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2023年02月07日

先端企業の戦略(2) ~・メルカリの中にある温故知新②・~

前回、メルカリの仕組みが、経営学のテーマの一つである「アドバース・コレクション」と呼ばれる販売側と一般の買い手側の情報不均衡を解決していると説明しました。

「情報不均衡」なんて聞けば難しそうですが、そんなことはありません。要するに、売る側は商品について品質の良し悪しに関わる情報をたくさん持っていて、一般の買い手はそうそう詳しい情報を持っていない。そのため、買い手は、売り手からお値段以下のものを売りつけられる可能性が高まる。売り手の間の競争も、買い手に正直に情報を開示する売り手は儲けが少なくなり、適正価格よりも高く売る業者が生き残る――というものでした。

「騙し騙されなんて、商売では当たり前。そんなもの問題でもなんでもないよ」という人もいるでしょう。また「稼げない者が経済市場から退場していくというのは、当然ではないか」という人もいるでしょう。

ごもっともです。しかし、より良くなる可能性があるなら、それを追求するのが人類というものではないでしょうか。だいたい、「自分第一。そのためなら正直でなくてもいい」という集団や社会の在り方はいつか破綻を招く恐れが高い。

競争は否定しませんが、その労力はお客さんに喜ばれる方に向ければいいのでは。メルカリが目指している先はそこにあるように思えます。そのためにIT技術を使っているのであって、儲けるだけのためにテクノロジーを使用しているのではないように見えます。

ここで視点を変え、ヤフーオークション(ヤフオク)とメルカリを少し比較してみましょう。似ていると思われる両者を考えることで、メルカリの志向がはっきりするはずです。

●ヤフオクとの違いはどこ?

ヤフオクの「オークション」とは、一般的にオークションは富裕層が資金力を競い合って競り落とす仕組み「競り落とす」という言葉の通り、「競って、力(=資力)のある者が独り占め」します。ヤフオクは、本来、富裕層のものであるオークション(資力で競って、独り占めする)という仕組みを一般の人が利用できるようにしました。自分のお宝を売ることができる、その意味でオークションを大衆化したわけです。

ですが、どんなに大衆化させたとしても、オークションの本質は「資力で競って、独り占め」で、私権志向です。一方、メルカリのフリーマーケットは、売る方と買う方が相対して、互いを評価する中で成立します。「相対する」という言葉が示す通り、資力主義や私権志向とは違うものがそこにあります。

さて、フリーマーケットはそもそも「市(いち)」が原型で、市の始まりは物々交換なのです。物々交換は市井の人たちが日々の暮らしの仕組みで必要なものでした。ここに昔の商いの本質があります。

昔の人々は共同体の中で生きていました(例えば村落)。そこで、売り手がだますような商売をしているとどうなるでしょうか。恐らく、その売り手はその共同体から排除されてしまうでしょう。だから、昔の共同体時代の商売人は共同体に住む人のためになる商売を心がけなければなりませんでした。

しかし、時を経るにつれ、共同体外での商売が増えていきました。そして、それは売り手と買い手双方の「顔が見えない」商売となっていきました。

「顔が見えない」とは、それぞれの人間性が分からないということです。故に、原初に合った商売の本質「相手の役に立つものを売る」「相手がちゃんとつくっているものを買う」が無くなっていき、私権追求だけが目的となっていきました。それは、商いから人が疎外された状態であることを意味します。

産業革命を経てテクノロジーが発展し、大量消費社会になると、ますますこの疎外は大きくなっていきました。そして、その害が顕著になってきました。前述したアドバース・セレクションの問題です。

メルカリは、単なるネット上の仲介プラットフォームをつくろうと思ったわけではないでしょう。恐らく現代ビジネスの背後にある、売り手と買い手の疎外関係を解消し、何とかしたいという考えがあったのではないでしょうか。それは単に「ネットでフリーマーケットを実現できたら楽しいだろうなあ」という単純な思いだったのかもしれませんが、単純だとしても、そこに売り手と買い手の笑顔を思い浮かべていたことは間違いないと思います。

近江商人の理念に「三方よし」という考えがあります。「売り手よし、買い手よし、それが社会にとってもよし」というものです。先端企業のメルカリがこの理念と合致しているというのは面白いですね。

どんなに最先端に見えても、その奥には「人が笑顔になって役に立つ。それが社会にとってもよいこと」という、かつての共同体的な原理がなければならない――。メルカリはその好例を示してくれているような気がします。

ちなみに、ヤフオクとメルカリのスマホからの利用者は、2018年6月にメルカリが抜いて、1600万人(ヤフオク)、1750万人(メルカリ)となりました(その後も差は広がりました)。多くの人の中で「資力が勝つ世界」よりも、温故知新の「三方よしの世界」の方が価値あるものになってきているのかもしれません。

 

 

 

 

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