク
%E9%9D%92%E6%9C%A8%E6%81%92%E7%94%B7.jpg「農業は儲からない」を疑ってみよう。「農業は仕事がきついわりに儲からない」という言葉がいつの間にか常識のようになってしまい、「儲からない職業には就けない」ということで後継者がいなくなり、気がつけば地域営農自体が成り立たなくなる寸前。このような農業の現状を打開するのによい方法はあるでしょうか?
「常識」は徹底的に疑ってみる、ということを栽培の基本にして、今後はさらに、自分ひとりでできる専業経営で、「ラクして儲ける農業」を追求していくつもりです。

●経営感覚をもった農家を育て「儲かる農業」をめざす異色の農業生産法人(有限会社トップリバー・社長 嶋崎秀樹)リンク
%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC120812.jpg
「農業は儲からない産業。補助金で農家を助けるしかない」という“常識”を真っ向から否定して、「儲かる農業」を標榜し、現実に収益を上げて注目を浴びている企業がある。長野県を拠点とするトップリバーだ。嶋崎社長が走り続けているのは、農業が「儲かる」産業であることを訴え、経営感覚をもった農家を育て、全国に増やしていくためである。「農業」と「儲かる」は相反するテーマではないかと思う人もいるだろうが、嶋崎社長は「普通の企業のように経営を行なえば十分利益が出る」と言う。実際、同社は2000年の設立以降、初年度を除き、ずっと単年度黒字を続け、昨年度の売上は12億円に達した。

●誇りと夢は、自らつかめ 農業経営者・木内博一(農事組合法人和郷園)リンク
 
木内たちの農家グループは、平均年齢30代前半の若い農家の集団だ。それでも、主要メンバーの年間の売上は全国平均の2倍以上、なかには1億円を超えるものもいる。市場を通さない野菜の出荷に加え、さまざまな事業に取り組み、その利益を元手にグループの農家の経営を安定させることに成功した。
新規事業を立ち上げる際に木内たちの考え方の出発点となっているのが、「”常識”を疑う」こと。従来の農家が”常識”としてきたことを見直し、本当にそれは正しいのかと疑い、もっと良い手立てがないかと模索する中から、木内たちはビジネスの種を見つけ出してきた。
木内たちの会社が立ち上げた事業による利益は、グループの農家の経営を安定させるだけではない。その利益を元手に、新しい農法の開発やこれまでにない野菜の栽培実験などにも挑戦。さらに、直営スーパーを都内に展開したり、海外事業に乗り出すなど新規ビジネスも積極的に開拓している。今、木内の最大の仕事は、農家の利益をさらに安定させるために新たな事業の開拓を行うことだ。

%E8%BE%B2%E4%BA%8B%E7%B5%84%E5%90%88%E6%B3%95%E4%BA%BA%E5%92%8C%E9%83%B7%E5%9C%921208121.jpg%E8%BE%B2%E4%BA%8B%7%B5%84%E5%90%88%E6%B3%95%E4%BA%BA%E5%92%8C%E9%83%B7%E5%9C%921208122.jpg
★共通するのは「常識を疑う」ということ、その背後にある「実現の意志」。何事もそうですが、○○できないのはしかたがない(儲からないのはしかたがない、不景気だからしかたがない、今までもそうだからしかたがないetc)といった敗北思考では何も実現しません。まずは「実現する気迫」が大事!ということだと思います。
次に、それぞれの経営の秘訣をもう少し詳しく見てみます。
■生産体・経営体として自立している農業者の事例
●事例1:三重県農家の青木恒男氏
・三重県伊勢平野の専業農家、一人経営。水稲5haと少量多品目のハウス野菜・花20aを中心に、売上ベースで約1000万円。経費率40~50%。花は農協と直売所、野菜は2~3カ所の直売所へほぼ年間出荷。
・一人あたりの売上規模、経費率の観点からも良好な経営状況。(農業は一般に経費率が高く、50%~70%にのぼるケースも少なくない)。ただしはじめからうまくいった訳ではなく、例えば最初のうちは、花の栽培で経費率が83%もかかりぜんぜん収益があがらず。しかし、試行錯誤の結果、経費率29%という大幅なコストダウンに成功。これにより所得7倍を実現。

