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2018年11月28日

小ざさ ~店と客が「味」を守ることで40年以上行列が途切れない~

今回は「ちっちゃいけど世界一誇りにしたい会社」(坂本光司著:ダイヤモンド社)から学ぶべきことの多い会社を紹介します。

東京・吉祥寺のダイヤ街という商店街に「幻の羊羹」を売る「小ざさ」という店があります。店舗の広さは畳2畳のたった1坪。それでも年商は3億以上とのこと。

扱っているのは「羊羹」と「最中」のみ。値段も羊羹が675円で、最中が70円ほどのお手頃価格。
看板の羊羹は、一日限定150本商品。一人3本までなので、手に入る人は50人程度ですが、その羊羹目当てに北海道や沖縄など全国からやってきます。店の開店時間は午前10時ですが、朝8時半に番号札が配られ、その番号札があれば営業時間内に羊羹を買うことが出来るシステム。その番号札を手に入れるために朝4時から、盆暮れには朝1時から行列が出来始めます。これが何と40年以上続いている。

売上比でいえば10%程度のこの羊羹がどうしてここまで「小ざさ」人気を引き上げているのでしょうか。

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小ざさの経営者は1932年生まれの稲垣篤子氏。当時まだ主婦だった30歳のときに創業者である父親に弟子入り。そこから父親に認められる味になったのは篤子氏が60歳のとき。実に30年もかけて一人前になる修行を継続し父親の味を受け継いだのでした。

「小豆をひと釜に三升使って、約50本の羊羹が出来ます。それを毎日3釜分作るので、一日150本。父からは小豆を三升以上炊くと、この味は出来ない、と言われていました。あらゆる研究をして三升が一番良いと。だからそこは守り続けなければいけません」(稲垣篤子氏)

「羊羹は、小豆を三升炊いてそれを潰し、さらし餡にします。それを“呉”と言います。小豆を炊くのに1時間40分くらい、製餡して呉が出来るまでに合わせて2時間半くらい。それから煉りに入ります。砂糖と寒天を混ぜて煮詰めて溶かしたものを銅鍋に入れてさらに煮詰め、そこから生餡を入れて煉り上げるのです」(稲垣篤子氏)

こうして豆を炊き始めてから、羊羹の形ができるまで約3時間半。これを3釜分繰り返すと10時間半。三釜が一日で出来る限界、だから一日150本なのです。

篤子氏は父親から受け継いだ味を再現するために、いつも早朝から炭を起こし、釜に火を入れ、小豆を水で洗い、決まった量の材料を使い、決まった工程で炊き上げていきます。「決まったことをやる」といっても単純作業ではありません。小豆を洗いすぎず、その日の気温湿度に気を配って火加減調整して、ようやく「いつもの味」が完成するのです。

稲垣氏は修行中に、「風が見え始め」「澄んだ炭の炎の力強さを感じ」「小豆の紫の一瞬の輝きの声が聞こえた・・・」そう。このときようやく師匠である父親に認められた味に出会えたそう。
敢えて「出会えた」という言葉を使ったのは、「作れた」という言葉がおこがましいほど、稲垣氏は謙虚にとらえていると思ったからです。

現在3人の甥っ子が修行しているそうですが、冷暖房完備の病院で生まれ、これまた冷暖房のある部屋で育った人たちには、自然の細かい変化が分からず、伝えることも難しいそう。
量や温度、湯で時間など単なる数字で表される「レシピ」だけでは求める「味」には到達できない。稲垣氏が「毎日が真剣勝負」と話すように、材料である小豆の「美味しさ」を最大限引き出すために分量や温度、時間などを操作していくのです。ある意味、毎日レシピ作り。この味へのこだわりが、人を惹き付ける求心力になっています。

実は「一人3本(以前は5本)まで」というルールは元々お客さんからの発案です。朝早くから並んでも買えないのは可哀想と、常連さんがお店に提案したのです。決して「並ばなくて済むようにもっと大量に作れ」とは要求しない。味が維持できないことを知っているからです。中には行列が縁で「小ざさ会」を発足させ、一緒に旅行に行くお客さんもいるそうです。
羊羹を楽しむ≒行列さえ楽しむことで様々な人がつながっている。この消費者をサポーターに転換させていくことで、「小ざさ」は小さくても市場の波に飲み込まれず、乗り越えていく企業になっていったのです。

 

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