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2015年07月08日

地方紙の研究 ~河北新報編②~ 「オリザの環」で東北を根っこから固め直す

TPPでも大きな話題になっている日本の主食であるコメ。このコメを一つの商品として市場社会の中で捉えるのではなく、もっと根っこから捉えようとしたのが河北新報でした。今回も月刊「潮」が1998年から3年程連載していた「地方紙の研究」(潮出版社)のうち『河北新報』部分を一部引用して、地方紙が取り組んだ日本の根っこ部分に焦点を当てた様子を見ていきましょう。

1997年の新聞協会賞を受賞した「オリザの環」は、東北にこだわりながら遥かな国際性を獲得した連載企画である。
オリザは稲の学名で、20以上の種がある。栽培稲はアジアの「オリバ・サティバ」と西アフリカの「オリザ・グラベリマ」の二つだけで、他は野生稲といわれている。
138回続いたこの連載は、世界24カ国のコメと人間の関係を扱ったもので、コメが粗末にされている時代にコメの勝ちを問い直し、コメを主要な生産物にしている東北の人々に、地球的規模でのコメづくりの自信と連帯感を与えたのは間違いない。(「地方紙の研究」より)

東北のコメ、日本のコメ、という狭い枠に囚われず、地球規模の視点を、失礼を承知で言えば“たかが地方紙”が提起しているところが画期的です。むしろ地方紙の自由さ、自在さを最大限活かした企画といってイイかもしれない。

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連載第1回には、中国雲南省の田んぼで、男女の農民たちが収穫した稲を片手に、豊作を喜んでいる写真が飾られている。タイトルは「笑顔求めて旅へ」。稲、豊作、笑顔。それがアジア農民の豊穣の夢だった。記事はこう書かれている。
<戦火が去ったメコン川のほとりでも、インド洋の熱い風が吹く島でも、溢れるのは笑いと涙。みんな、稲を育てる人々。国も環境も違う土地で生きているのに、なぜ表情があんなにも似て、豊かなのだろう。貧困、飢え、経済と言う名の冷たい鎖、壊れゆく自然・・・・。それぞれの農村にのしかかる現実は重く、時に過酷ですらあるのに、誰も屈しようとはしない。
「俺たちは『生命の糧』を育てている。稲から、生きる力と希望をもらっているんだ。」
取材チームは15人で編成されたとのことだが、全国紙並みの取組みである。勿論、創業百年の記念企画ならではのことだが、新聞記事を読みながら、農民は明日からの営農について想いをめぐらし、市民はコメをもっと大事にしようと想い、学生は世界に眼を開かれるようになるのは、珍しい。コメの一粒にそれだけの貴重な歴史と生活が含まれていたのである。(「地方紙の研究」より)

農家の笑顔
日本におけるコメを作る喜びは、減反政策によって削り取られたが、ひとたび世界に向ければ何と豊かに拡がっていることか!その笑顔だけでも農業従事者の活力につながっていくことは間違いない。
イランとスペイン、イタリアを担当した安野賢吾氏も同様なことを感じていたようです。

武田さんのナイジェリア取材も、当局から監視されていた、というのだが、イランでは、安野さんは警察に呼び出されたりしている。田んぼだけを見て回っていれば、不審に思われてもしょうがない。
「イランでは、コメを作っている人たちは、プライドを持っているんですね。あれだけ広い土地で作っているのは、カスピ海の南岸とちょっと南の川の近くだけで、乾燥地帯の人たちはコメを食べられない。お客さんが来た時には、おコメの料理を出す。よく“もてなし”と言ってましたから。」(「地方紙の研究」より)

この企画を担当した一力雅彦編集局長のコメントにも、取組み当時の問題意識が表れている。

「戦後の東北開発は、コメに対する血のにじむ努力でした。そうした精神が今薄らいできてはいないだろうか。だいぶ機械化やコストダウンも進んでいますけれども、収穫の時に喜びを体で表すようなこともないし、子どもたちが田んぼで遊びまわることもない。農家から若者が消えていってしまして、地域づくりそのものを、コメを通して総点検しなければダメではないかということで。」
コメづくりは、食糧や経済だけの問題ではなく、文化の根底にあるもので、今我々はこんなに苦しいけれども、同じコメづくりをしている民族は、どんな想いでいるか、それを確かめなければだめだ、というのが出発点でした。」(「地方紙の研究」より)

一力氏の問題意識は、市場化に飲み込まれて揺らぎそうな東北の足元を固めよう、ということだろう。それは地方紙である河北新報自身が、地元宮城県に下ろした根を腐れさせないように、再度活性化させようという“もがき”かもしれない。しかし全国紙の高みに立ったモノ言いとは違い、もがき苦しみ、それでも探索を続けようとしているスタンスは、まさに東北の姿そのものであり、読者からの好感や共認を生んだだろう。これこそが地方紙のあるべきスタンスだと得心しました。

 

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