%E9%9D%92%E6%9C%A8%E6%81%92%E7%94%B72.jpg
「100万円かかっていた経費を90万円に下げる」といった、引き算の“コストダウン”という常識は棄て、経営にしろ作物の栽培にしろ、必要なものだけを積み上げていく“ゼロから足し算するコスト”という発想に立つと、驚くほどムダが省けるのです。「作物が商品になるために必要なもの(こと)」を「必要な時に」「必要なだけ与える(行なう)」という「後補充生産」の考え方が重要です。「ほんとうに苗はこんなに必要なのか?」「肥料は必要なのか?」「土を耕すことは必要なのか?」といった、覆せそうにない基本を覆した時ほど効果は大きく現われるのです。野菜や花も元肥ゼロの「への字」栽培。追肥は安い単肥で十分。土はむやみに耕さずに不耕起・半不耕起を作物別に使い分け。農薬もほぼかけない。
※「一人経営、売上1000万、経費率半分」のヒミツリンク

●事例2:トップリバー
・2000年の設立以降、初年度を除き、ずっと単年度黒字を続け、売上は10億円以上。
・正社員は35名で、その半数が大卒。3年目以上の社員には年俸350万~650万円が支払われるが、農業経営を身につけたあと、独立を促される。
・農作業を行なうアルバイト55名は50~70歳の地元住民で、1人当たり年間100万円程度の収入を得る。農作業に人件費の安い外国人労働者を活用する農家は多いが、同社では一切、採用していない。
・同社の正社員には、農家出身者がいない。素人集団から出発した農業生産法人。嶋崎社長自身が、菓子メーカーの営業マンだった。自社生産の他、農家と契約して栽培を委託。管理する農地は契約農家の土地を含め約30万坪。レタスやキャベツ、ホウレンソウなどを生産。

儲かる「秘訣」の第一は、農協を通じた卸売市場ではなく、一般事業者を取引先にしていることだ。取引先は現在、50社ほどで、個別に契約栽培・販売を行なっている。ファミリーレストラン、ファストフード、コンビニエンスストア、野菜加工業者などの外食・中食関係が売上の7割を占め、残りはスーパーマーケット、生協などの小売業である。
卸売市場を通すと、売値が変動するので収益は安定しないが、契約栽培・販売では価格を事前に取り決めるので、相場に左右されない。納入数量も決まっているので、計画的に栽培でき、事前に生産コストもわかる。つまり、従来のどんぶり勘定の農業に企業経営の基本を持ち込んでいるのだ。もちろん、自然が相手であるだけに不測の事態は起きるが、仮に生産量が不足すれば、同社は売値より高くても市場から調達し納入する。嶋崎社長は損しても契約を守り、欠品を出さないことで取引先との信頼関係を築いてきた。
秘訣の第二は、自前の農地をもたないこと。農地はすべて農家から遊休農地を借りている。長年放置されたために雑草や灌木(かんぼく)が生い茂った土地を掘り起こし、耕してきた。農業機械も中古を手に入れ、ビニールハウスも農家から譲り受けて再
利用している。必要なもの以外はコストをかけない。これも一般企業では当たり前のことである。
秘訣の第三は、生産だけでなく「営業」にも力を入れること。嶋崎社長は生産が100の力だと仮定すると、営業・販売には200の力を注ぐという。生産技術はある程度のレベルまでいくと向上しにくくなるが、営業と販売は知恵とアイデア次第で他社と差をつけられる。
トップリバーでは現在、5名の営業担当がおり、顧客と生産者の間をつなぐコーディネーター役を担う。単なる御用聞きではなく、後述するように互いの利益を追求し、話し合いや工夫をするのが営業の役割だ。一方的な要求をする顧客とは取引を中止することもある。
「大半の生産者は営業・販売を農協と市場に頼り切っています。営業と販売を工夫すれば、儲かる農業が実現できるのに関心を向けようとしないのです」
※経営感覚をもった農家を育て「儲かる農業」をめざす異色の農業生産法人リンク(※2011年の記事)

