2017年10月25日
農業の救世主「ミチナル」 ~捨てない農業・育てる市場~
今回は、岐阜県高山市にある「ミチナル株式会社」です。地域の農業を救うために、異業種を巻き込んだビジネスモデルを作りました。「日本のいい会社」(ミネルヴァ書房:坂本光司著)から要約しながら紹介します。
岐阜県高山市はほうれん草生産量が全国1位。ほうれん草の旬は一般には冬なのですが、高山市では飛騨地方固有の高冷地を生かした温度管理とハウス栽培によって、「暑さ・雨」を克服した先進的な夏ほうれん草産地として、大きなシェアを獲得しています。
そのほうれん草に着目したのは、地元総合食品会社山一商事3代目社長山下喜一郎氏。2010年に無農薬有機栽培を目的に農業法人「まんてん農場」を設立し、地域農家やJAとの交流を深めてきました。
したがって美味しく食べられるほうれん草も、基準を満たさないものは袋詰め段階で省かれ、端材として処分される。地域の農家によれば、それが常に一定量発生するので、生鮮での出荷を増やせば増やすほど、処分する端材も増えてしまう。処分方法は、自分の畑や山に捨てるのだが、近隣住民からの苦情や高速道路建設によって廃棄場所も減ってきている。農家にとっては処分に負担がかかり、さらに地域にとっては環境問題にもなりかねません。過去、この端材を利用しようとJAも取り組んだことがあるが、利用量も少なく諦めたらしい。
そこで常々「食分野で地域に貢献したい」という想いを持っていた山下社長が立ち上がります。山下社長はスピード重視の視点で、大正14年創業の老舗企業の山一商事ではなく、新会社を設立。そして関心ある地域企業を巻き込む方針で協賛企業も募集する方針を打ち出します。
こうして山一商事をはじめ、投資育成会社、地域の大手食品メーカーや流通業者など民間4社と、農林漁業成長産業支援機構など2社の計6社が共同設立した「ミチナル株式会社」が誕生。2016年4月地域の農産物を活かす工場が本格稼動しました。そのミチナルの取り組みの5つの特徴を挙げます。
1.捨てない農業の実現
ミチナルでは、自社農場で栽培したほうれん草に加え、地元農家が栽培したほうれん草の端材を集荷し、分別後に24時間以内に製品化するために、洗浄→選別→茹で上げ→カット→急速凍結→袋詰めまで一貫生産します。
日本の食糧自給率については今更言うまでもないでしょう。世界情勢の変動や食品衛生面の不安から、やはり国内での安定供給源の確保は国民の期待でもあります。2.安定した農業経営の実現
これまで廃棄に負担のかかった端材が、逆に買い取ってもらえることで農家の収入になることは安定した農業経営につながります。一方で高山市内で500軒あるほうれん草農家のうち、ミチナルが契約している農家は未だ30軒程度。農家の中には「ごみじゃないか。こんなの商品じゃない」と言って「端材」が商品化されることへの抵抗感が残っている。これはブランド化及びその維持に尽力している農家の誇りかもしれません。現在は、その想いをどう突破するのかが大きな壁になっています。3.流通のビジネスモデル
端材は直接農家から仕入れるのではなく、地元JAを通して仕入れています。JAの営農指導による出荷基準をクリアした原料を確保することと、JAにミチナルの取り組みを理解してもらうために、生鮮出荷はJAへ、端材はミチナルへという仕組みを作ったのです。「排除」するのではなく、JAとの「協創」路線で進めています。4.農業の6次産業化への挑戦
6次産業化とは1次産業+2次産業+3次産業という意味で、農家が生産したものを自ら製品に加工し、販売まで行うもの。ミチナルでは女性社員のアイデアで、端材を加工した商品から、さらにそれを活かしたカレーやピザ、惣菜などの加工品を産出→販売へとつなげています。5.異業種の連携で事業展開
もっとも大きな特徴は、脱自前。食品メーカーや食品卸、野菜仲介業者など異業種会社と連携し事業展開を図っていること。出資した異業種企業をはじめ、地元の銀行、経済界が応援する高山市で他に類のないファンドが成立しています。
地域に貢献することは、やりがいのある可能性に満ちた課題。だからこそ独り占めせず、地域を巻き込むことが重要なのでしょう。事業の継続性という観点でも受け皿を大きい方がいい。ちなみに「ミチナル」とは、未来に向けて農家と市場、農家と生活者をつなぐ「未知なる道をつくろう」という願いから付けられた名前だそうです。
- posted by komasagg at : 20:37 | コメント (0件) | トラックバック (0)
コメントする