2012年08月25日
『企業の進むべき道』11 企業の適正規模を探る~国内企業に見られる特徴~
写真:伝統的な手斧始式(ちょうなはじめしき)の光景
※日本最古の企業は578年創業の金剛組という宮大工集団。聖徳太子の下、四天王寺を建立した時から存続する老舗企業。今日まで連綿と続く「手斧始式」の出仕装束や烏帽子に、はるか奈良・飛鳥をみることができます。
(画像はリンクよりお借りしています)
みなさんこんにちは!
今日は、「企業の進むべき道」シリーズの11回目の記事です。前回の記事では、国内における企業規模と法制度について概観しました。
米国の要望によって改訂された会社法。それによって敵対的買収だけでなく、大企業同士の合併が増えています。飽和した市場に新たな活路が見出せない中、企業規模を大きくすることによって、生き残りをはかる戦略。自力改善をあきらめた方針からは、残る改善の手段が数少ないことがうかがえます。
また、最近ではパナソニックをはじめとして、電機各社が相次いで大リストラを発表。こちらも背水の陣で生き残りをはかっています。
このように、企業を取り巻く環境は近年ますます厳しくなっています。リーマンショック・欧州危機・東日本大震災など、私たちがこれまでに体験してこなかった大きな出来事が立て続けに発生している状況の中で、どのように生き抜いていくのか、多くの人が模索しているところでしょう。しかし、当てもなくその方法を探索するには限界があります。そこで、一旦立ち止まって 先人たちの知恵に学びたいと思いました。
今回の記事では、日本の老舗企業に注目します。激動の時代を乗り越えて現代まで脈々と存続してきた老舗企業には、学ぶことが多くあるのではないでしょうか?なぜ日本の老舗企業は100年~1000年単位で存続することができたのか?そのような、老舗企業の継続力=適応力に学ぶことで、これからの企業の適応戦略に関わる重要なヒントが多く見つかることでしょう!
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老舗大国日本
■日本の老舗企業数
先ずは、日本の老舗企業数が世界の中でどれだけ多いのかをこちらのデータから明らかにしていきましょう。
画像はコチラ(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110526/220251/)からお借りしました。
イメージ通り、日本には老舗企業が他国に比べてずば抜けて多いことがわかりました。ちなみに創業100年以上の老舗企業は、24,847社<帝国データバンク調べ(2011)>もあり、その数字を見ると、「えっ?そんなに??」というくらいたくさんあることに驚かされます。想像していたケタをも圧倒的に上回る数字でした。上記のデータ以外にも創業100年以上の老舗企業は5~10万社ある!といった諸説もあるほどです。
また、他国の老舗企業数を見ると2位ドイツに集中して多いことがわかります。ドイツは職人の国としてのイメージがありますし、200年以上存続してきた老舗が多いのも納得できます。しかし、それでも日本の老舗企業数に比べると2分の1しかありません。3位のフランスにいたっては10分の1と、ガクンと数が減ります。どれだけ日本が多くの老舗企業を残してきたのかがうかがえます。日本は世界一の老舗企業大国なのです!
そして、特徴的なデータがあります。それは日本の老舗企業のうち、じつに『96%が中小企業』であるということです(中小企業基本法によれば、資本金3億円以下、従業者数300人以下の企業を中小企業としています。当ブログの前回記事でも紹介しました(『企業の進むべき道』10 企業の適正規模を探る~国内の企業規模と法制度~)。
画像はコチラからお借りしましたものに加筆をしました
創業100年以上の企業の96%が従業員数300人未満の企業、いわゆる中小企業で、しかも10人未満で50%と、なんと半数を超えているのです!売り上げ規模は時代によって物価も大きく変動するので単純比較はできませんが、従業員数で見る限り「低成長や現状維持」でも企業が存続できることを証明していますね。
■どんな業種に多いのか
それでは次に日本の老舗企業には、どのような業種が多くあるのかを見ていきましょう。
1.清酒製造 765社
2.酒小売 578社
3.旅館・ホテル 578社.
4.呉服・服地小売 573社
5.貸事務所業 555社
6.婦人・子供服小売 475社
7.酒類卸 395社
8.ガソリンスタンド 339社
9.木造建築工事業 335社
10.一般土木建築工事業 329社 etc.
老舗企業の業種を多い順に並べてみました。特徴的なのは酒・服・土木建築が上位を占めていることです。着るものと住むところは、人間の生活に不可欠なものですから多いのもうなずけます。また、ガソリンスタンドと挙げられているものの中には、元々は油屋で事業転換をした老舗企業が含まれています。そういった時代の需要に沿った事業転換によって更新され、存続している企業も多くあることがわかりました。
■なぜ世界の中でも、日本は老舗企業が多いのか?
