2021年03月25日
「働く」とは?
今後、基礎保障制度(basic income)が実行されると、それだけで最低限の生活は送れるので、お金のために働くことは少なくなります。つまり、そのとき私たちは「なぜ働くのか?」という問いを突き付けられるのです。
「労働は苦役」というのはキリスト教の教え。聖書によれば人類の祖であるアダムとイブが神から禁じられた木の実を食べたため、楽園から追放され、食料を確保するために自ら働くことになった。「原罪」を償うために「労働」という罰を与えられているのです。
しかし世の中全ての人たちがこの労働観を持っているわけではありません。
例えば、南太平洋・ニューブリテン島のある未開部族の村落ではタロイモ栽培などの農業を中心にした生活をして「労働は美徳」という考え方があるそうです。「よく働くことが。よい心をつくる」「良き仕事は良き心から生まれる」というのが彼らの労働観。
なので村人たちは、作物の出来栄えだけでなく、畑の配置、土の匂いといったものも評価するのだそうです。例えば良いにおいのする畑は「豊穣」であり、悪い匂いのする畑は「不毛」という具合です。こうして畑作を立派に仕上げた人は、村人全員からその「人格の高まり」について高く評価されるのです。
日本でもある宮大工の棟梁がインタビューで語った内容があります。
「木には命が宿っている。その命が語り掛けてくる声に耳を傾けながら仕事をしなければならない」「樹齢千年の木を使うからには、千年の月日に耐えるような立派な仕事をしなければならない」
人間性は、人から土や樹木、自然へと同化対象を広げることによって高まるようです。
京セラの創業者である稲盛和夫さんは、これらを踏まえ、働くことは「万病に効く薬」と表現しました。
仕事は生産(or闘争)の場であり、仲間のため、利用者のため、社会のために活動しその成果を出すことが求められている。したがってそこには期限圧力・成果圧力・評価圧力等がかかります。働くことはその圧力下に飛び込むこと。そうしてこの外部圧力に対応すべく自らの内圧を活性化させることで、イキイキと仕事に取り組むことができる。そして皆からの評価も得られる。つまり心身ともに健やかになる、ということで「万病に効く薬」と表現したのでしょう。
勿論、稲盛さんも最初からそんな考えではなかった。彼は大学卒業後に恩師の紹介で京都の小さなガイシ製造会社に就職。しかしそこは給料遅配は当たり前で、オーナー一族の内輪もめ、労働争議などが絶えない赤字会社でした。そこで稲盛さんは入社早々同期二人とここを脱出すべく、自衛隊幹部候補生学校を受験→見事二人とも合格。早速、必要書類となる戸籍抄本を実家から取り寄せるべく連絡。しかしなかなか送られてきません。結局、その同僚だけが入学して去っていきました。実は稲盛さんのお兄さんが「苦労して大学まで進ませて、やっと先生の紹介で京都の会社に入れてもらったというのに、半年も辛抱しきれんとは情けない奴だ」と怒って、送らなかったそうです。
相談する同期もいなくなり、稲盛さんは改めて「辞めるか、続けるか」を突き詰めます。
そして「会社を辞めるには、何か大義名分のような確かな理由がなければダメだ。漠然とした不満から辞めたのでは、きっと人生は上手くいかくなるだろう」と思い至る。「仕事がしんどい」「残業が多い」「給料が安い」「上司が怖い」「会社の知名度が低い」などの不満はありましたが、辞める確固たる理由にはならず、稲盛さんはそこからそれらの愚痴を一切封印して「働くこと」にど真剣(←本人の表現)に取り組んだそうです。そして一年程で当時アメリカのGEしか実現していなかったフォルストライトの合成に成功。その後京セラを立ち上げたのです。
お笑いタレントのキングコング西野亮廣さんはそれを「ヨットのように進む」と表現しました。ヨットは、追い風は勿論、向かい風でもそれを前に進む力に変えている。人は向かい風を前進力に転換する追求力を持っているということ。つまり逆境こそ「どうする?」を追求することによって、足りなかった新たな才能が芽生えるチャンスだとも、語っています。
稲盛さんは、道路のアスファルトの割れ目から顔を出す雑草も含めて、動植物のどんな状況でも生き抜き、種をつないでいこうとする姿をお手本に、「誰にも負けない努力をすることは自然の摂理である」と言っています。
生物の根源にある「生存本能」は当然人類も持っている。「誰にも負けない努力」に距離を感じているのは、やはりその「生存本能」にフタをしているから。そこを解放するだけで生命の源となる活力がよみがえってくるのです。人類は、社会を形成し自らの生きる環境を作ってきた積み重ねの上にあります。つまり新時代において働くということは「金を稼ぐ」が切り離されて、「自ら社会を作る主体となる」ことに集約されます。そしてその社会性を獲得することで、どんな状況下でもブレずに、仲間や社会を引っ張っていく人間力が身に付くのです。
※参考資料:「働き方」(稲盛和夫著:三笠書房)
- posted by komasagg at : 16:01 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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