2013年05月25日
社会の期待に応える介護とは?(事例編)
「社会の期待に応える介護とは?」前編、中編、後編では、業界の現状を整理し、介護の歴史を古代まで遡り、問題構造を抽出した上で、社会の期待に応える介護のあり方を探ってきました。
前編、中編、後編
事例編では、後編で紹介した先進的な事例をさらに詳しく紹介していきます 😀
施設での生活が高齢者の「生きる活力」を生み出す【社会福祉法人 夢のみずうみ村】
■高齢者の向上心を生かした施設
夢のみずうみ村デイサービスセンターでは在宅生活を継続していきたい、人生現役で夢のみずうみ村デイサービスセンターでは在宅生活を継続していきたい、人生現役で過ごしていきたいと思っておられる方に元気で過ごしていただくためのたくさんの仕掛けをしている施設です。デイサービスセンターの時間を楽しむことが、自然とリハビリにつながります。
■リハビリや笑顔が自然とできる施設づくり
①バリアアリー:段差、坂、階段等日常で遭遇する可能性のあるバリアを意図的に配置した「バリアアリー」施設です。どこにも手すりがあって、段差がない施設は、高齢者が自らがんばって、身体を回復させようとする意欲を奪ってしまうという考え方によるものです。
②one step one goods:一歩先にさわるもの・すがるもの・寄りかかるものが必ず最低1つ以上あります。家具の間をもたれかかって移動したり、壁のよりかかり移動を体得していくことも、ご自宅での生活をしやすくしていただくことにつながります。
③昼食はバイキング形式:その日の利用者さんそれぞれのマイ(あなたの)茶碗、マイ(あなたの)箸、マイ(あなたの)湯呑を各自の保管箱に入れて積み上げてあり、大皿に入れて並べてある料理を利用者さんは自分の食器に各自料理を盛り付け、トレイに乗せて席まで運びます
④村内通貨「YUME(ユーメ)」:夢のみずうみ村では、村内通貨「YUME(ユーメ)」を使っています。各プログラムに参加する時はユーメを払い、リハビリやカジノ、見学者の案内や内職等でユーメを稼ぐことができます。
⑤師範・師範代制度:夢のみずうみ村では、利用者さんが先生となって他の利用者さんを指導する教室がいくつかあります。
⑥ウェイキングプール:覚醒プール(ウエイキングプール 特許第3524843号)を利用し、体力づくりをします。温室・温水で1年中泳げます。流れるプールにはトンネルがあり、風が吹いて、色とりどりの光が輝き、シャワーが降ってくるなどの様々な感覚刺激をうけます。
様々なプログラムを組むことで、誰かのために何かをしたり、感謝されたりすることで「自分でしかできないこと」や「こうしてみようかな?」など、自分で考え行動し、それぞれの役割に誇りをもつことで高齢者たちは日々活力をもつことができ、いきいきと生活することができます
■私の祖父にも「夢のみずうみ村」を紹介してみました♪
「座る」「歩く」「立つ」など基本的な動作を車椅子だからできないよね、ちょっと歳だから座りっぱなしでいいかななど、私たちが見た上で判断してしまい、本当はもっとできるのに、もっとこうしたいのに!という高齢者の気持ちをふさいでしまっていると私は感じています。私も一緒に祖父母と一緒に生活をしていて、生活に対する威力と、施設という囲いにおさめられてしまっているもどかしさを肌で感じています。「夢のみずうみ村」のような施設をより多くの人に知ってもらうことで、新たな介護施設の一歩へとつながっていくのではないかと思います。祖父にこの話をしたらとても興味を持ち始めて、自らインターネットで調べて施設を知ろうとしていました。こんな魅力的な施設をもっと広めていってほしい と心から思います。
画像はこちらからお借りしました。
地域:山口県山口市
事業者:株式会社 夢のみずうみ社
事業年度:2001年9月~
事業概要:
夢のみずうみ村山口デイサ0ビスセンター、夢のみずうみ村生きがい養生所、夢の湖村居宅介護支援事業所、夢ハウスゆだ、夢のみずうみ村山口デイサービスセンター
■高齢者の役割を活かして「共同体」を再生する【地域交流サロン「ばあちゃんち」】
「暮らしの作法を伝承する 地域交流サロン「ばあちゃんち」(子育て支援事例集)」
■1人暮らしの高齢者の家の一部を地域交流サロンに
地域交流サロン「ばあちゃんち」は、1人暮らしの高齢者の家の一部を活用して運営されている。築100年以上を経た熊本地方の典型的な民家で、納屋や井戸などを備え、家の間取りは「田の字形」をしており、襖をはずせば広い座敷になるのが特徴。玄関を一歩入ると、土の土間がひろがり、左手には昔懐かしい縁側がある。