では、なぜ日本にはこれほどまでに老舗企業が多く存続しているのでしょうか?以下二点のポイントに注目して明らかにしていきたいと思います。
・地理的利点(島国であること)
古代文明が発祥した地域は、地続きの大陸であるため数々の侵略戦争を経験しています。そこでは、既存の経済や文化が根絶やしにされることは珍しくなく、老舗企業が存続する環境としては、非常に厳しいものであったことは想像に難くありません。「4千年の歴史」で有名な中国に老舗企業がほとんど見られないことはその証左でしょう。
一方、日本は島国であることが幸いして、大規模な侵略戦争を経験していません。異民族に乗っ取られて、大量虐殺が行われたり、既存の経済や文化が短時間のうちにガラッと変わってしまうような事態は皆無だったわけです。国内の戦乱によって支配体制が変わることはあったものの、すごく大きくみれば「断絶のない国家体制」が維持されています。この世界的にも稀な要因が、老舗企業が長きに渡って存続する基盤となっていることは間違いありません。
(ex.世界最高齢の老舗企業である金剛組(創業:飛鳥時代)は、仏教のお寺がイスラム教の寺院に強制的に変えられたら生き残れなかったかもしれません)
・産業保護の支配者(織田信長や徳川幕府)
さらに、過去の支配者に共通して見られる「産業保護」も企業を存続させた大きな要因の一つだと考えられます。
例えば織田信長の経済政策である楽市楽座は、既得権を持つ商工業者を排除して自由取引市場をつくり、税の減免を通して新興商工業者を育成し経済の活性化を図るものでした。
そこで育まれた体制を受け継いだ徳川政権でも、産業を高圧的に支配することは皆無。200年の太平と経済的な混乱が少なかったことが相まって、商工業者の実績ともいえる町人文化が花開します。
総じて見ると、戦国~江戸時代の支配者は、既存の商工業者に直接的に資金供給するような支援政策はほとんど行いませんでした。むしろ、商工業者が乗りやすい場(システム)を用意して、実際のやり方は当事者の自主性に任せています。これが日本流の「産業保護」です。こうした緩やかな支配体制と民の自主性のなかで、数百年の歴史をもつ老舗企業が数多く誕生したのでしょう。
■日本の老舗企業の特徴
ここまで、老舗企業が長らく存続できる日本に特有の状況があることがわかりました。しかし、そうはいっても、何の方針もなく企業存続が可能なわけはありません。ここでは、日本の老舗企業に見られる企業戦略の特徴をみてみます。
(以下、帝国データバンクの老舗企業へのアンケート調査「創業者の想いは、今も生きている」を元にして紹介します。)
1) 企業本店所在地の移り変わりと地域への関わり
本店移転について質問したところ、有効回答数403社のうち、本店を移転していると回答した企業は、253社と全体の62.8%を占めた。さらに253社の内訳を県外・県内に分けてみると、県外へ移転しているのは全体の8.7%の35件のみで、県内の移転(54.1%)と本店の移転をしていない(わからないを含む)と回答した企業(37.2%)と合わせて大半の企業は創業地にとどまっていると考えられ、地元への定着度が高い結果となった。移転の理由としては、「工場が手狭になった」「関東大震災」「戦災」「火災」などが多かった。
創業時からの周辺地域への貢献や関わりについて声を集めたところ、「商工会議所議員・市会議員を歴任」「防災、お祭りなど地域行事に参画」「寄付」など地元に密着している様子がうかがえた。
2)事業内容構成
創業時と現在の事業構成において変更があったかを質問したところ、69.0%が変化していた。変化の内容については、ロープ製造から家具・医療機器製造へ、帽子製造から調剤薬局へなど、創業時から大きく業態を変えている企業もある一方で、大きな変更ではなく、取扱商品の増加、関連したサービスの拡大など、リニューアル程度にとどめた事例も多く、自社の持つ長所短所やその時代の環境により、適切な変化を遂げてきた様子がうかがえる。
上記2点のアンケート結果から、老舗企業は「地元密着」でかつ「創業当時のスタイルを少なくとも守っている」ことが浮き彫りになってきます。これは、先に紹介した「衣食住に根ざした事業に老舗企業が多い」こととも無関係ではないはずです。すなわち、老舗企業には、地域の人が求めるものを過不足なく継続的に供給する “サザエさんの三河屋さん”的な企業が少なからず存在すると推察します。
イマドキの三河屋さんは、もしかしたら携帯電話の委託販売を始めているかもしれませんが、地元を離れず、本業の醤油やお酒の小売を継続しているイメージ。
商売として考えれば、狭い範囲で限られた顧客を対象にしているわけですから、莫大な利益は上げられません。しかし、商工会やお祭りなどを通じて地域の人とのつながりを維持し続ける限り、勝手口から声をかける間柄で、継続して注文を得ることが出来るわけです。
変化に富まない企業戦略といえばそれまでですが、この上なく堅実な企業戦略。「地道にやっているうちに100年経ってしまいました」といわれても驚かない戦略が、老舗企業の適応の鍵なのだと思います。
■老舗企業に見られる5つの共通項
ここまでデータをベースに老舗企業の実態に迫ってきましたが、野村進著(2006)「千年、働いてきました-老舗企業大国ニッポン-」では、老舗企業の経営者へのインタビューを通じて、老舗企業に見られる共通項として以下の五点を導き出しています。
①同族経営は多いものの、血族に固執せず、企業存続のためなら、よそから優れた人材を取り入れるのを躊躇しないこと
同じアジアでも、中国系企業で老舗が育ちにくい理由の一つとして、家族と金銭を重んじるあまり、よそものを受け入れないところが挙げられます。中国人のことわざに「優秀な他人よりも無能な血族を信頼せよ」という言葉があるほどだそうです。
それに比べ、大阪商人の言い習わしには「息子は選べないが、婿は選べる」という言葉があり、著者がインタビューした老舗企業に共通した点として「老舗の土台を築くのは三代目あたりの婿養子」という事実があるほどです。語呂合わせ的に言えば、「血族」よりも「継続」が重んじられるのが日本の老舗企業、といったところでしょうか。
これは研究開発を旨とする企業において、有利に働くことが多くと考えられます。昨今のサラリーマン社長であれば任期が数年で、短期的な利益を追いがちですが、同族経営による長期的視点に立った会社経営と、それを支える外部人材の役割は、社員がのびのびと安心して自らの研究対象に打ち込める風土を育むヒントとなりそうですね。
②時代の変化にしなやかに対応してきたこと(柔軟性と即応性に富んだ“動”の組織)
老舗のイメージである「不動の組織」とは異なり、伝統の技術を活かしつつ、社会に求められる製品の開発にスピーディに対応が出来る「動の組織」が、しなやかさの秘密です。
③時代に対応した製品を生み出しつつも、創業以来の家業の部分は、頑固に守り抜いていること
これは②の項目とも結びつきますが、”筆ペン”で有名な呉竹が墨職人を養成していたり、バイオテクノロジーで米のエキスからヒット商品を世に送り出してきた勇心酒造が、今でも日本酒を地道に造り続けていたりと、実例は枚挙に暇がありません。
利益には直接結びつかなくても、代々受け継がれてきた「意志」を大切に、地道な物づくりを続けることで、企業存続の為の「大きい倫理と理念」を守っているのです。
④それぞれの“分”をわきまえていること(投機を戒める家訓の遵守)
投機などに手を出さす、あくまで本業で社会に貢献することを掟としている老舗企業は数多くあるそうです。例えば、布団の西川産業の経営者の「僕らは株なんかも一切やっていません。本業で社会に貢献する。それに反するものをやったら、長続きしないという理念があるんです」といった発言が紹介されています。このような堅実さが、結果的にバブル期に大やけどすることなく着実に実績と利益を出して事業を拡大し続けてこられた理由なのです。
⑤「町人の正義」を実践してきたこと(公正と信頼が取引の基盤)
自身の利益の追求だけでなく、社会全体の発展を目標に売り手と買い手とが公正と信頼を取引の基盤に据えた経営を実践しています。
これは今でも日本人にとって根深く共有されている感覚ですね。「創業○○年」「江戸時代創業」「明治○○年創業」といった文句は、消費者の心を安心させてくれる金言のようなものです。「老舗ののれん」ほど信頼できるものはないんじゃないか、とも思えるほどです。公正と信頼とは、純粋にデータには現われない、一朝一夕では生み出すことができない重要な「強み」の結晶であるといえるでしょう。
■まとめ
さて今回の記事では、国内企業に見られる特徴として、老舗企業に注目して概観してきました。
いかがでしたでしょうか?
老舗企業がなぜこんなにも日本で地域に根ざして存続してきたのか、頷ける部分が多くあったと思います。ここで重要なのは、老舗企業は頑固一徹を貫き通して生き抜いてきただけではない!ということです。時間の節目節目でしっかりと時代の状況を掴み、恐れずに適応し、決して投機による一足飛びな成長を狙わず、自らの分をわきまえ、地域に根ざして堅実に、しかし着実に一歩一歩前に進んできたことが“老舗企業大国”の土壌を形成してきたのです。
それは、生物で云うところの「人工的な品種改良(M&Aやリストラ)」ではなく、生き抜くための「進化(塗り重ね)」・「適応」と言うことができるでしょう。そして創業理念と人材を大切にしてきた背景と、信頼と公正を仕事関係の一番の基盤としてきた背景が、このような変化を許容して歩み続けてくることを可能にした、大きな要因だったのではないでしょうか。経営者だけの所有物としてではなく、働く人や地域の人も含め、みんなのモノとして企業を守ろうとする気風、そしてそういった地域の人(客)をも巻き込む活力・活気が、老舗を含めた今後の企業の一つの有力な活路となるのではないでしょうか。
このように日本の中小企業の歴史を振り返ると、実に見事に安定と変異を両立させてきたことがわかります。正に、自然の原理に適った適応手法です。
冒頭でも触れた様に、現在はかつてない大転換期ですが、きっとどんな壁も乗り越えていける逞しさが中小企業にはあるでしょう。
「中小企業が引き起こす業態革命と大企業の終焉」がこれから訪れるのも、うなずけます。
- posted by asato at : 0:00 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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