2007年02月05日
働く女性:明治/大正~女性の労働の実態③~
タマゴ丸さん が言われていた、「女性の労働」が社会の問題として浮かび上がってきたのは 明治時代からのようです。前振りもなくいっちょかみですが。。。
人口の9割は農民 、という近代化の夜明け前 の時代。
1872年(M5年)政府は群馬県に富岡製糸場を開業すると、「富国強兵」「殖産興業」の掛け声の下、次々官営模範工場を開設し、順次民間に払い下げます。
そんな中、今迄の生活基盤から離れた女性労働者が女工を皮切りに浸透していきます。
1872年(M5年) ・群馬県で官営富岡製糸場開業
・僕婢・芸娼妓解放令、人身売買の禁止
1873年(M6年) ・地租改正
~この間製糸場・紡績工場発展
1885年(M18年) ・初の女性医師が「産婦人科荻野医院」開業
1886年(M19年) ・山梨県甲府の雨宮製糸場で工女による日本最初のストライキ
1890年(M23年) ・日本赤十字社病院が看護婦生徒の養成開始
・東京~横浜間に電話が開通し女性が交換手に
・マッチ、印刷、紡績等の工場労働から女性が転職で、「牛乳配達人となる者多し」
の記事が新聞に
1898年(M31年) ・民法 公布・施行
(武士階級の家父長制的な家族制度を基にした家族制度・相続制度が定まった。)
・銀行・会社・官庁での女性の採用浸透
1899年(M32年) ・高等女学校令公布・施行
(家庭婦人としての芸技教養の習得の位置づけ)
1911年(M44年) ・工場法公布
明治に入り、版籍奉還などで身分制度は華族・士族・平民に再編成され、1873年(M6年)の地租改正で納税制度は米 の物納から、地価に応じた税金を徴収する制度に。それまでの商人・職人の組合は廃止され、武士の給与も打ち切られ、失業者 や賃金労働者 にならざるを得ない人々が続出しました。
そうした状況下、近代化を急速に進める国家の梃子入れで女性も工女を初めとする職業に就き始めましたが、食い詰めた士族の娘や貧困に喘ぐ農家の娘などが半ば身売りのようにして 働き始めたもので、過酷な重労働。
明治時代の 読売新聞DBを検索すると、工女の自殺や逃走なども含む200件以上 の扱いがヒットするとか。。。
M44年の工場法の公布も殆ど奴隷状態の工場労働環境を規制する為のものですが、実態は法の施工後も余り改善しなかったようです。ただし、農家の暮らしなどもかなり厳しいもので、工場による違いもあったのでしょうが、「農家に比べたらまだましだった」といった女工の言葉も残っています。
明治時代、仕事関連の他に注目すべき点は民法の公布。産業の発展で綻びを見せ始めた 農村の建て直しも含め、家を単位に家父長権を明確にし、士族に近い男子相続の制度を始め、男を軸にした家族のあり方が規定されます。
それ以前は、例えば離婚に対する意識などもおおらかで、 普通離婚率は2006年の2.15と比べても1883年(M15年)で3.38、1890年(M23年)で2.73と高く、 家の縛りは案外緩いものでした。民法公布後は1900年(M33年)で1.46と激減し、女性にとっては相続による財が無いこと等も含め家の束縛がきつくなりました。
こうした変化を背景に、経済基盤が無いから地位が低い ので、手に職を持つべき 、家事労働 の再評価や相続の権利 の見直しをといった主張も高まりますが、女性の自立や立場向上を訴えて労働を奨励する女性雑誌 などの主張の背後にも、富国強兵を進める思考は根付いていたようです。
様々な産業 の発展と共に、女性の職場も徐々に広がりを見せますが、小学校教師 、看護婦 、少数の医師の他は工場労働や内職 が大半で、家計の補助的な存在として賃金も低い ものでした。
さて、こうしてみてくると、ついこの時代から、ここ数十年にも通じる様な男女の労働格差に喘ぐ女性像を頭に描いてしまいますが、大半は農民の時代 。都市と農村との差の大きさ、平民・士族・華族といった身分の差もあり、一様だった訳ではないようです。
いわゆる庶民はどんな感じだったんでしょう 1888年と1899年に来日して日本の上流階級と交わり、日本で教師をしていたアリス・ベーコンというアメリカ人女性が当時の日本の各層の女性達を観察した興味深い記述がありました。
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引用は全て
アリス・ベーコン著 「明治日本の女たち」より
■離婚。。。
今でも日本人は、結婚生活を必ずしも一生のものと考えていない。夫と妻の双方から結婚を解消することができる。庶民は離婚に対して強い抵抗感もないので、結婚と離婚を幾度も繰り返す男性は珍しくない。女性だって、一度や二度離縁されても、再婚や再々婚することはしょっちゅうある。
前述の 離婚率 にちょっと驚いた のですが、実際こんな雰囲気だったようです。。。何だか昔の方が良妻賢母とか、つつましくとか 、耐え忍んで でも家 をたてるイメージ強かったんですが。。。
