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2020年03月11日

極寒の地でも発酵食品

日本は多湿であるので微生物の宝庫であることを前回記事に書きました。では生物が生きるのに極限的な環境ではどうでしょうか?

実は、北極圏に住むエスキモーのうちカナディアン・イヌイット(エスキモー)には「キビヤック」と呼ばれる発酵食品を食べる習慣があります。人が住んでいるとはいえ、冬は最高気温でも―20~―30℃、短い夏でも最高気温が1℃程度の極寒の地では微生物は生息しにくいので、イヌイットは発酵食品を持たない民族と言われていました。確かに歴史上酒を持たない民族として知られていますが、そんな中で、どうやって発酵食品を作っているのでしょうか?

キビヤックは、巨大なアザラシの腹の中に何十羽という海鳥を詰め込み、そのアザラシを土の中に埋め発酵させるというダイナミックな漬物なのです。

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具体的には、まずイヌイットたちはアザラシを捕まえるとまずその肉や内臓を食料として使い、皮下脂肪は削ぎ取り燃料や食用に回しアザラシの袋を作ります。次に海鳥の一種であるアバリアスを銃や雪網で捕らえる。このアバリアスは、日本に飛来していく燕を二回り大きくした海鳥。アザラシの空洞になった腹の中に下ごしらえもせず、羽も取らずアバリアスをそのまま詰め込みます。凡そ40~50羽を空気が残らないようにぎゅうぎゅうに詰込み、アザラシの腹を太い糸で縫い合わせ、地面に掘った穴にそのアザラシを埋めて上から土を被せた後に、重石を乗せていきます。この重石は良く漬けるためではなく、野犬やキツネ、狼、白熊などに掘り起こされて食べられないようにするため。

カナディアン・イヌイットの住むバレン・グラウンズ辺りの夏は実質3か月しかない。夏と言っても暑くはならないが、2年間放置しておくと6か月程度は発酵する。皮の中のアバリアスはアザラシの腸内細菌である乳酸菌酪酸菌酵母などによって発酵し、丁度くさやの匂いをさらにどぎつくしたような強烈な特異臭は発するように仕上がるそう。
掘り出したアザラシからアバリアスの肉を、イヌイットたちはすすって食べるそうです。あの冒険家 植村直己氏も大好きだったそうです。

北極圏というところは気候風土が厳しいために野菜や果物ができない。植物からビタミンを十分に補給できないため、イヌイットたちは長い間、トナカイや白熊、鯨、アザラシなどの生肉を食べることによってビタミン類を摂取してきました。もちろん、常に生肉にありつけるわけではありません。キビヤックには発酵微生物群の生成した各種ビタミンが豊富に含まれているので、それを補う食事なのです。ただ2年かけて作るので前回ご紹介した熟れ鮓同様にお祝いの席での御馳走でした。

ところがアメリカ人やカナダ人たちが毛皮を求めてイヌイットたちと交流してからは、肉を焼いたり煮たりして食べることが増えたらしい。実はそうして肉を加熱するとビタミン類が失われてしまいます。そこで焼いた肉にキビヤックを付けて食べるようになったのです。欧米の文化がイヌイットの文化を侵食しつつあるようです。

それでも微生物は北極圏という地球の果てでも、人の周辺に棲息し人の暮らしを支えている。人はこの目に見えないものを活かすことによって生活圏を広げることができたのです。

※参考資料:「発酵食品礼讃」(小泉武夫著:文春新書)

 

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