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2022年07月09日

【左脳・右脳の進化史】5.哺乳類が獲得した大脳新皮質~6層構造のしくみ

魚類~両生類~哺乳類~霊長類~人類に至るまでの、左脳・右脳の機能差→左脳・右脳の連携、統合への進化を探索する【左脳と右脳の進化史】シリーズ。

今回は、哺乳類の脳の最⼤の特徴のひとつである「大脳新皮質」。その特徴的な「6層構造」のしくみを取り上げます。

脊椎動物が出現した段階で、脳の基本構造(大脳、間脳、中脳、小脳、延髄)は既に形成されていました。しかし、哺乳類では脳のある部分が著しく肥大化し特殊化しています。それが脳新皮質です(詳しくは前回の記事を参照)。大脳新皮質は胎児の段階で形成されいていきますが、同時に他の構造も発生します。大脳新皮質の内側に発生する「海馬」と「扁桃体」とそれです。大脳新皮質は海馬、扁桃体と相互に連絡し、哺乳類独自の脳回路を形成します。

この⼤脳新⽪質を顕微鏡で観察すると、⽪質の内部に多くの神経細胞が整然に並んでいることがわかります。この神経細胞の並びから、⼤脳⽪質は6つの層に区分されています。この⼤脳新⽪質の6層構造こそが、哺乳類の脳の最⼤の特徴のひとつで、現存するすべての哺乳類に形成されます。

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図1「大脳新皮質の6層構造」

上の左図は、神経細胞のみが描かれていますが、白い部分はグリア細胞で満たせれています。グリア細胞は神経細胞以上の数が存在し、自ら駆動物質(情報伝達物質)を放出することで、神経細胞の活動を制御しています。

次の図は、霊長類の大脳新皮質の断面構造を比較したものです。

図2「霊長類の大脳新皮質の構造」

霊長類では、原猿→真猿→類人猿の進化ともに、⼤脳新⽪質の厚みはより厚くなり、6つの層それぞれに層構造がより細分化していく傾向があるようです。そおらく、樹上に適応した霊長類は、樹上の過密化→恒常的な縄張り闘争にともない、同類把握のための情報(外識)が飛躍的に増大し、それに対応して大脳新皮質も飛躍的に発達したのだと思われます。

次は、6層の情報の流れです。

図3「6層の情報の流れ」

各層ごとに、情報の入力、処理、出力の機能を持ちます。

■感覚器官がキャッチした外部情報は、視床を経由し、第4層(一部第1層)に入力される。

■第4層で受けた情報は、これより上部の第2~3層の神経細胞に伝達され、そこで情報の処理:分析→組み替え、再統合等がおこなわれる、

■第2~3層で処理された情報を受け取った第5~6層は、大脳中枢系(辺縁系)に伝達する。

■また、第2~3層で処理された情報は、脳梁を経由し反対側の大脳新皮質へ、あるいは、より上位の領野へと伝達される。

■第1層には、ほとんど神経細胞はなく、第2~3層の錐体細胞からでた樹上突起や軸索が張り巡らされている。

このように、大脳新皮質は、外部からの情報を受取り(第4層、第1層)、その情報を処理(分析→組み替え、再統合など)し(第2~3層)、再び大脳新皮質の外へ情報を送り出す(第5~6層)、といった回路を形成しています。
(それ以外の6層間の情報伝達経路や、大脳中枢系に送られた情報の一部が、再び第4層に戻るループ回路もあり、実際は、かなり複雑になっています)

大脳新皮質は、領域により異なる役割を持ちますが、前頭葉であれ、側頭葉であれ、どの領域でもこの6層構造は共通です。これは、大脳新皮質は、どんな情報であれ、状況に応じて内部回路を組み替えたり、連絡する領域を切り替えることで、生存に必要な機能を実現できるという、極めて柔軟性の高い回路であることを示しています。脳卒中などで脳のある領域が機能しなくなっても、ほかの領域がその役割を担うことができるのも、大脳新皮質が6層構造という共通構造を持っているからです。

哺乳類はほとんどが未熟な状態で生まれ、後天的に生き抜く力を身に着ける戦略をとった生物です。生まれたときには神経細胞は存在しますが、乳児期にはそれらはほとんどつながっていません。生後の遊び行為などを通してその回路を後天的に繋ぎ直します。これを可能にしたのが、柔軟に組み換え可能な基本構造を持つ大脳新皮質なのではないでしょうか。

次回、霊長類、人に照準を絞り、大脳新皮質のしくみに、もう一歩踏み込んでみます。


参考文献「遺伝子から解き明かす「脳」の不思議な世界」 一色出版

図1:図1:素材ライブラリー.com+WIKIPEDIA「Cerebral cortex」の写真を組み合わせ作成
図2:「遺伝子から解き明かす「脳」の不思議な世界」の図版を加工
図3:「遺伝子から解き明かす「脳」の不思議な世界」の図版を引用

 

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