2013年06月18日
出版業の新しい可能性を探索する(中編)
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前編では、出版業が長期低落傾向にあること、その根本原因は市場縮小であり、出版業が市場拡大の道具と化した結果、市場縮小と期を一にして縮小している事を、歴史もさかのぼりながら見てきました。中編では、市場拡大の時代に出版が果たした役割を整理した上で、市場拡大が終焉を迎えた時代に出版業に期待される役割を検討します。
◆市場拡大時代の出版業の役割
前編で出版の歴史を学びましたが、市場拡大の時代に出版が果たした役割は大きく二つに分ける事ができます。
1番目が、欲望の追求を正当化する様々な観念=近代観念で大衆を洗脳し市場拡大を実現することです。代表的な近代観念として、個人第一、恋愛至上主義、民主主義、自由経済などが上げられますが、これらの観念は全て個人の私権獲得(地位、財産、良い女・良い男の獲得)を美化し、自由経済による市場拡大こそが社会を豊にするという観念です。
市場時代の初期の出版は、近代観念を広めることが主要な役割で、宗教、哲学、政治経済関連や自由恋愛を賛美する本が多く出版されました。具体的な出版物としては、宗教改革(商売を悪と見なすカトリックから、商売にも神が宿ると考えるプロテスタント)、デカルト(個人が全ての原点)、シェークスピア(個人主義、恋愛至上主義)、日本では福沢諭吉(自由、平等、自由経済)、明治大正の純文学(個人主義、恋愛至上主義)、などがあります。
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2番目が、直接的に欲望(性・恋愛・物欲・食欲・娯楽・快美欠乏)を刺激して市場を拡大することです。近代観念が大衆に十分に浸透した市場時代末期は、過剰に欲望を刺激することが出版の主要な役割になります。具体的には、ファッション誌、グルメ雑誌、旅行ガイド、娯楽小説等があります。
そして出版社は、人々の欲望を過剰に刺激するため、情報量をどんどん増大させていきます。次から次へ新しい出版物を供給する自転車操業に陥り情報の質は低下の一途をたどります。そして、人々はその情報の洪水の中で情報中毒に陥り、情報を収集するだけでいっぱいになり、情報を深く肉体化させる前頭葉の統合力や追求力が異常に低下していきます。
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◆ベストセラーの変遷からみた出版需要の変化
出版の役割の変化は、ベストセラーの変遷からも読み取ることができます。過去のベストセラーランキングを見ると、’70年代までは政治・経済・哲学・宗教(紫、白色)が大きなウエイトを示しています。市場拡大のために大衆に近代観念を洗脳してきた流れが続いています。それが’80年代以降は娯楽・小説(黄色)が全盛になります。この時代が市場時代末期の欲望刺激の時代です。
しかし、前編でも見たように、市場拡大のために近代観念を流布し、物欲を過剰に刺激するという出版の役割は終わりを迎えようとしています。出版業界の長期低落傾向が明らかになった2000年以降、欲望の過剰刺激を目的とした娯楽・小説系は減少し、変わって能力系、健康系(青、橙色)が大半を占めるように変わってきます。何故この様な大衆意識の変化が生まれたのでしょうか。
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◆大衆の意識潮流の変化
市場が拡大した結果、’70先進国では豊かさが実現します。どの家庭にも物があふれ、物的欠乏は衰弱し市場は拡大限界を迎え縮小に向かいます。人々の価値感は大きく代わり、物的欠乏に変わって、心の欠乏、共に認め合うことで心を満たす『共認充足』を求めるようになります。現代は市場時代から共認統合の時代への過渡期なのです。
いまや多くの人たちの間に、物的欠乏の衰弱を超えて、過剰消費に対する拒否感が広がっています。また、潜在意識は共認収束しながら、表層意識は自分の利益第一という洗脳を払拭できず、どこに向えば良いのか解らない収束不全の状態に置かれています。人々の中に、自分の進むべき道はどちらなのか、行き詰まったこの社会をどう変革したらよいのか、と言う答え欠乏が高まっています。そして、相変わらず市場拡大の道しか示せない統合階級への不信感から、自分たちで何とかするしかない、その能力を身に付けようという自給期待が生まれてきています。こうした大衆意識の変化が、ベストセラーの大半を能力系、健康系が占めるように変わってきた原因です。
