2013年03月02日
『共同体経営とは?』12-1. 実績予測システム~経営への主体的な参画~
■はじめに
こんにちは。『共同体企業とは?』シリーズも12回目の記事です。内容もいよいよ組織の核に迫ってきました。前回扱った社内ネットに引き続き、共同体・類グループの核を担っている、経理システム=【実績予測システム】についてご紹介したいと思います。なんと、本邦初公開の内容です!
企業における経理部門は、あまり目立って取り上げられることの少ない部門かもしれません。しかし、経営者にとっては経営を考える上での最重要課題の一つです。これが破綻すれば組織の存続は望めないことは言うまでもありません。ふと想像してみてください。自宅の家計が破綻したら・・・。
組織の統合や経営戦略といった課題は、この経理システムの安定がなければ成り立たないことです。そして、経理について全くの無関心という態度は、組織にただぶら下がっているだけ、もしくは生かされているだけとも言えるほど無責任な態度なのです。組織内部において、経理について真剣に考えている人と考えていない人では雲泥の差があります。後者の割合が高ければ高い組織ほど、これからの時代を生き抜くことが難しいと言えるでしょう。
共同体・類の経理システムは、自主管理体制の構築を目指した追求の基に成り立っており、これまで本シリーズでご紹介してきた記事のエッセンスがいたるところに応用されているものです。逆に言えば、この経理システムへの成員一人ひとりの主体的な参加が、これまでの記事のエッセンスを成立させてきたとも言えます。
そう、この経理システムこそが共同体企業・類グループの一つの基礎を成す重要な要素だったのです。今回の記事では、この経理システム=【実績予測システム】を2投稿に分けてご紹介しようと思います
●2-12-1:【経営への主体的な参画】
経理システムの構成・背景など構造的な内容とそれが育む組織(集団)への効用を、類グループの経理担当の方(Tさん)にヒアリングをして内容をまとめたもの
●2-12-2:【分化と統合が生み出す新しい生産の場】
経理システムを成立させるための組織体制に伴って必要となる認識を、類設計室の組織・技術担当の方(Iさん)にヒアリングをして内容をまとめたもの
以上の内容をそれぞれご紹介して、最後に今回の追求過程で得られた結論と、新たに見えてきた大きな可能性について述べたいと思います。それでは、順を追って見ていきましょう。
■意識生産について
先ず、類グループでは世間一般の企業会計に採用されている利益率という会計尺度は採用していません。その代わりに、生産点という独自の会計尺度を用いて経理システムを構築しています。
ではなぜ共同体・類では、世間一般に使われる利益率といった尺度ではなく、生産点という尺度を使うのでしょうか?その主因は、工業生産ではなく【意識生産】を全面に掲げているからなのです。
この意識生産では、人の労働力(能力と活力)が主人公であり、とても重要になってきます。つまり、資本が主役ではない、ということです。だから共同体企業は、権力統合体より共認統合体としてある方が適していると言えます。
また、類グループは全員が組織を構成する主体的な成員であり経営者です。そのため、創立当初から【自主管理体制】の構築を目指した追求が続けられてきました。上述の権力統合体より共認統合体の方が適しているというのも必然の流れと言えるでしょう。私たちが一日の大半のエネルギーを投入している職場(生産の場)ですから、ここで主体的にならないのはもったいないという考え方もできます。当然、組織にただぶら下がっているだけでは、やる気・活力も湧いてきませんし、ただひたすら疲れるだけという結果にも繋がりかねません。主体的になるか、ならないかというのは、人間が生きる条件としてもとても重要な選択なのです。類グループが提唱してきた「自主管理」というのは、主体的になるための入口でもあり、組織構築の要でもあるのです。
そんな自主管理体制を基盤にした意識生産とはどういったものなのでしょうか。
’70年、我々は貧困が消滅し物的な欠乏が飽和限界に達した事によって、人と人との間に生じる類的な欠乏が上昇し、それにつれて生産様式が工業生産から意識生産(情報や教育や設計あるいは風俗や介護等、類的な価値=意識を産み出す生産様式)に移行してゆくことを、はっきりと見抜いていた。貧困の時代なら、誰もが私権(地位やお金)を求めて必死に働く。なぜなら、人々は生存上不可欠の地位やお金を与えてくれる資本=権力の意志に、否応なく従わざるを得ないからである。それに、工業生産なら、設備投資が勝敗を決する。従って、資本の力がモノを言う。
しかし、貧困が消滅すると、私権の確保は第一義的な価値ではなくなり、人々はその為に必死に働こうとはしなくなる。つまり、私権によって企業や社会を統合することが、困難になってゆく。とりわけ、意識生産では、機械ではなく、働く者の労働力(類的価値を生み出す意識力)が唯一の生産力である。つまり、人間の能力それ自身が生産の主人公となる。そこでは、集団(ひいては社会)を資本力の様な私有権力で統合するよりも、働く仲間たちの共認(役割や規範や方針を認め合うこと)によって統合する方が上手くゆく。つまり、脱貧困の時代には、権力統合体より共認統合体の方が適している。その後時代は、経済のソフト化・やりがい志向・情報公開etc.、私たちの予測した通りの方向に進んできた。