この「ばあちゃんち」は、子どもから高齢者まで、地域の多くの人が気軽に集い交流する中で、地域の食や暮らしをトータルに学んでいけるような「地域の大きな家」になることを願い、平成17年10月に開設された。
■子育て支援と、食育の融合した事業
まず、2001年に「植木町子育て応援団」が子育て支援センター、民生委員、小学校、PTA、保育園保護者会等により結成され、熊本県の「子育て応援団事業」の補助を受け、運営を行った。
子育て育成に加え、小学校、保育園連携の食育事業をコーディネートし、地域連携の中で、大豆や小麦の収穫、味噌や納豆の製造調理などを実施。運営ノウハウが蓄積されてきたことから、運営拡大のために、「ばあちゃんち」を設立した。
■生活の知恵を伝える「地域の台所」
「ばあちゃんち」は子育ての悩みを解消する憩いのスペースとしての機能だけではなく、生活の知恵を伝える「地域の台所」、地域に生きるための暮らしの作法を伝承する場というコンセプトがある。
「ばあちゃんち」には約5,000m2の畑があり、大豆や小麦をはじめ多くの農産物を生産している。今年の収穫量は大豆が約150kg、小麦が約200kgにのぼる。作物は、管理を地元の専業農家の方に協力・指導いただきながら、「ばあちゃんち」に訪れる親子やお年寄りによって育てられている。子どもたちは草を刈り、土をこね、何もない状態から、日々の世話を経て、食べるものを作るという体験をしていく。
子どもたちが収穫した大豆は地域の人と一緒に、昔ながらの方法で納豆、豆腐、みそ、きな粉に加工される。小麦は小麦粉にし、手打ちうどん、団子、てんぷらになる。干し柿・梅干・こんにゃくなどを作り、かまどでご飯を炊き、炭火で魚を焼く。子どもたちは、五感に訴える体験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得していく。「地域の台所」というのは、様々な活動体験を通して、地域の食と文化を継承していく場所をイメージしている。
地域の食と文化を継承しているのは、子どもたちだけではない。親もまた、体験の中で学んでいる。「ばあちゃんち」では、「暮らしの伝承塾」や「父ちゃんの出番塾」等で、親が生活していく知恵を養えるような取り組みを行っている。それぞれの講義は地域の熟練者たちが担当する。生活する技術を身につけることで、親の生きる自信を回復させたいとの考えがある。「ばあちゃんち」は子どもだけでなく、親も育てている。
■地域の共同性を育む場
「ばあちゃんち」が地域の人々とのコミュニケーションの場となり、孤立しがちな子育て期の親子にとって、大事な時間を提供している。
毎月第2水曜日に高齢者向けの行事「いきいきサロン」を開催することで、親子連れだけでなく、高齢者も気軽に立ち寄ることができるようになっている。子育てのロールモデルが身近にいることは親にとって心強く、子育て経験者から直に教わることで、親の育児不安が解消されていく。世代を超えた人とのつながりができ、温かい人間関係を築けるサロンになっている。
■生産(農産物の販売)によって、活動費を生み出す
「ばあちゃんち」は様々な生活の体験活動をとおして親子が共に育つことができる場となっており、暮らしの体験の共有により地域の共同性が培われている。生産された農産物や加工品は、毎月第3土曜日に開催される「くまちゃん市」(バザー)などで販売され、その余剰金を「ばあちゃんち」の運営費に当てている。子育て支援サービスの提供を受けている親子が、農産物や加工品の生産というサービスによって「ばあちゃんち」の活動経費を生み出している形になっており、できるだけ行政に頼らない活動が行われている。
地方公共団体名:熊本県植木町
人口:30,962人
年齢別人口比率: ~14歳 14.1%/15 ~ 64歳 62.7%/65歳~ 23.2%
面積:65.81km2
事業名:地域交流サロン「ばあちゃんち」
事業年度:H17年度~
事業主体:植木町地域子育て支援センター
関係団体等:【業務受託】山東保育園 和幸保育園 【助成】熊本県
〈問い合わせ先〉植木町地域子育て支援センター TEL(096)272-0699
幼児教育も「高齢者の役割」として期待する【社会福祉法人 江東園】
■子供とお年寄りの”同居”施設
