2018年06月06日
学校が変われば地域が変わる。そして社会が変わっていく 「みんなの学校」②~子供たちが創る子供たちの集団
前回に引き続き、昨年観たドキュメンタリー映画「みんなの学校」からの記事です。
「みんなの学校」とは、2006年に開校した大阪市住吉区に実在する大阪市立大空小学校のこと。
初代校長の木村素子先生が「全ての子供に学習環境を保障する学校をつくる」という理念のもと、校則やマニュアルは作らず、「自分がされて嫌なことはしない、言わない」を子供も職員もみんなが守るたった一つの約束として運営スタートしました。
今回は、映画後の講演会で木村元校長先生が話してくれた「カズキとクラスメート」の話。
カズキの家にはお風呂がありません。育児放棄?とも言える家庭環境にいるカズキは、台所で体を拭いたりしますが、夏場はそれでは汚れが落ちず、教室で異臭を放っていたそうです。
数日は皆我慢していたのですが、クラスメートの一人がある日、突然「カズキ、お前臭いねん!たまらんから教室から出て行ってくれ!」と言い放ち、気性の荒いカズキが「何を」と突っかかり喧嘩になったそうです。「臭い、出て行け」「いや、かわいそうやろ」とクラス全体を巻き込んでの騒動になりました。
事態を聞いた木村校長(当時)が仲裁に入り、カズキの家庭環境を話した上で、クラスメートに質問します。
ではこれから皆にアンケートを取ります。
三択で出しますので、自分の思いに近いものに手を挙げて下さい。A.カズキは臭いけど、クラスメートだし何とか一緒に勉強したい。
B.臭くて我慢ならないので、カズキは教室から出て行って欲しい。
C.どうしていいか分からない。
木村校長は、キレやすいカズキとクラスの関係が良好になっているのを知っていたので、みんなの答えがAに集中すると想定していたそうです。
しかし残念ながら、ほぼ全てのクラスメートが選んだのはB。
確かに強烈な臭い。木村先生は「子供は正直で残酷」と思ったそうです。
皆の出した結果に、さすがのカズキもショックで落ち込んだ様子。
木村先生も皆の意見を無視することもできず、かといって教室から出すこともできない。どうしよう・・。
場の空気が重くなったそのとき、クラスメートの一人が「カズキ、お前、頭が臭いんじゃ。頭洗ったらええんじゃない?シャンプー持ってないんか?」と言い出したのです。
呆然と立ちすくんでいた木村先生も、ハッと思いつきクラスの皆に提案します。
「皆の気持ちは分かった。なのでカズキはこれから毎朝登校したら、まず校長室に来ること。
そこで先生がカズキの頭を洗います。臭いをチェックしてクラスに行くようにします。皆どうですか?」
この提案をクラスの皆も了承。
次の日からカズキは校長室に直行し、木村先生は家から持ってきたシャンプーでカズキの頭を洗い、チェックした後でクラスに行かせる日々が始まりました。臭いも取れクラスメートもこれまで通りの関係に戻っていったのです。
ところが数日経つと、前触れなくカズキが校長室に来ません。登校しているにも係らず、です。
ずっと待っていた木村先生はカーっと頭に来て
「こらカズキめ、一週間も経たずに、皆で決めた約束を破ったな!」
と、カズキのクラスに怒鳴り込んでいったのです。
ところがそこで校長先生が目にしたのは、教室の前にある手洗い場でクラスメート数人に頭を洗ってもらっているカズキの姿でした。
事態が飲み込めないでいる木村先生を見たクラスメートが言ったのは「あぁ先生、カズキの頭は俺らで洗うから。先生はもうええで」と。カズキも照れながら「先生、もうええで」とにっこり。
「あぁ、そうなん」今度は校長先生自身が、教室から一人放り出された気持ちに。
同時に皆を頼もしいと思い、そして来なかったカズキを「さぼった」と決め付けた自分を反省したそう。
校長室で髪を洗うことは、手法であって目的ではありません。目的はカズキがクラスで皆と一緒に勉強すること。一度決めた手段もその目的を達成する為にもっと良い方法があれば固執せず切り替えることが重要。しかも皆が納得≒充足するためには自分たちで見つけた方法が一番。
考えてみれば、残酷な結論を出したのも子供たちであり、最初のヒントをくれたのも、そしてより良い案を出したのも子供たち。
この答えを見つける力、見つけようとする意欲が、生きる力なのです。大人が無神経にそこに介入しない方が子供は力を出すのです。
先生と生徒、大人と子供、この序列関係から解き放たれる先に、互いの力を発揮し合える集団が見えてくるのです。
- posted by komasagg at : 18:45 | コメント (0件) | トラックバック (1)
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