2020年11月18日
当事者意識の増殖が組織力を高めていく
1987年に公開された「プラトーン」など、映画の題材として数多く取り上げられているベトナム戦争。アメリカが初めて負けた戦争として有名ですが、実は戦果という点では米軍は負けていませんでした。
1965年から始まったベトナム戦争は南北が統一され終戦となった1975年時点での犠牲者数は
南ベトナム側(ベトナム共和国、アメリカ、韓国、タイ、オーストラリアなど)
・戦死者 28万5000人(但し行方不明者 149万人)※戦死者のうちアメリカ人は5万8千人
北ベトナム側(ベトナム民主共和国、南ベトナム解放民族戦線、ソ連、中国など)
・戦死者 117万7000人(但し行方不明者 60万4000人)
つまり北ベトナムの方が4倍以上の犠牲者を出したのです。(*数字は人間自然科学研究所から)
◆ではなぜアメリカはベトナムから撤退したのでしょうか? 今回はこれを扱います。
言い換えるとこれは「ベトナムはどうやってアメリカを撤退に追い込んだのか?」になる。
◆まずベトナム戦争の背景から
フランスの占領下にあったインドネシアのうち、ベトナムはホーチミンが1945年9月にベトナム民主共和国(北ベトナム)の樹立を宣言します。そして1946年からフランスとベトナムの独立戦争が勃発。さらにカンボジア、ラオスのインドネシア全体に戦争が拡大→第一次インドネシア戦争となります。長期化しましたが、フランスが和平交渉に応じて、1954年のジュネーブ協定で和平成立しました。
ところが共産勢力のアジア拡大を怖れたアメリカが1955年にベトナム共和国(南ベトナム)を樹立させ、介入。これにより南北のベトナム戦争が勃発します。
アメリカの傀儡政権であった南ベトナムでは政府の腐敗が蔓延し市民を弾圧。これに抵抗して1960年には南部で南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)が結成され内線も加わります。こうして、アメリカ・韓国等の支援する南ベトナムに対して、中国・ソ連の支援と南ベトナム解放民族戦線を加わった北ベトナムとの戦争に拡大していきます。
1965年に米軍が本格的に進攻、北ベトナムへの爆撃開始。65年には5万4000だった米軍は66年8月には30万人、最盛期には50万人を投入して戦争は拡大していきます。
◆ベトナム軍はどうやって追い込んだのか?
北ベトナムの指導者ホーチミンは祖国解放を目指して世界各国で支援を得るために活動した人物で、その幹部のボー・グエン・ザップ将軍は孫子を含めた軍事戦略を研究してきました。ザップ将軍はわずか34人の部隊を手始めに軍事機構を作り上げフランスを撃退したのです。同様に南ベトナム解放民族戦線の戦略は南ベトナムに侵入して、学習と教育をしながら分裂と増殖を繰り返して膨張することでした。
南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)の強さの秘密
・「なぜ、そして誰のために戦うのか」という当事者意識を徹底して醸成する
・現場部隊のフラットな組織で生み出す危機学習能力を生み出す
・教育を受けた者が教育をする側になり分裂・増殖を繰り返す
ベトコンは新兵にまず「なぜ、そして誰のために戦うのか」を質問形式でやり取りします。祖国が外国からの圧政下にあり、自分が問題の当事者だと心の底から理解させるためです。その上で戦術・理論面を学び「勝利へ確信」を高めていきます。現場部隊は三人組が最小単位で、3つの三人組プラス1人のリーダーの合計10人で分隊となり、作戦の議論や改善提案を隊長も部下も区別なく行います。
初期の部隊で戦闘経験を積んだ者が、新たな分隊を組織し、学んだことを活かして強力な部隊として作り上げる。ある種の生物のように、解放戦線は兵士全員で学び合い、分裂し増殖を繰り返して大軍団になっていきます。さらに南ベトナムの住民の協力も得て敵の武器を奪い、勝つたびに武器の装備をグレードアップしていきます、
個人の意欲や自主性を最高に発揮させながら学習を組織全体に高速で取り込み、それを全員に考えさせる。解放戦線が米軍とのゲリラ戦に最終勝利した理由は、その組織論と志の違いにあったのです。
一人の人間は単なる部品か、あるいは無限の可能性なのか。
高度な火器と物量、遠方からの援護砲撃がある米軍は、圧倒的な攻撃力とは裏腹に、戦いの目的が「共産主義の打破」という観念的なものだけしかなく、命がけで「白兵戦を戦う」準備をしていなかったのです。
システムに保護された一つの部品と見なして扱えば、人は期待された枠組みに合う行動しか行わない。組織全体の学習力と、極限の当事者意識を持った個人を育てることが創造性を生み出し、最新兵器では劣勢だった解放戦線を劇的な勝利に導いたのです。
これは現代企業においても同様なこと。どんなに科学技術が発達しても、組織の盛衰は成員の人間力と実現力が決め手となる。その根っ子に必要なのは外圧を真正面から受け取める当事者意識なのです。
※参考:「戦略は歴史から学べ」(鈴木博毅著:ダイヤモンド社)
- posted by komasagg at : 18:05 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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