2018年10月04日
「地域の誇り」とされるブランド作り ~宮崎本店③~ 人知を超えた自然への感謝が地域貢献へとつながっている
三重県四日市市にある宮崎本店は、1846年創業の老舗企業。地元三重県では、清酒「宮の雪」の蔵元であり、東京下町の居酒屋で有名な焼酎「キンミヤ」のメーカーとしても知られています。地域に根ざし現在も発展している宮崎本店の取組みについて、今回も「地的経営のすすめ」(佐竹隆幸著:神戸新聞総合出版センター)から要約しながら紹介していきます。
ご存知かもしれませんが、酒造りには「杜氏」の存在が不可欠です。杜氏(とうじ)とは、酒造りの最高責任者のこと。杜氏のもとで酒造りに携わる職人は蔵人(くらびと)と呼ばれます。杜氏・蔵人たちは、農閑期となる晩秋からの早春の頃にかけて、農村から酒どころの蔵元へ出向いて酒造りを始める人たち。作り手だからこそ、その年の米の育成状況を熟知し、それに合わせた酒造りができるのです。しかし杜氏も高齢化が問題となっており、宮崎本店では南部杜氏(岩手県)に指導を受けながら、自前での杜氏育成を始めました。
宮崎本店は昭和26年に株式会社に改組し、平成10年にはISO9001、平成11年にはISO14001も獲得している、立派な会社。そんな会社の持つ、例えば週休二日を始めとする制度と、休みなく働く酵母を扱う杜氏の業務とは反りが合わないのですが、高品質の清酒をこの場所で造り続けるために、敢えて社内杜氏の育成に取り組んでいるのです。
「例えばフランスのワイン。ボルドーのシャトーマルゴーが、ユーロの為替変動の影響を受けて、南アフリカで作られることになった、などということはあり得ない。私たちも同じです。ここでしか造れないものを作っているのです」(六代目社長宮崎由至氏)
場所を変えて造った日本酒や焼酎は、全く別のブランドになってしまう。地域へのこだわりは酒造りのこだわりでもある。
「お酒造りは、お米作りも似ていて1年がかりです。しかも工業化とは少し違います。複雑ですし、人知を超えた部分も感じられます。最後の最後は、人間の力ではなく、自然の力で完成していると思います。」(六代目社長宮崎由至氏)
特に清酒造りは、土地、米、水、空気、そして発酵技術を持つ人、それらが揃わなければならない。人知を超えた自然環境への感謝が、宮崎本店の酒造りの基盤にあるのでしょう。
「現在のこの環境が維持されない限り、私たちは生産を続けられなくなってしまうのです。ですから、ISOはもちろん、地域の環境が疲弊しないように、一緒になって取り組んでいかなければなりません。」(六代目社長宮崎由至氏)
それは地域を支えている他企業、産業も同じ。地域も企業や産業も相互に連携し合い、地域との運命共同体として企業は存立するのです。
宮崎本店の経営理念は「社会貢献できる企業を目指します」。経営方針でも「社会との調和を大切にし、地域社会の発展に貢献出来るよう努めます。会社と地域社会がともに繁栄することを願います」としています。それが社員意識を大きく変えました。
地元四日市市楠町の清掃運動に、会社として当番制で参加していた時期があった。当番となった社員はイヤイヤ清掃に参加していたらしい。しかし、グループ討論の中でこの理念を作り上げてからは、50人もの社員が自主的に参加するようになった。しかも会社のトラック、フォークリフトを使っての清掃活動に発展したのです。
モンドセレクション(世界酒類コンクール)への参加も、世界にその品質を示すだけでなく、地域貢献にも繋がっています。
「25年連続金賞の表彰を受けたというニュースが地域に流れたとき、私が墓参りに行くと見知らぬ人から『地域の誇りや』と言われたのです。涙が出ました。地域を代表して世界に出て行くことも、地域貢献の一つだと思うのです」(六代目社長宮崎由至氏)
地縁とは単に「同じ地域に存在している」というだけではない。各々がその地域の環境の恩恵を受け感謝していることを基盤として、その上でさらに相互に影響を受けながら存在している、ということ。「 自然と人 」そして「 人と人 」の立体的なつながりが地域の活力に結び付いているのです。
- posted by komasagg at : 19:20 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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