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2023年02月02日

先端企業の戦略(2) ~・メルカリの中にある温故知新①・~

メルカリという企業をご存じでしょうか。利用したことがなくとも名前は知っている、という人は少なくないでしょう。簡単にいえば、ネット上で行う個人売買を支援するビジネスです。具体的には、蚤(のみ)の市やフリーマーケットを想像していただければ分かりやすいかと思います。それがネットで行われていると考えてください。メルカリはそのシステムを提供している「フリマサービス」のIT企業です。メルカリ以外も似たよ うなフリマサービスを提供しているIT企業はありますが、メルカリが日本最大です。

年配の人の中には「ネットの蚤の市? なんだか、めどうくさそうだな」と思うでしょうが、決して難しくありません。売りたいものがあれば出品して売る、出品物で買いたいものがあれば買う――という極めて単純な仕組みです。

「要はオンライン販売ということでしょ?」と考える人もいるかもしれません。オンライン販売の側面は確かにありますが、アマゾンや企業のオンライン販売と違うのは、一般個人が出品者になることができるという点です。通常のオンライン販売は、出店者の身元を仲介会社(例えば楽天市場なら楽天株式会社)が審査した上で出品させています(出店させている)。それは取引の信用を仲介会社が保証しているということです(完全に安全だとは言い切れませんが)。

一方、フリーマーケットは、業者が出品することもありますが、基本、個人が中心です。

ではメルカリではその信用の担保をどうしているのか。それは次のような段取りで保証しています。

●情報の不均衡を整える

商品を買う際、購入者は出品者にお金を払います。それをいったんメルカリが受け取ります。そして商品が購入者に届くと、購入者はそれが約束通りのものかどうかを確認し、商品の評価をします。その評価を受けてメルカリは出品側に預かっていた代金を支払います。そして出品者も購入者を評価します。

ポイントは「評価をしたのちに支払いが行われる」という点です。たったこれだけで、「商品が届かない」や「商品が写真で示されていたのと違う」などのトラブル、もっといえば商品詐欺行為のような犯罪を抑止できます。また売り手(出品側)も購入者を評価するのでクレーマーのような人を排除していくことができます。

しかも、この「評価してからの後支払い」というシステムは、市場自体を公正な状態に調整する機能が働くのです。どういうことかといえば、売り手と買い手との間には絶えず、その商品の情報(それが市場でどの程度のランクの品なのか。それによる値段は適正なのか、など)について、不均衡が生まれているからです(売り手は商品の多くの情報を持っているから有利、買い手は商品の情報を保有していないから不利)。これをそのままにしておくと、あくどい商人が市場を占有してしまいます。次の例で考えてみましょう。

●どちらの業者から買ったらいいのか?

仮にブランド物の中古販売業者「A業者」と「B業者」が存在したとします。あなたはAかBのどちらからか、Cブランドの中古バックを買おうと思っています。

A業者は「Cブランドのこの中古バッグの価値は25万円。値付けを30万円にしよう」、

B業者は「Cブランドのこの中古バッグの価値は10万円。どうせ消費者は分からないだろうから、値幅を多く取って30万円で売ろう」としています。

あなたは両方の業者に「値引きできますか」ともちかけると、A業者は「そうですね…1万円引きでいかがでしょうか」と答えました。一方、B業者からは「5万円引き致しましょう」との返答がありました。

さて、あなたはどちらから購入するでしょうか。もしかするとA業者に好感を抱くことができたのでA業者から買うかもしれませんが、商品の見た目が同じなのに5万円引きしてくれるB業者から恐らく買うでしょう。

その結果、A業者のバッグは売れ残りました。正直な商人はビジネスに失敗したわけです。一方で、B業者のバッグを購入したあなたは、そのバッグの価値以上に支出してしまったといえます。

長期的に見れば、A業者は利幅が少なく、しかもあまり売れないので経営に苦労し、やがて店を畳むかもしれません。B業者は利益が出ているのでビジネスを拡大していく可能性があります。

一見、よくあるビジネスの事例ですが、この事例には2つの問題点があります。

●経営の課題を解決

1つは、「質のいいものを適正価格で買いたい」買い手に対して不利益をもたらす点。

2つ目は、「質のいいものを正直に売っていきたい」売り手が市場から締め出されていくという点です。

実は、この問題は経営学で「アドバース・セレクション問題」という名前で知られている経営課題の一つです。メルカリの「評価して支払う」という仕組みは、このアドバース・セレクションの問題をかなりの部分で解決します(完全には解決しません。それはなぜか皆さんで考えていただきたいと思います)。

そもそも、メルカリの仕組みでは、売り手側の販売価格(つまり値付け)は適正、もしくはそれに近いはずです。他と比べて極端な安い価格ならばそれは相応の理由があると理解できます。質の低い品は安くしないと、辛口の評価を付けられて、その出品者は市場から退場させられていきます。

現実の店舗で売っている売り手には、評価圧力がなかなか働きません。アマゾンや楽天のようなECサイトは口コミがありますが、そのコメントは玉石混交ですので自分事に置き換えられませんし、そもそも、メルカリのような、売り手による買い手評価もありません。その意味でメルカリの「評価する(正しくは『評価し合う』ですが)」は、なかなかいい仕組みなのです(もちろん完璧なシステムではありません)。

メルカリのフリマサービスは、売り手と買い手の間にある「情報の不均衡」を埋めました。これはは第1回で定義した「不易と流行を合わせ持っている」の流行(IT)の部分です。もう一つの「不易」はどうでしょうか。それは次回の投稿で示してみたいと思います(次回は2月7日予定)

 

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