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2016年04月26日

全員経営~自律分散型イノベーション企業②~ヤマトは我なり・・・クロネコヤマトの挑戦

前回のプロローグを受けて、今回から具体的な事例を取り上げます。トップはヤマト運輸です。
クロネコヤマトの「宅急便」を展開するヤマト運輸には「ヤマトは我なり」の社訓が示すように、社員の誰もが経営者の意識を持つ全員経営の組織風土があります。宅急便の生みの親である元社長、小倉昌男氏が配達するドライバーを「セールスドライバー」(以下SD)と命名したのも、配達するだけでなく、現場で顧客のニーズを掴み、自らの判断で取引に結びつける権限も委譲しているからです。
ここでは高齢者の生活支援を担うA.まごころ宅急便と、B.過疎地のバス路線を救う客貨混載の試み、を扱います。今回は「全員経営 自律型イノベーション企業成功の本質」(野中郁次郎・勝見明著:日本経済新聞出版社)を参照しながら、まずA.まごころ宅急便を紹介します。

A.まごころ宅急便
2010年に岩手県西和賀町からスタート。西和賀町は過疎化が進み、当時、高齢化率43%と県内1位で、買い物困難者の問題を抱えていました。
そこで登録した独居高齢者の家には「絆ワン」と呼ばれる小型端末機が配備されます。その青色の「ごようきき」ボタンを押すと、ヤマト運輸のコールセンターとつながる。買い物をするときは商品カタログの中から注文する。コールセンターから町の社会福祉協議会(以下、社協)へ連絡が行き、職員がスーパーマーケット「オセン」で商品をピッキング。ヤマトのSDが配達し、代金を回収。午前10時までに注文すれば即日届く。
豪雪の冬も、SDは車で行けなければ歩いて運ぶ。その際「声のトーン」「顔色・血色」「会話時間」「いつもと変わっているところ」といった八つの項目について安否を確認し、記入したシートを社協にFAXする。
※過疎化が進む全国から注目を浴び、現在は秋田、高知、岡山、北海道などでも始まっている。

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このサービスは、岩手県盛岡市の盛岡駅前宅急便センター長でSDの松本まゆみ氏が、2008年春に出くわした届け先で顔なじみの高齢者の孤独死がきっかけだった。
「半年間、自分を責め続けました。SDはお客さまの顔を見て荷物を配達します。判子をもらうだけがSDの仕事ではない。ならば何か役に立てないか。見て、触れて、気付いた情報を一人暮らしのお年寄りの見守りに活かせるのではないか。倒れてからではなく、倒れる前に気づく。」と松本氏は話す。

最初は弁当の宅配を活用する案。しかし「ウチはボランティアの会社じゃない」と支店長から承諾を得られず。何度やり直しても「事業費の捻出と個人情報の問題」がなかなか解決できなかった。

それでも2009年には県立大学福祉学専攻の教授と共同で、厚労省のモデル事業として高齢者の安否確認の実証実験が行うことになりました。県の社協が毎日、要支援の高齢者宛にメール便でお知らせを出す。手渡しするSDが安否確認し、社協にFAXを送る仕組みだった。民生委員が上げる情報とは違った様子も分かり、この見守りメール便は高い評価を得られましたが、実験は1ヶ月で終了。松本氏は再び長いトンネルに入ってしまう。

画像はここからお借りしました

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2010年6月に時計の針が再び動き出す。西和賀町社協の高橋純一事務局長から「うちの町を何とか助けてもらえませんか」と声がかかったのです。1週間後には松本氏は西和賀町に行き、町のドライブインに寝泊りし2週間、町の調査に明け暮れた。夜は共同浴場に地元のお年寄りたちと一緒に入り話を聞いた。一番苦労しているのは買い物だった。

地元スーパー「オセン」の社長の妻である副社長に買い物支援の打診をすると「やりましょう。やらないと進まない」と。ただ商品のピッキングまでは人手が無い。「それは社協で引き受けます」と高橋事務局長が請け負ってくれた。ここに独居の高齢者、地元スーパー、社協がヤマトのネットワークの上で結びつき、2010年、まごころ宅急便が誕生します

その後も釜石市、北上市、大船渡市、滝沢市、一関市と県内で次々よ立ち上げ、同時に西和賀町では、次の段階として地元商店街と連携し、登録者からの散髪、修理、家電の消耗品などの注文をヤマトのコールセンターが取り次ぐ生活支援サービスを開始しています。
松本氏は、行政、地域、各種機関、民間企業が結びつき、高齢者を孤立させない「一体型コミュニティ」が生まれる未来像を描き、こう提起しています。

・企業のノウハウは社会の財産であり、日本中の財産を持ち寄れば、企業が果たす役割の芽が高齢社会を支える幹となり、国を支える仕組みができる。
・ヤマトの集配拠点は全国4000ヶ所、車両は4万5000台、SDは6万人います。ラストワンマイルの網の目のネットワークがあり、SDは道があればどこへでも運びます。まごころ宅急便も、そのネットワークの上に乗っているだけです。全国どこでやっても、新たに何かを構築することも、新たな投資も必要なく、だから採算がとれる。ヤマトのネットワークの上でプラットホームを作れば、どの地域でも高齢者の孤独死をなくす仕組みがつくれるのです。

高齢者社会においては、交通インフラは道路整備だけでは足りず、そこを走る車も含めて社会インフラとして捉える必要があります。したがってヤマトは民間企業というカテゴリーを超えて、社会インフラ企業への可能性を拡げているのです。この社会福祉協議会までネットワークに組み込む『巻き込み力』こそが今後の企業の活力に直結する力だと考えられます。

 

 

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