■夫婦間の地位
上流階級と庶民では、妻と夫との関係が明らかに異なっている。商人や貧しい農民の妻は、天皇陛下の妻よりも、はるかに夫の地位に近い。明らかに身分がひとつ上がるたび、男性は同じ階級の女性よりも少しずつ偉くなるようだ。農夫とその妻はふたり肩を並べて畑仕事に励み、同じ荷物を運び、食事は同じ部屋で一緒にとる。家庭を支配するのは、性別の如何にかかわらず、気性の強い方である。夫婦のあいだに大きな溝はない。
最近でこそ形無し ですが、残存する父系の家庭 のイメージ は士族の家庭イメージなんですね。
■庶民の女性の立場
東京では朝になると、農夫とその家族が、薪や炭、田舎でとれた野菜などでいっぱいになった荷車を押しながら、ゆっくりと道をすすんでいくのをよく目にする。車輪をきいきい鳴らしながら、年配の男性とその息子、赤ちゃんを背負った息子の妻が、全員で必死になって重い車を押したり、引いたりしている。~中略~ 夕方になって帰るときは、売りさばいた荷物の代わりに、妻と赤ちゃんが荷台に乗っている。そのまま近隣の村にある家まで男たちに引かれて帰っていくのだ。ここにも、アメリカと同じような女性観がみられる。つまり、女性は立場が弱いのではなく、力が弱いのである。
■都市と農村
田舎ではどこでも、女性は野良仕事をし、お茶を摘み、穫入れし、収穫を市場へ持っていくのに加え、蚕を育て、絹糸や綿糸を紡ぎ、機を織るなどして直接生産に関わり家族に収入をもたらしている。このように女性が大切な労働力となっているところでは、一般にみられる男女間の地位の差は著しく狭まる。しかし、都市部の女性や、間接的にしか、あるいはまったく生産に関わらない女性には、他人にかしずくような、アメリカでは卑しいとしかみなされない奉公以外に仕事はない。このような理由で、階級が高くなればなるほど、また同じ階級であれば都市に近くなればなるほど、男女間の地位の差は明確になるのだと思われる。
生産から切り離されたり、都市で生活基盤をもたない労働者にならない限り、大半の人はまだまだ現代的な問題を抱える以前に遮二無二働き 、村落共同体 で役割を果たしていたんですね。
■身分の差と女性達の充足度
日本の女性のなかで一番自由で自立しているのは間違いなく平民の女性である。日本中どこでも、ほとんど働さづめで、贅沢とは縁のない生活をしているが、その仕事ぶりからは、自立心や知性が感じられる。アメリカ人女性と同じように、家庭ではとても尊敬され、大切にされている。上流階級の女性と比べて、生活は充実していて、幸せそうである。家計に大きく貢献しているから、家族も彼女たちの言うことに耳を傾けるし、一目おいてくれる。
一方、日本の上流婦人は、結婚と同時に自由を放棄し、夫と義理の両親に服従し、かれらの召使いとなる。年がたつにつれ、その表情には、あきらめと、自己犠牲ばかりが続く人生の苦労の痕跡がみられるようになる。一方、農民の女性は、結婚した後も夫と一緒に仕事をすることで、単調な家事以外の興味深いことも経験するようになる。裕福であまり働かない上流階級の女性と比べて、農家の女性の表情からは苦悩や失望は感じられなくなり、歳をとるにつれかえって個性豊かになり、人生をより楽しんでいるように見えてくるのだ
外国からやってきて上流階級 に交わりながら、この著者も女性ならではというか、よく身分などに惑わされず 雰囲気や充足感を掴んでいるなあと感心。。。
この時代は、急速な近代化を推し進めながら、女性の新たな仕事を生み出す一方
・それまでの村落共同体のような基盤を持たない根無し草の都市生活者や労働者を生み出しはじめたこと。
・急速な近代化に伴う共同体のほつれを繕うのに、大半の庶民の実態にそぐわない、士族的な父系の「家」を強固に固め、女性・家庭と生産とが切り離されはじめたこと。
・それを大前提とした収入・手に職といった一面的な女性の地位向上の捉え方の促進。
など、現代の女性の役割非充足にもつながる急速な変化を生み出した時代だったようにも思えます。
大正に入ると、相変わらず劣悪な 工場労働に対応したT5年の工場法施行、T14年には有名な「女工哀史」の刊行など、急速な近代化に伴う影を背負いながら、女性の地位向上の運動は参政権の獲得 にむけても広がり、東京ではT13年に婦人職業紹介所も登場します。
一方、都市部ではバスや電車の 車掌、アナウンサー など、産業の発展と共に生まれた新しい職業に女性がつき始め 、女性事務員や タイピストが丸ビル などで活躍。「職業婦人」のような雑誌 も創刊し、「職業婦人」という働く女性イメージが浸透。女性労働者は都市部を中心に徐々に活躍の場を広げてもいきます。
- posted by basha at : 23:04 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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