江東園は特別養護老人ホーム(定員五十人)、養護老人ホーム(定員五十人)、保育園(一才~五才、定員八十人) が同じ屋根の下に同居する複合施設です。
老人ホームに保育園を併設し、子どもたちと行事を一緒にやる機会が多くなり、やがて日常的に交流をもつようになり、現在のよう形になっていきました。
毎朝、園庭には元気いっぱいの、可愛らしい園児の声とお年寄りの大きな声が響き渡っています。
江東園の1日は、お年寄りと園児たちのラジオ体操から始まります。ラジオ体操が終わると、子どもたちは一斉にお年寄りのところに駆け寄り、思い思いに抱きついたり話しかけたり、なかにはだっこをせがむ子もいます。お年寄りも子どもたちもとても楽しそうです。
ちょうど一つ屋根の下で暮らす大家族のようなもので、現在、0歳児から99歳までの方がいます。大人になると、障害がある人や、肌の色が違う人を差別してしまうことがありますが、ここでは子どもたちは、違いを自然に受け入れあいながら一緒に生活しています。
■お互いが必要な存在に
施設としてもお年寄りと子どもたちが、自然に関わることができるようにきっかけ作りを怠りません。希望するお年寄りは、子どもたちのおやつの配膳のお手伝いや、昼寝の着替えや、寝かしつけなど、基本的に自由に保育室に出入りしています。
また、月に1,2回、あえて骨付き魚をランチに出すことで、お年寄りが子どもたちに骨をとってあげるなどの機会を作ります。
子どもとどのように関わるかは、お年寄りの価値観に任せています。体調もありますから、ただ、お年寄りの時間の流れ方と子どもの時間の流れ方はとても似ているようです。
大人社会は忙しくて、子どもたちも、日々早く、早く、と言われがちですが、お年寄りは子どものペースに合わせる余裕があります。それが、子どもが安心して、自分に自信をもつことにつながっています。
■子供たちに頼られることが生き甲斐!
また、子どもは『おばあちゃん、絵本を読んで』など、お年寄りを心から必要としています。お年寄りにとっても『人のために役に立つ』とことが生きる力になっています。お互いに必要とするいい関係を築いています。
また、連れ合いを亡くした喪失感や寂しいという思いも、子どもの元気な声が聞こえることで救われる、という人もいます。それに、重度の認知症のお年寄りもなぜか子どもの前だとしゃんとします。
なかには、子どもが「機関車トーマス」が好きだと聞き、いろいろ調べるお年寄りもいます。子どもとの関わりは、お年寄りの新たな興味を開くきっかけにもなっています。
また、1歳から2歳の頃からおむつを取り替えてきた子どもが、成長していく姿も嬉しいことのひとつです。卒園した後も、仲良くなったお年寄りのところに遊びに来る子どももいて、それがお年寄りの生き甲斐にもなっています。
画像はこちらからお借りしました。
(参考)http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=197765
地域:東京都江戸川区
事業者:社会福祉法人 江東園
事業年度:1962年10月~
事業概要:
養護老人ホーム、特別養護老人ホーム 、短期入所、地域包括支援センター、配食サービス、保育園、障害福祉サービス事業(生活介護)
法人理念:
~社会福祉法人 江東園の目的はなにか?なぜ存在するのか?~
私達法人職員は、高齢者と幼児、そして障がい者の幸せ追求者として、利用される人々の個性と個別性を重視した最良のケアと保育を提供いたします。
自ら学び、考え、追求できる「人材」を育成し、介護業界を変えていく【大起エンゼルヘルプ】
■最小限介護の実現態、「見守り型」介護
今後の日本において必要不可欠である高齢者福祉の業界。「大起エンゼルヘルプ」は、これまでの介護の常識を覆し、入居者も職員も活力溢れる場へと転換させています。
かつての介護業界の常識は、管理型施設(入居者の活動を制限し、自らの意志で主体的に活動することを強く規制する)でしたが、本来、介護はお年寄りの活力を奪うことでは無い!という考えのもと、管理型施設を完全に捨て去り、高齢者自らの意志を尊重し、自由な活動を支援する見守り型介護や、本来人間が持っている心を通わせあい、響き合わせるの力を最大限引き出す、といった新しい介護の道を切り開いてきました。
そして、この見守り型介護に適した施設作りや、サービスを実現するために、主体的に自ら考え行動する人材の育成に力を注いでいます。
■スタッフの「考える」場が活力維持の秘訣
