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2019年01月10日

板室温泉大黒屋②~価値を共有するサポーターづくりの取組み

栃木県の板室温泉街の中にある創業450年を超える老舗旅館「大黒屋」の取組みを紹介しています。その老舗旅館に全く異質と思われる現代アートを取り入れたのが室井俊二氏。今回も「ちっちゃいけど世界一誇りにしたい会社」(坂本光司著:ダイヤモンド社)からの内容を要約して紹介します。

画像はコチラからお借りしました

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1986年に室井氏は父親の跡を継いで、16代目当主になります。そしてアートスタイル経営でいくと決心していたので、これまで宿にあった掛け軸や置物を売り払い、次々と現代アートに室内を替えていきますが、従業員には全く理解してもらえませんでした。

「どうしてこんなものにお金を使うんだ!」 「社長は頭がおかしくなったんじゃないか!」

従業員は陰でそう囁き、一人辞め二人辞め、とうとう古い従業員で残ったのは一人だけ。
跡をついでからの5年間は“まさに針のむしろ”だったそう。そんな苦境の中でも、室井氏の改革を了承した父親の度量の大きさと、奥さんの後押しで、この経営スタイルを貫きます。そして1991年には、菅木志雄氏の「天の点景」と題した作品を配した庭を造り、同時に建物を改装。8000円(税込)だった宿泊代を16000円(税込:当時)に値上げしました。

現代アートが「空気感」を作る → その空気感に惹かれた人たちが客として繰り返し訪れる

それでも室井社長の思い描くこのサイクルに、徐々になり始めたそうです。そしてこの独特の経営スタイルに興味を持つ人が働き手としても集まるようになりました。そこにある事件が起こります。

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その日、たまたま宿泊に来ていたヤクザがギャラリーで「社長はいるか!」と騒ぎ始めます。
「なんだなんだぁ、ここは? 分かんねぇもの 飾りやがって!」
他のお客様の手前もあるので、室井社長はヤクザを何とか部屋に誘導した上で、説明しました。

まず自分のしているネクタイを指し 「これは何でしょうか?」
「ネクタイだ」 「いやネクタイの上に描いてあるこれのことです」 するとヤクザは 「だ」
「ではお客様の着ていらっしゃる浴衣の上にあるのは?」 「これか?これもだ」
その答えを受けて
「お客様、ここに飾ってあるのも だと思って見てもらえませんか」

するとヤクザは一瞬ハッとした表情をして「ああそうか、そうやって見るのか」と言い、シッシッと手で室井氏を追い払ったそうです。
翌朝、室井社長はそのヤクザとフロントでバッタリと出会い、言葉を交わします。

「社長、ありがとう。俺分かったから」 「ありがとうございます」
「分かった。でも俺には合わないから、もう来ない

室井氏はこのことで逆に自信が付いたそうです。

「ヤクザの彫り物は相手を脅かそうと思って描く。しかし芸術家は純粋な心で描く。だから“うちには純粋なお客様が来る”と確信できたんです」

宿はお客様を選ぶことは出来ません。一方お客様は自分に合った雰囲気やサービスを提供してくれる宿を求めます。逆に言えば、宿はどんな“”を作るかで、客を選べるということです。団体客やゴルフ客などの取り込みに必死になり、あらゆる客層を取り込もうと、数に走れば、旅行会社には価格で叩かれ、サービスの質が落ち、結局「誰もが満足できない」「また行きたいとは思わない」という悪循環を招くのです。

客を選ぶというと不遜に感じるかもしれません。むしろ「仲間≒サポーターづくり」と言った方が良いでしょう。特に旅館業のように「環境」もサービスの一つである場合には、そこにいるお客も含まれているので、一緒に環境づくりに取り組んでもらうことが条件になります。この仲間づくりが上手くいけば、彼らはそのままリピーターになってくれるのです。これからの共認時代での営業は、価値を共有するサポーターづくりといえるのです。

 

 

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