2021年12月10日
【駆動物質とは何か?】大脳新皮質の高度な脳機能も駆動物質よって支えられている
前回『駆動物質は脳の広い範囲を同時に活性化する』の続きです。今回は、脳幹部でつくられる駆動物質を取り上げます。
人の場合、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンは、神経核により経路は異なりますが、概ね、脳幹の神経核から始まり、 大脳中枢系(辺縁系)ある駆動物質の放出司令を出す神経核に達する経路と、また大脳新皮質の前頭連合野や側頭葉へと達する経路がありあります。
前頭連合野は、脳の中で進化的に最も新しく、特に人において高度に進化した領域で、目標の設定や、判断、計画など高度な脳機能を実現します。それらの高度な脳機能もドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン等の駆動物質よって支えられています。
様々な動物の脳。網掛け部分が前頭連合野。(画像はコチラから)
左からネコ、イヌ、アカゲザル、ヒト。
徐々に前頭連合野の占める面積が広くなっていく。
進化的に古い大脳中枢系も、進化的に最も新しい大脳新皮質も、脳回路を駆動するのは同じ駆動物質が担っています。もともと大脳中枢系で使われていた駆動力を、そままま大脳新皮質でも使うことで、大脳中枢系(経験をもとにした判断等)+大脳新皮質(論理的な推論等)の積層構造(塗り重ね構造)により、高度な脳機能を実現しています。(特にドーパミンに顕著に現れてる)
では、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、アドレナリンについて、主な特徴と伝達経路を見てきます。
■脳幹部の主な駆動物質と伝達経路
1.ドーパミン
・ドーパミンは大脳新皮質の中では前頭葉に最も多く分布しており、前頭葉連合野の働きに最も重要な役割を果たしている。ドーパミンは、大きく分けて情動機能と運動機能を司る脳機能に関わっている。
情動機能
快・不快、嫌悪や恐怖、喜怒哀楽など。より快を得るための可能性探索を通じて「やる気」を生起する。
運動機能
とくに自分の意思で体を動かす随意運動開始に関わっている。
(画像はコチラから)
・ドーパミンをつくる脳幹の神経核は、A8からA15まで7つある。
A10核から始まるA10神経には、大脳中枢系(辺縁系)に至る「中脳辺縁系路」と、大脳新皮質に至る「中脳皮質路」がある。多くの動物では「中脳辺縁系路」のみだが、サル、人類は「中脳皮質路」を発達させている。
中脳辺縁系路
中枢系(辺縁系)の判断核(扁桃体)・探求核(側坐核)などへ投射する経路。駆動司令を発する中心回路を形成している。
中脳皮質路
大脳新皮質の前頭連合野、側頭葉へ投射する経路。大脳新皮質を発達させたサル・人類で発達した神経で、特に人類では新皮質の著しい発達と共にA10神経も大幅に強化され、ドーパミンを大量に分泌する。
・ドーパミン作動の神経経路の一つ、中脳辺縁系でドーパミンが過剰に放出されていると、幻覚や妄想などの陽性症状が引き起こされる。逆に、中脳皮質系の経路では、ドーパミンが不足すると機能が低下し、意欲減退、感情鈍麻などの陰性症状が現れる。
2.ノルアドレナリン
・ノルアドレナリンは、非常に多くの脳機能に関与し、とくに未知な予期しない外圧に対して放出が促進される。外圧に適応するために記憶を活性化し学習効率を高める作用も持っている。
(画像はコチラから)
・ノルアドレナリンをつくる脳幹の神経核は、A1からA7まで7つあり、青斑核から始まるA6神経は、大脳中枢系(辺縁系)にある判断核(扁桃体)や、反復体(海馬)などに軸索側枝を投射しつつ、大脳新皮質の全域に神経終末を投射する。青斑核は左右に1つずつあり、ヒトでは約1万2000個のニューロンが存在しており、その一つ―つが25万個以上のシナプスと接触する。
・ノルアドレナリン作動性ニューロンが活発すぎると注意欠如・多動性障害(ADHD)になり、少なすぎると覚醒レベルが落ち眠気が生じることになる。このようにノルアドレナリは脳の活動だけでなく日常生活にも重要な役割を果たしている。
3.アドレナリン
・外部ストレスにより刺激を受けた視床下部室傍核ニューロンが交感神経を賦活化し、交感神経終末からノルアドレナリンの分泌を促進する。交感神経から分泌されたノルアドレナリンが副腎髄質からのアドレナリン分泌を促す。
・アドレナリンの神経核は、 C1からC3まで延髄に存在しているが、アドレナリン神経ではなく、ノルアドレナリン神経として副腎髄質へ投射して、ノルアドレナリンの刺激で副腎髄質からのアドレナリンが分泌される。
4.セロトニン
・セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンにより生起する本能的な行動を制御していて、血圧調節や体温調節、摂食行動や性行動、睡眠覚醒のサイクルや概日リズム、攻撃性や不安などの情動行動をはじめとする、生存に必須の機能のバランスを保っている。
(画像はコチラから)
・セロトニンをつくる脳幹の神経核は、B1からB7まで7つあり、脳幹の正中線にある縫線核群に存在しており、ほぼすべての脳部位に投射している。
・セロトニン作動性ニューロンの活動が低下すると、さまざまな障害が生じる。一般的にうつ病と呼ばれる気分障害や不安障害では、脳内のセロトニン代謝物が減少していることが知られている。
- posted by sai-yuki at : 12:48 | コメント (0件) | トラックバック (0)
コメントする