2017年01月01日
会社は社会を変えられる ②曙ブレーキ工業:社会を支える社員を育てる
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昨年は、熊本地震、イギリスのEU離脱やトランプ旋風など予想外の出来事が次々と。さらに激動化の予感ある今年も、ブログ「これからは共同体の時代」を宜しくお願いします。激動の時代だからこそ、変化に耐えうる組織力について学んでいきましょう。
さて今回は前回紹介しました曙ブレーキ工業の続きを、プレジデント社発行の『会社は社会を変えられる』(岩井克人・小宮山宏編・著)から一部抜粋して紹介していきます。
曙ブレーキ工業には1974年から続けてきた「就職進学制度」があります。元々は、先代社長が自ら官費留学で大学に通った経験から、若者が働きながら学べる機会を提供しようと始めたものです。
高校卒業後、家庭の事情等で進学できなかった学生に、会社が仕事と寮を提供します。受給者は三年間全員が寮で共同生活を送り、工場で交代勤務し、学校に通います。そして給与から学費を払い、学校を卒業し資格を取得する。既に同制度を利用した卒業生は3000人を超え、親子二代に亘る人もいるらしい。中でも保育士を目指す学生が多かったことから会社では「保専生」と呼ばれている。
朝から工場で仕事をし、午後から夜にかけて勉学に勤しむ保専生たちは、曙ブレーキグループの生産拠点の一つである福島製造の士気を左右する存在だ。わずか三年の間に大きな成長を遂げる姿、ひたむきに努力する姿、そうした姿に励まされ、自らを省みるきっかけをもらったり、多くの気付きを得る社員は多いという。彼女たちが頑張っているのにいい加減なことは出来ない。福島製造は他の生産拠点に比べて、何かあったときの勤務交代等、社員相互の協力関係がスムースだとも言われている。曙ブレーキの社員は言う。
「自分たちが彼女たちを支えているのではない。自分たちこそ、彼女から多くを学び、彼女たちに支えられているのだ」と。(「会社は社会を変えられる」より)
この「保専生」という取組みは、保育士の資格を取って卒業(≒退社)していく姿を見れば、会社が学生を支えるだけに見える。会社にとっての意義は置き去りで、社会にとっての意義だけでの一方通行的な取組みに見えてしまうかもしれない。実際、曙ブレーキでも50年の間には、会社にとっての負担が重いため、そろそろやめたらどうだ、という意見もあったようです。しかし実態は、会社の風土を変えるだけの力を持っている。日々の事業プロセスの中で真剣に彼女たちと交わってきた長い経験があるからこそ、現場の社員や会社が保専生から得てきたものは大きい。それこそ、社会にとっての意義と会社にとっての意義が溶け合ったものとなっている。
そしてこの保専生の存在が、曙ブレーキが持っている「あけぼの123㈱」という障害者雇用促進の特例子会社で生きてくる。
あけぼの123㈱は、2003年の立ち上げ当初には曙ブレーキグループの清掃を引き受けるところからスタートしたが、年々自らの仕事を拡大してきている。2008年には「ブレーキ部品のリペアキットの袋詰め」という製造の仕事にも着手し、曙ブレーキから製造工程の一部を受託することに成功した。当初は五名だった社員数が2013年には25名に増えた。社員たちは技術等を競う様々な大会等での表彰も多く受けており、又障害者雇用に優れた会社として学校・施設等の訓練実習の受託も手掛けている。
この背景にあるのが、齊藤光司あけぼの123社長と指導員の存在だ。
その指導員はなんと全員「保専生」のOGなのだ。OGたちには、保専生の仲間に対しては勿論、様々な形で支えてくれた工場の上司や同僚への感謝、そしてその制度を続け、育ててくれた会社への感謝、その気持ちが曙ブレーキという会社に対してあるという。(「会社は社会を変えられる」より)
保専生は、卒業後地元に帰って保育園や幼稚園で勤務。やがて家庭の中で母親として子育ても一段落し、次の人生を考えていた、そんなときに自分の基盤をつくってくれた曙グループで、子育てに係ってきた経験を活かせる仕事があると気付いた。それがあけぼの123で指導員として働くきっかけだったという。
経済的事情に苦しむ学生の支援と、子育て・幼児教育、そして障害者の働く場づくり、という三つの社会課題。それぞれの取り組みを長年に亘って続けているうちに、図らずもそれが曙ブレーキを核にして繋がり、そして活性化していったのです。
この事例から見えてくるのは、社員は企業内の存在ではなく、それ以前に社会人として社会の一員であり、企業もまたその一員として社会に大きく影響を与えているということ。企業は自己利益のために閉じてしまわず、むしろ社会課題の担い手として開いていくことが、底堅い組織力につながるのです。
- posted by komasagg at : 10:36 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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