%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC1208122.jpg%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC1208123.jpg

●事例3:和郷園
・農業組合法人和郷園(千葉県)、売上一次品20億、加工品30億円。92農家加盟、92農家の平均売上4000~5000万円。契約販売先50社以上(販売先の分散化1社当たり10%以下目標)
・特徴的な経営手法は、農業の協業と企業化。6次産業化(流通、産直、加工、商品化)。ITコントロール(営業成績、適時商品栽培、出荷)
・①販売事業部(営業方針)・・・消費者ニーズ、マーケットイン。和郷園ブランド、オーダー注文(産直)化。おいしい商品(有機栽培、高糖度トマト、新鮮野菜、食べやすい野菜、低農薬)。②加工事業部・・・カット野菜、冷凍工場。③環境事業部・・・土壌管理に施肥設定ソフト、JGAPの栽培管理、リサイクル100%(肥料、飼料、軽油等)。④サービス事業部。⑤フードサービス事業部。⑥生産事業部・・・標準農場管理、植物工場、減農薬管理。⑦海外事業部(海外輸出)
・和郷グループ関連企業。㈱OTENTO・・・東京、全国展開、アンテナショップ、惣菜専門店。㈱風土村(地域のコミュニティサービス・・・道の駅、地域産品の受け入れ)。らでぃしゅファーム和郷・・・宅配事業。㈱和・・・体験型農園(教育)、身障者雇用。アクスリー㈱・・・人材派遣会社。ユニティ・・・惣菜加工、米粉パン、チーズケーキ)。㈱郷・・・都市農村交流コミュニティ貸し農園事業。
・多角的に新規事業に挑戦している特異な農業法人。
※儲かる「農業経営」の実施モデル 法人「和郷園」グループリンク

千葉県香取市の和郷園グループ、 年間約50億円を稼ぎ出す。そのうち本部だけで、野菜販売約20億円、加工が約11億円を占める。
「新規参入で、じゃがいも、にんじん、タマネギといった主要10品目で大規模展開できているところはほとんどない。 いまでも農業は、ものすごい経験産業、そしてインフラ産業であることに変わりがないからです」
91軒の契約農家を抱え、主要10品目を含む43品目をつくっている。 毎日食卓に並ぶあらゆる野菜を安定的に供給するための「普通の製造業」を目指す。
産地直送を始めたのは18年前。24歳で仲間5人とトラックに野菜を積み、横浜のスーパーや都内の八百屋へでかけた。 いまのように産直ショップやネット直販がない時代だけに、鮮度のよさと珍しさも手伝い、大盛況だった。その後、 大手生協、スーパーなどに取引先を広げ、5年目には野菜の売上高だけで5億円、10年で10億円を達成した。
生産品目が増えるのに伴って、契約農家が増え、集約化は進んだ。だが、課題はあった。 作物の品質が農家ごとに微妙に違っていたのだ。そこで、栽培管理を統一するマニュアルをつくった。質・量ともに要望を完璧にこなせるプロ集団をつくった。
この10年間、契約農家を新たに増やさず、1軒ごとの質を高めた。91軒中42軒は、売上高が年率110% で成長し続けている。
「本気でやれば、農業は、地域の人に継続的に仕事を供給できるんです」
和郷園はいま、グループ全体で1500人規模の雇用を生み出しているという。
※農業で稼ぐ売上50億円の秘密 (AERA)リンク(※2009年の記事)