大起エンゼルヘルプ・採用ページ「社長列伝」リンク より
テストに強い人はいくらでも資格は取れてしまいます。そういう部分ではなくて、自分の引き出しの中にある知識や技術を利用者一人一人にどう使っていくか、あるべき介護の全体像を描けるか描けないかが専門性の高さ低さだと思います。
仕事とは、「考えること」ですので、先ず考えないことには何も生まれません。誰でも出来ることをやっていてもそれは仕事になりません。利用者が普通の生活を送るためには、どういう支援が必要なのかを考えるところから始まる。どんな知識や技術があっても、考えなければ、その人に対しての生活支援は絶対出来ないと思うんですよ。ですから「考えること」というのは、すべての職員に求めていますし、これからも求めていきます。
■自ら学び、考え、追求する人材を育成する「大起エンゼルカレッジ」
自ら介護業界を担っていきたい!という社員有志が集まり、日々、学びと実践を繰り返し、その中での気付きを塗り重ねています。
毎月1回参加者全員が一堂に会し、一ヶ月間の活動成果と次の課題を抽出し、互いに課題を実現していく圧力を形成しています。
勉強会は徹底した自主運営体制。当日の場づくりや時間管理はもちろん、課題の設定や中身の追求も全て自分たちで主体的に動いて行っています。
また、自分たちが何を実現していくのか、徹底して実現イメージが具体的になるまで、互いに業務の状況や課題を開き出しあい、突っ込みあって、とことん具体的に掘り下げています。
これまでに、「企業理念の歴史的背景を学ぶ」「核人材が周りを巻き込んでいくにはどうする?」「営業の思考過程を言葉化する」といった現実課題に直結したテーマを追求しています。
■業界の枠を越え、あらゆる課題を自らの課題と捉える姿勢
介護業界を変えていくには、業界の中だけを見ていては不十分です。介護の枠を超えて、TPP、社会保障問題、雇用問題など政治や経済の動向にまで常にアンテナを広げ、そのような社会問題の本質はどこにあるのか?介護業界にどの様な影響を及ぼすのか?など、常に社会と介護を繋げて課題を捉え、今後あるべき業界の姿と実現への道筋を探る訓練も行っています。
外圧を広く捉えるからこそ、参加メンバーの活力も非常に高く、回を経るたびに本気度も上昇しています。また、取組み過程をるいネットhttp://www.rui.jpを活用して広く社会にも発信し、社外からの返信など社会的評価も羅針盤にしながら力を磨いています。
■エンゼルカレッジの成果
・業界を支え、変革していく真の仲間
時にはぶつかり合いながらも、みんなが当事者として答えを追求していく中で、仲間に開き出せばどんな課題も突破していける可能性に全体が収束し始め、実現に向けた強い結束力を生み出しました。
・当事者だからこそ得られる成功体験
エンゼルカレッジでは、どんな課題であっても自ら学び、手立てを考え、職場で実践しています。当事者として関わるからこそ、得られる充足感は大きく、エンゼルカレッジメンバーの大きな成功体験となっています。また、エンゼルカレッジのメンバーの発信や職場での関わりにより職場の雰囲気が良くなり、周りの職員が主体的に動いてくれるようになった、など職場にも大きな変化が生まれはじめています。
地域:東京都
事業者:株式会社 大起エンゼルヘルプ
事業年度:1975年~
事業概要:
建設工事、内装仕上げ工事、訪問介護サービス、訪問入浴サービス、デイサービス、グループホーム、居宅介護支援事業サービス、東京都指定ホームヘルパー2級養成研修機関、身体・知的・児童居宅介護事業サービス、指定研修機関(在宅介護・訪問入浴)、住宅改造、介護用品販売・レンタル、寝具乾燥サービス
介護業界は、制度に強く規定されていますが、必ずしも実態と制度がマッチしているとは限りません。誰もが充足できる仕組みを作っていくためには、高い志を持った事業者や集団が、あるべき介護のあり方を社会に提示し、実現態として勝っていくこと、そしてそれらが広く認知されていくことが不可欠です。
介護は重要な社会全体の課題です。その現実にしっかりと目を向け実現している先駆者に学んでいく姿勢に、誰もが学び、考えていくことが求められています
- posted by misima at : 12:34 | コメント (0件) | トラックバック (1)
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