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社会の意識潮流を、更に詳しく知りたい方は、るいネットの「テキスト:新しい潮流と新理論の必要」をご覧下さい。(以下抜粋)
まず最初に生起したのは、本能回帰の潮流である。それは、’70年代以降のヒッピーや環境運動を含む自然志向に始まり、’90年代の健康志向、’02年以降の節約志向(「もったいない」)と、どんどん広がってきたが、ついに’11年、原発災害を契機として、「食抑」意識が生起した。食抑意識とは、「万病の元は食べ過ぎに有り。一日2食で充分。(理想は1食)」という認識で、広範に広がる気配を見せている。これらの潮流は、一見本能の抑止とも見えるが、そうではない。それは、過剰刺激に対する本能の拒否反応であり、健全な本能回帰の潮流である。(3.市場の縮小と根源回帰の大潮流)
しかし、本能回帰よりももっと重要なのは、共認回帰の潮流である。この共認収束の大潮流は、’70年代の仲間収束を皮切りに、’80年代には(私権追求に代わる)やりがい志向を顕在化させ、’90年代半ばには自我発の性欲を衰弱させて一気にセックスレスを蔓延させたが、’02年になると課題収束の潮流を顕現させて遂に遊び第一の価値観を終焉させた。(4.共認回帰による活力の再生→共認収束の大潮流)
さらに期応収束⇒課題収束を強める新しい世代は、どんどん同類課題を感取する感度を高めていき、遂に’11年、原発災害と統合機関の暴走を目の当たりにして、一気に社会統合期待を上昇させた。彼らは、化石化した専門家を尻目に「自分たちで、どうにかしなければ」という統合課題を自らの課題として肉体化させつつある。この統合期待は、必然的に、それを実現するための答えの欠乏を蓄積させてゆく。(12.理論収束の実現基盤と突破口(必要なのは、実現構造を読み解く史的実現論))
◆市場社会から共認社会への転換期、出版には大きな可能性がある
市場時代(私権統合時代)の出版の役割は、先も見たように、金貸しや国家、統合階級が市場拡大のために、大衆を一方的に洗脳する効率的な道具でした。そして大衆はそれを喜んで受け入れてきました。
出版には共認形成・情報の速報・情報の整理(特集記事、論文)・共認の固定学習(教科書・教典・構造認識)と言った機能がありますが、この機能は全て市場拡大のために使われてきました。
しかし、市場時代が終焉を迎え、共認統合の時代に移行しつつある現代は、出版の役割や機能も大きく変わろうとしています。市場時代は統合階級が一方的に大衆を洗脳してきましたが、共認社会の共認形成は、双方向性のあるインターネットに移行すると考えられます。速報も現場から市民がツイッターなどで発信する時代です。共認形成や情報の速報という機能に関してはインターネットが優位になると考えられます。一方で、情報の整理や共認の固定学習といった機能については、情報が日々塗り変わっていくインターネットは不向きで、出版の優位は当面変わらないと思われます。
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◆これからの出版に期待される役割
市場社会から共認社会への大転換期である現在は、古い認識は役に立たなくなり、みんなが新しい認識を求めている時代です。旧来の市場拡大路線や、欲望の過剰刺激路線はじり貧ですが、現在の大衆の意識潮流に応える、新しい認識の発掘、発信には無限の可能性、膨大な潜在ニーズがあります。
こうしたニーズは、今は自給期待に応えるノウハウ本や、健全な本能回帰に応える健康本への個人的なニーズとして現れていますが、やがて、集団や社会を良くするためにどうしたら良いのかという個人を超えたニーズが顕在化してくるでしょう。そして、長期的には、現実世界を動かしている力の構造を解明し、新しい共認社会を実現してゆく新理論、普通の人が自分で答えを出してゆくためのOS=概念装置となる新理論、が求められるでしょう。
これからの出版に期待される役割は、市場時代の旧観念を脱却し、共認時代を作り出していく新理論を供給する事です。その期待に応えるためには、次のような能力が必要になります。
① 時代(大衆)の最先端の意識潮流をつかみ取る同化能力
② 膨大な情報から本物、可能性がある情報を発掘する照準力
③ 最先端の認識を持った人や集団を組織するネットワーク能力
④ 意識潮流を端的な言葉で提示する観念(言語)能力
⑤ 様々な現象を分析し、比較評価し、体系化する構造化能力
出版業界が市場拡大のための旧観念に捉われたまま、物欲の過剰刺激を続けていれば、大衆は情報中毒から抜け出せず、社会の閉塞状況は悪化する一方です。しかし、出版業界が旧観念を捨て去り、大衆が求めている新認識を発掘し提供できるようになれば、出版業界が発展するだけではなく、社会全体の変革を加速することも可能になります。