※和郷園の経営についてはこちらも参照 → 儲かる“農業経営”はこうやるリンク
■農業経営の勝ち筋は?
●まずは「経営的視点」
生産体・経営体として自立していくためには、今までこうだったから・・・というような常識にとらわれることなく、ゼロベースでの見直し、つまり「経営的視点」が不可欠。
多くの一般的農業者は、営業利益ベース(売上-原価-経費)での赤字が常態化、つまり補助金頼みです。
この営業赤字を問題と感じていないことが、すなわち「赤字体質が染みついている」ということでもあります。いきなり大きく儲けるのは難しいとしても、まず営業利益段階でわずかでも黒字化(補助金なしでの黒字化)することに、とことんこだわるべきだろうと思います。それが自立への第一歩、わずかでも黒字化が達成できれば、意識も変わってきます。そのためには、作付面積と作物、収穫量、人工、販売価格などのシミュレーションから客観的な経営判断を下す必要があります。
事例にもあるように、生産の工夫のみならず、営業と販売の工夫が重要、またすぐにでも取り組める課題として経費の最小化も重要です(高い経費率が放置されているケースは非常に多い)。これらを徹底的に見直すこと、赤字体質から脱却できる可能性は十分にあるのではないでしょうか。
●勝ち筋の共通構造:「生産から流通・販売までのルートを構築」
現状の農業市場の中で勝っていく王道は、「生産から流通・販売までのルートを構築」することにあります。
戦後長らく、農家が生産した農産物は農協から卸売市場へというルートが主流でしが、この構造を変えるということです。日本全国の農業生産額8兆円に対して川下の最終消費額は約9倍の73兆円と言われており、加工や流通で生み出される付加価値を生産者が取り込む余地は大きい。具体的には、販売先となる事業者(小売り事業者、外食・中食事業者)と組む、直売所を活用する、ネットや宅配などの消費者への直販などです。これは収益を上げるという意味もありますが、生産と消費を近づけるという本源的な意義もあると思います。
こうした販売ルートを構築するには、農産物を安定供給できる生産能力、品質確保のための技術力と管理システム、そして供給元である生産者、販売先となる事業者に対する「営業力」が課題となります。
トップリバーが「生産にかけるエネルギーを100としたら、営業・販売には200のエネルギーをかける」として、営業担当5名を専任しているように、生産体制の「組織化」によって余力を生み出し、「営業力」を強化していくことがカギになります。
農業と言えば、毎日地道に農作業に勤しむというイメージがありましたが、勝っていくためには、それだけではない営業活動が必要なのでしょう。
●「農業の組織化」がカギ:「組織力」が勝負!
日本の農業経営において最大の壁となっているのは「農業の個人化」であろうと思います。
もともと農業は縄文時代以来、地域共同体に包摂された集団の営みでした。しかし戦後の農地解放によって農家をバラバラの私権主体に解体した上で、自民党、農水省、農協が中央集権的に管理してきたわけです。こうした構造が農業経営の衰弱の原因であり、このままでは展望がありません。
個人主義的価値観、民主主義的価値観からの脱却し、個人化とは逆の発想で「共同体的に組織化」(単なる集約化、大規模化とは異なる)することが農業経営を再生していく第一歩となります。
実際に、生産者の組織化は、コストの合理化というだけでなく、「生産体・経営体として自立」することによって、農業の永続化(雇用の維持)、生産活力の上昇につながっています。
また組織化することによって、より多角的な経営、社会貢献の可能性も広がります。
■農業の組織化→生産体・経営体として自立→高度化の道が開かれてゆくGT120813.jpg
近年、「農」への関心が急速に高まっています。
その背景には、「食に対する危機感」(自給率の低下、異常気象や投機による食糧価格高騰、遺伝子組み換え作物、放射能汚染など)があり、一方で「農への期待」(安全安心への期待、農業体験、家庭菜園・市民農園のニーズ、就農希望者の増加、教育に農を取り入れる動き、企業の農業参入など)も高まっています。
農業は単に農作物をつくるだけでなく、教育との連携、医療介護との連携、地域活性化など多面的かつ広範な機能が期待される生産活動です。
こうした社会的な期待に応えてゆくためにも、まずは「農業の組織化」によって「生産体・経営体として自立」することが必要であり、それを実現することによって、農業はより活性化し魅力ある仕事になるだろうと思います。
※参考:農から始まる日本の再生リンク 

 

コメントする

comment form

trackbacks

trackbackURL: