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2017年09月07日

市場原理を突破した絆が地域をつなぐ ~移動スーパー「とくし丸」~

「買い物難民」という言葉を知っていますか。少子高齢化や過疎化などの影響により流通機能や公共交通網が弱体化したことによって、食料品や日用品など、生活必需品の買い物が困難な状況に置かれている人のこと。地方では、郊外型の大型スーパーの進出で近隣の商店が閉店に追い込まれる一方、自家用車や路線バスといった移動手段がない、あるいはあってもきわめて不便な状況に置かれた人々、特に高齢者にとって、郊外の店舗に買い物に出かけることが困難となっています。この「買い物難民」は、現在全国に約700万人、徳島県内にも約7万5000人いると言われています。

そんな中移動スーパー「とくし丸」は、買い物難民救済のために徳島市に誕生しました。今回は「日本のいい会社」(ミネルヴァ書房:坂本光司著)から要約しながら、「とくし丸」の活躍を紹介します。地域を結びつける新しい絆になっています。

「とくし丸」代表の住友達也氏は1957年生まれ。流通業界出身ではなく、徳島でタウン情報誌「あわわ」を創刊し人気メディアに育て上げた人物です。 自分の母親やその友人のように、自由に買い物に行けない人を助けたい、買い物難民という社会的な課題を解決したい。そのためにはビジネスとして収益を上げ持続性のあるものにしなければならない。そう考えて、移動スーパー「とくし丸」を立ち上げたのです。

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買い物難民となる高齢者が増えているのには、次のような理由があると考えられます。
 ・大手チェーン店によるスーパーの大型化と郊外化による地域密着の地元店の撤退や廃業
 ・核家族化による高齢者の独り世帯化
 ・バスや鉄道など公共交通機関の経営合理化による移動手段の減少
 ・行き過ぎたモータリゼーションと高齢による免許の返上
 ・長寿化による高齢者自身の身体的不自由の増加
(「日本のいい会社」より)

買い物難民に対して、例えばイオン、イトーヨーカドー、西友等がネットスーパー、その他でも移動スーパーに取り組んでいます。しかし、ネットスーパーの問題点は、そもそも対象となる高齢者がインターネットを使わない、直接商品を見ていないので納得した買い物になりにくいこと。
又、移動スーパーの場合、大抵どこかの広場を利用することになりますが、足の不自由な高齢者だと、そこまでも歩いて行けない。スーパー側も採算が合わず、行政からの補助金で何とか継続しているというのが現実らしい。 他にも宅配弁当というサービスがありますが、決められたメニューですぐ飽きてしまう。ならば「自分で買い物」となるのですが、コミュニティバスでの移動は身だしなみを整える手間と、バスの時間に合わせるのが煩わしい。家族の送迎さえも気兼ねするように、高齢者の買い物に対する壁は複雑な課題を抱えています。

そこでとくし丸は、冷蔵庫付きの軽トラックに、刺身などを含む鮮魚や精肉、野菜、果物などの生鮮食品から惣菜、弁当、寿司、パンなどの加工食品、菓子類、日用雑貨までスーパーの店頭に並ぶ商品を約400品目、点数で言えば1000~1200点をぎっしり積み込み、週に2回、高齢者の自宅の玄関先まで乗り付けて、高齢者自身の手で欲しいものを買える喜びを提供しているのです。自分の欲しいものをその場で見て買える喜びを、買い物難民となっている高齢者にも感じて欲しいという思いから、住友さんは「とくし丸」を「おばあちゃんのセレクトショップ」と呼んでいるのです。(「日本のいい会社」より)

流通業の経験のない素人同然の住友氏が考えるアイデアは、当初理解されなかった。そのため、住友氏の考えに賛同した1社のスーパーの協力の下、2012年自ら実験台として、軽トラック2台を用意して移動スーパーとくし丸をスタートさせたのが始まりです。

とくし丸の基本的なビジネスモデルは、とくし丸本部が事業推進のプロデュースをし、提供スーパーは商品提供、そして販売パートナーは個人事業主として商品の販売代行を行います。
これによって、提携スーパーは人件費や運搬コストなどの経費をかけることなく、販売手数料だけで自社商品の安定的な売り上げを確保することができます。販売パートナーは、仕入れによる買い取りリスクがないため、売れ残りを心配しないで軽トラック一杯に詰め込んで高齢者宅へと向かうことが出来ます。まさに、とくし丸本部、提携スーパー、販売パートナーの3者で収益とリスクを分け合う「三方よし」の仕組みとなっています。(「日本のいい会社」より)

しかし実際には、事業はなかなか思惑通りにいかず、開業3年間は赤字続き。原因を検証してみると、高齢者の中でも買い物難民の度合いは様々で、本当にそのサービスを求めている人たちに届いていなかった、ことが判明。

画像はコチラからお借りしました

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そこで、再度販売エリアを自分たちの足で一軒一軒回り、本当にサービスを必要とするお客さんを開拓する方法を体系化しました。

また、この事業を持続させていくためには収益を確保する必要があるということをお客さんに理解してもらい、商品の定価よりも全て10円加算して「買っていただく」という「プラス10円ルール」を考えました。スーパーといえば、他店よりもどうやって安く売るかが勝負。しかし本当に困っている人たちに感謝されるような商売であれば、商品が定価より高くなっても喜んで買ってくれるのではないだろうか。そういう価格競争ではない、事業そのもののあり方が重要であることに思い至ったのです。(「日本のいい会社」より)

ビジネスで考えた場合、今回は広く一般的な顧客を対象にしたものではなく、特定の顧客に対応する事業になります。したがって顧客との信頼関係構築がビジネス成立の鍵。その信頼関係は、顧客の満足度≒納得度に規定される。たかが10円にあらず、このルールそのものを成立させることがこの事業の最大の成立基盤なのです。

実際に、買い物をする高齢者からも、料金アップに関しては不満よりも
「ここまで運んでくれるのだから当たり前よね」
「10円なんて全然気にならない」
「ガソリン代とかもかかるからね」
といった労いの声の方が多くかかりました。(「日本のいい会社」より)

このルールの成立は人と人とをつなぐ共認原理の新しい基盤が、お互いに営利を追求する市場原理を包摂したことに他なりません。これからのビジネスはこの人と人をつなぐこと(≒ゆるやかな共同体形成)で創出されるのです。

 

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