共同体・類は、この様な時代認識に基づいて創られた。従って、創立当初から、経理を含む全情報を全社員に公開する情報公開システムを作り上げ、誰もが状況を把握できるようにして、その上で、全員が取締役となって経営に参画する合議体制を構築し、皆で組織や事業の方向を決定してきた。それを聞いて、未だに信じられないという顔をする人が多い。だが、民主主義を口にするのなら、日々の生産の場=企業を、真っ先に皆のもの=合議体に変革するのが本当ではないのか。誰もが日々エネルギーの大半を費やしている生産の場を権力統合体のままにしておいて、遥かに遠い国会に何年かに一回投票するだけの西洋式の民主主義など、全くの偽物である。
(【実現論 旧序文】より抜粋http://www.rui.jp/ruinet.html?i=100&c=9&t=1#05)
類グループは、組織を構成する成員一人ひとりが主体的に組織のことを把握・分析し、全員が取締役として経営に参画すること【合議制】で、共同体企業として成長を続けてきました。生産点という尺度を採用しているのは、みんなで組織や事業の方針を考えて決めるための判断軸として必要だったからなのです。また、そのための情報を全員に開示して“常に考える”という行為を促し続けることで、組織に対する当事者意識が高まり、日々の活動の活力向上にも繋がります。
「自分たちの日々の活動が、組織全体の成果にどのようにつながっているのか」を知ることはとても重要で、ここに「みんな(組織)のため」という認識の萌芽が生まれます。「自分のため」という自我が残存した状態では、決して組織活動に対する活力向上にはつながらないことは言うまでもないでしょう。
■生産点とは
生産点は、生産高(=売上―外注費―経費)を収入全国値で割った値で、単位は%です。例えば、100なら生産高が収入全国値とイコールという意味です。より詳細には、売上―外注費=収入で、収入―経費=生産高という内訳です。類グループは複数の部門から成っているため、各部門の収入から本社の管理活動(募集・広報・経理etc.)に対応する収入を差し引いた収入値を使います。こうすることで、独立採算単位としての成績を測ることが可能になります。また経費は、①部門独自の単位経費、②全社共通の経費、③法定経費(税金・保健etc.)の三種類に分かれます。ただし、②と③は部門の成績に応じて応能負担する(いわば共同体の助け合い)方式で負担しています。
以上の生産高の中から、社員の収入と会社の利益が生み出されます。ここから収入全国値で割ったものが生産点となります。収入全国値は、全国大卒男子の平均期間収入で、厚労省の賃金センサスより年齢別・扶養数別の年間収入/2を求め、それを各部門の各社員に当てはめて部門合計したものです(なお、独身、高齢層、女子については厚労省賃金センサスの歪が大きく使えないため、全国大卒男子値を基にして、類独自に補正した値を使用しています)。
では、なぜ生産高を収入全国値で割っているのでしょうか?
設計業など意識生産は人件費商売です。原材料費や機械の購入費がかからず、費用の大半が社員の人件費(給与・賞与)で占められます。そして、労働力が唯一の生産力であるということは、その社員の活動をどこに振り向けるかが、集団の成果を規定する重要な判断となり、人件費の何倍の生産高を獲得したかが、生産性を測る指標となります。分母に世間の平均収入を使っているのは、世間の生産力(所得水準)と比較するためだったのです。そしてその分母が示すものは、人件費であることは言うまでもありません。世間との比較で自分たちの生産力を知る、という認識は非常に重要です。自分たちで作り上げたものを自分たちの殻の中だけで推し進めるのではなく、常に視野を広く保つために有効な手段となります。社会の中での当事者意識がなければ、組織の中での当事者意識は生まれないことは当然で、その逆も然りと言えるでしょう。
生産点に関してもう一つ重要な認識があります。それは、社員の活動に対応して得られるものが収入である、という認識です。すなわち、社員一人ひとりの活動時間はタダではない、ということ。一般的に言えば出社時刻・退社時刻を記録するタイムカードがそれに当てはまるでしょう。しかし、単純にそれだけで集団の成果を測るための活動時間がわかるのでしょうか?ただ自分一人だけのことを考えるならば、それでも良いかもしれません。でも、その目的を自分→集団に置き換えたらどうでしょうか。おそらく、「何時に来て何時に帰った」というだけでは不十分であることに気がつくと思います。各人がどの作業にどれだけの活動時間を充てたのか、その活動時間で出した成果はどれくらいなのか。つまり、かけた時間に見合うだけの成果⇒スピードと質が求められているということです。だから、類グループでは出社してから退社するまでの時間を全活動とし、その中で以下のように活動分類を分けて、それぞれに充てた活動時間を詳細に入力しています。
・自主活動(社会活動や自主研究などの自主活動)
・組織活動(組織全体を統合・管理運営するための活動)
・全業(個別具体対象に分けられない件業全体にまたがる管理活動)
・件業(個別具体対象に対する生産活動)
【類グループ】活動分類基準表・活動システム基準概要より引用
上述した、活動時間に対する認識を基にすれば、この活動内容の入力が組織にとって必要不可欠になってくることがおわかりになると思います。かけた時間に見合うだけの成果⇒スピードは、日々の活動入力からそれぞれの活動時間を分析することでわかってくるのです。まとめると、集団の成果を規定する活動時間であるからこそ、活動分析が不可欠となり、毎日の活動入力が重要になってくるということです。
このように各人の活動内容をデータ入力によって報告し、組織全体で把握・分析することで、経営についてみんなが意識をするようになります。全員経営の本質が、実はここに隠されていたのです。みんなの成果であること、社会の役に立ちたいという想いが、この生産点という尺度によって自然と育まれていくのです。そして、集団の生産力を知るために重要になってくるのが、上述した【活動入力】です。在社時間というと一般的な企業の社員からすれば、残業時間など自身の利益に目を向けさせてしまうことかもしれません。しかし、このように経営に直接触れているという実感を体感できることが重要であり、生産点の大きな特徴ともなっています。
■経営システムについて
前述しましたが、意識生産というのは人件費商売ですから、「人(労働力)」が指標設定にとって重要な要素となってきます。そのため類グループの経営成績を表す指標は【人数拡大】と【生産点】の二つに集約されています。人数拡大については時代ごとの影響を強く受けるため、増減の幅がよく変動しますが、時代の状況によっては、人数が減ることもやむを得ないという状況もあるのが実情です。しかし、生産点(生産性)については、急激な落ち込みがあると倒産の危機(=生き残り戦に敗北する)に直結する大きな問題となってしまいます。そのためここで重要になってくるのが、誰の儲けなのかという認識についてです。
経営データとはどれだけ儲かったかを見るものだが、商法や税法に基づく(私権)企業会計と実績予測システムでは、誰の儲けかという点が全く違う。
企業会計での第一指標は利益、実績予測では生産高。
企業会計:利益 =売上-(外注費+経費+給与賞与)=売上-費用
実績予測:生産高=(売上-外注費)-経費 =収入-経費
利益とは株主(出資者・金貸し)の儲け(所有物)。株式会社とは株主(金貸し)の投資対象であり、社員の給与も株主の利益を生み出すための費用にすぎない(原材料費や機械や一般経費と一緒くたにされる)。そして、企業会計は株主がどれだけ儲かったかを見ることが目的(ex.株式の価値を計る尺度の一つに、一株当り利益)。
類は共同体。成員全員が株主であり経営者であり労働者。集団の儲け(成果)がどうだったのかが第一義。集団(成員みんな)の儲けが生産高。そこから給与や賞与が分配され、残りが準備金として将来の集団の経営のためにストックされる(利益と同じ額になるが、その目的が全く違うものなので準備金と呼ぶ)。
(社内板:2009年4月7日投稿より抜粋)
このように、共同体・類における儲けは【組織(集団)の儲け(成果)】として位置づけられています。決して個人個人の儲け(成果)ではなく、あくまで組織(集団)が前提となっているのです。その理由は、共同体という基盤の下に、社員(仲間)の生活・安全・安心を守るということと、みんなで勝っていく・勝っていきたいという意味が込められているからです。私権が終焉し、共認の時代・実現の時代に入ったことは本ブログで何度も触れていることですが、そのための土台づくりとしてみんなが関わることが可能な経理システムを考案し、実践してきたということが、共同体・類の大きな特徴の一つでもあります。この認識が、私たち類グループの全成員を束ねる、全員経営の根本ともなっています。
■まとめ - 経営の主体に立つ –
ここまで、共同体・類の経理システム=【実績予測システム】がどのような認識に基づいてつくられ、実践されてきたのかをご紹介してきました。
組織を構成する成員全員が、経営者であり、経理システムから経営の問題や課題を把握・分析し、それから「どーする?」というように組織の未来を考える、それも一人ではなくみんなで。日本全国・世界各国に数多存在する企業の経営者にとって、組織の経営を一緒に本気で考えてくれる仲間というのは、喉から手が出るほど魅力的な存在なのではないでしょうか?
今回の記事で紹介してきた経理システムは、【自主管理体制】の構築の追求によって生み出されたものです。毎日の活動入力から、毎月の実績が予測され、成員全員が集団の生産力を分析する、それはデータの背後にある現実を対象化することであり、全員が経営の主体に立つという新しい集団のあり方を示しているのです。
次回は、この実績予測システムが実際どのようにその効力を発揮しているのかを、具体的な事例を挙げてご紹介したいと思います。このシステムを成立させるためには、組織体制に伴って必要となる重要な認識があるのです。
それでは、次回をお楽しみに。
■謝辞
今回の記事作成にあたって、経理担当のTさんには、多大なご指導・ご協力をいただきました。本当にありがとうございました。
■参考・引用文献
・経理担当Tさんのお話
・実現論 旧序文
・類グループ 活動分類基準表・活動システム基準概要
・社内板 2007年10月30日投稿文(経理担当Oさん)
・社内板 2009年04月07日投稿文(経理担当Tさん)
- posted by asato at : 21:34 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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