◆注目事例
上記のように大衆の意識を捉え、新たな認識を提供している注目事例をいくつかご紹介します。
<サンマーク出版>~本はエネルギー体。出版天地自然の理に学び、人々にエネルギーを生み出す。~
「時代感性を重視し、その時代、その社会に応じながら、 読者が本当に求める良書を提供する」をテーマに、教育・社会・経済・ビジネス・実用にいたるまで、 あらゆる分野において、社会的評価の高いベストセラー、ロングセラーを世に送り続けています。
■代表的な出版物
1981年『母原病』(80万部)、1996年 『脳内革命』(550万部)、2004年『生き方』(66万部)
2009年『体温を上げると健康になる』(60万部)、2011年『人生がときめく片づけの魔法』(110万部)
2012年『空腹が人を健康にする』(50万部)
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■企業理念:天地自然の理(ことわり)に学ぶ
私たちは一冊の本をつくるだけでなく、つくったあとも相当いろいろなことを考えながら、たくさんの読者の手に届くための方法を試みます。ただ、さまざまなことに果敢にチャレンジはしますが、極力自然な考え、自然なふるまいで物事をとらえるように心がけたい。自然の声に思いを馳せられる集団でありたいと願っています。
そのためには、あくまでも物事のバイオリズム(波)を見定めながら、スピード感を大切にするときと冷静な判断が必要なときのメリハリを重要視したい。そのような思いが「天地自然の理(ことわり)に学ぶ」という企業理念にも反映されました。
日本で織りなされる四季の巡りや、もっと大きく宇宙にまで通じる天体の運行はいうに及ばず、人や生き物、企業、国家の盛衰に至るまで、すべては「天地自然の理」という大原則の上に成り立っています。「理」とは、決して揺るぐことのない万物の道筋、ものの道理のこと。すべてがそのような大きな法則の中で息づき、ひとつにつながりながら回っているのではないか。ならば、それに反することなく「理」に学びながら思いを強め、正直に表現することで企業としての永続性を図ることに務めているのです。
■読者の期待を捉え、著者の可能性を引き出す。(プレジデントビジョンより引用)
著者の持っているエネルギーと、それにかける編集者のエネルギーをかけあわせたものがバランスよく合体したときに、大きなヒットが生まれるのです。もちろんそのときの時代性も大きく影響しますよ。
ただ単に著者の原稿をそのまま形にするのでは、ヒットにはつながらないと思っています。要するに、著者の原稿は著者本人の考え方、伝えたいことであって、それが読者の求めていること、読みたいことに必ずしも一致するわけではないからです。著者の伝えたいことと読者の読みたいことは、異なります。
ですから著者と読者の間に編集者が介在して、いかに読者の読みたい作品に変身させていくか・・・この作業がとても重要になってくるのです。
<タウン情報誌 b-platz press(ビープラッツプレス)>~企業の成功体験を共有し、地域の活力再生へ~
大阪のビジネスを熱くするビープラッツプレスは、大阪市経済局の外郭団体「大阪産業創造館」が発行するビジネス情報紙。「中小企業の町、大阪が元気になるには、大阪人が頑張っていることを伝えるのが一番」という理念のもと、関西で活躍する元気でパワフルな経営者やユニークな中小企業にフォーカスした記事を掲載しています。フリーペーパー形式で、毎月60,000部発行されています。
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新進気鋭のベンチャー企業や、大阪発のブランドにスポットを当て、新規事業やその技術力、マネジメント、事業継承など、現実をいきる中小企業から生み出された成功体験を共有し、新たな認識を提供しています。
厳しい市場の中で、大衆・企業の期待に応える出版のあり方のひとつといえるでしょう。
今回の記事では、市場時代から共認時代への転換期である今、出版業界は速やかに旧観念を捨て去り、新認識の発掘・発信に転換することが期待されていることを見てきました。次回は、さらに一歩進んで、共同体社会が実現した社会では出版業がどうなっていくのか、大胆に予測します。ご期待ください。
- posted by nodayuji at : 20:36 | コメント (0件) | トラックバック (1)
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