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2020年08月12日

原田左官工業所~女性の参画で広がる市場と確立した教育システム

写真はコチラからお借りしました

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まるで美容室かカフェのように見えるこの空間。実は原田左官工業所の「SAKAN LIBRARY (左官の図書館)」というショールームです。ここでは左官は勿論、スタッフがお客さんの前でサンプルを作ることもできます。今回も前回と同じく女性が参画することで大きく飛躍した会社として、原田左官工業所を取り上げます。

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原田左官工業所は1949年創業。左官という仕事は、重い材料を運んで混ぜ合わせ、長時間コテを使って、壁や床、土塀などを仕上げる重労働です。左官業者の多くは一人親方か、数名の家族経営ですが、原田左官工業所は40名以上の社員がいる企業経営組織です。そしてそれを支えているのが ①女性の活躍②内部マネジメントです。

①女性の活躍による新市場開拓
原田左官工業所の女性活躍の取り組みは1989年から始まります。当時バブル経済真っ只中で超多忙。そんな人手不足の中で、左官の仕事に興味を持った事務職の女性が転身しました。その女性職人の誕生により新しいアイデアが次々と生まれます。

それまでは漆喰壁は真っ白が主流でしたが、女性職人は試しにアイシャドーや口紅を混ぜて色を付けてみたり、意図的に凸凹を作って質感を出したりと、女性ならでは着眼点とアイデアで、デザイン重視の施主や設計事務所から高評価を得るようになったのです。そして「原田左官レディース」を結成。ただ受注した仕事をこなすだけではなく、提案型に切り替えて付加価値の高い仕事に取組み、販路を拡大していったのです。

90年代になると建築業界ではリフォーム市場が活性化します。その流れでおしゃれな飲食店や雑貨店などのトレンドとして、漆喰壁などの左官技術が注目されるようになりました。一般的に左官工事は「野丁場(ゼネコンが手掛けるビルやマンション)」「町場(個人住宅)」の二種類ですが、原田左官は女性職人の感性を活かした「店舗左官」が売上の8割を占めるようになったのです。

女性職人の誕生で、建設業界特有の「3K(きつい、汚い、危険)」が見直され、社員用の更衣室や休憩室もできました。何より会社に明るさをもたらし、職人同士のコミュニケーションも活発になり、体育会系の序列も緩和され、若い人が入社するようになったのです。勿論、妊娠出産に対しては柔軟な勤務形態が認められていて、ママさん職人も登場します。

②内部マネジメント面としても教育訓練システムの構築
建設業界に限らず、旧来からある職人の育成法は「見て覚えろ」方式です。しかし今の若者には通用せず、仕事が続かない原因の一つ。左官業も同様で、やる気ある若者が入社しても、一年近くコテを持たせてもらえず、運搬や片付け、掃除といった下働きを黙々とこなし、現場で時間のある時にだけ先輩から教えてもらうのが通常でした。これでは女性も若者も先行きが見えず不安になってしまう。

そこで原田左官では男女を問わず「4年間で一人前の職人になる」ことを目指した教育訓練システムを構築しました。その概要を見ていきましょう。

1年目    4~5月    :モデリングによる左官の基本習得
       5~10月  :専属の教育係の先輩に「働く」ことの意味を教わる
       10月~    :教育係の先輩から卒業して様々な現場を経験
       12月  :モデリング披露研修会
2~3年目  一人で現場に行く機会を作り、自分の頭で判断する習慣をつける
      「ブロック・防水」の社内検定実施
3~4年目  現場を取りまとめるリーダー体験。施主へ仕上がったものを引き渡す。
      二級技能士(都道府県試験)の取得指導。社内で試験対策講習会実施。
4年満了  見習い期間が終わり、晴れて職人の仲間入り。

この教育システムを導入してから同社の離職率は40%→5%に激減しました。
1年目に行うモデリングとは、現場に出る前に練習用のベニヤ板に繰り返し壁塗りトレーニングを行うもの。この狙いは、コテなどの基本道具の使い方の訓練だけでなく、最初に仕事も面白さ、モノ作りの楽しさを感じてもらうこと。
モデリングでは予め収録された名人の左官が塗っている姿や作業手順を映像で見ながら、一流の職人の動きを真似ていきます。現代版「見て覚える→そしてマネる」訓練です。さらに新人の塗り姿も撮影し、名人との違いをパソコン等の画面上で確認しながら、自分自身の動きを修正していきます。ゴルフのプロと自分のスィングの違いをビデオで比較しながら修正していくのと同じです。

上記の2つは全く別物ではなく、男世界の中に女性を取り込んだことにより、これまでの悪しき常識を覆す人材教育のシステム化に取り組むことができたのです。技術や志の継承は男の領域ですが、集団を繋ぐのは根っこにある人と人との充足関係で、ここは女性の得意分野。両方が相まって人材教育が可能になるのです。

改革には「よそ者、わか者、ばか者」が必要であると言われますが、建設業界にとってまさに「よそ者」である女性が参画したことで、伝統的な職人の世界も大きく変わったのです。

※参考:「日本でいちばん女性がいきいきする会社」(坂本光司 藤井正隆 坂本洋介 著:潮出版社)

 

 

 

 

 

 

 

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