2013年07月29日
未来を拓く、社会事業の可能性-3 企業の枠を超える時代
「未来を開く社会事業の可能性」シリーズ3回目です。第1回目では、今、社会事業が注目されている原因を明らかにしました。それは、社会閉塞から来る危機感と、人々の活力源が私権(お金や地位)から共認充足に転換したことです。企業も利益追究第一という従来の企業の枠を超えないといけない時代になったのです。
そして、第2回目は企業の枠を超えた企業の事例として、社会事業を目的としてつくられた企業を紹介しました。今回は一般企業が本業を持ちながら、新たに社会事業に取り組み始めた事例を紹介し、市場時代から企業がどう変わろうとしているか分析します。
■なぜ、企業は社会事業に取り組むのか
社会事業に取り組んでいる企業を調べてみると、社会事業に対する取り組み方にも段階がある事に気付来ます。本業が中心で社会事業は本業の売り上げに寄与する範囲の付加価値型(事例1・2)、本業で十分利益が出ていてその余裕の範囲で取り組む利益還元型(事例3)、経営の重要な要素として社会事業に取り組んでいる経営重視型(事例4・5)、本業と無関係ではないものの社会事業そのものに意味を見出して取り組んでいる本格型(事例6・7)という感じです。
従来は企業の社会貢献というと、CSRのような利益追求だけしている訳ではないですよというアリバイづくりのイメージが強かったのですが、経営重視型や本格型のように、本気で社会事業に取り組む企業が登場し始めています。こうした企業が登場し始めたのは、市場が縮小して行く中で、従来のように利益追求だけをしていたのでは、社員もやる気が出ないし、お客さんの評価も得られない、そんな企業は存在している意味がないと経営者も労働者も消費者も感じる時代になったからなのでしょう。
市場時代は効率を上げて安く大量につくり物的欠乏を満たせば良かったのですが、共認時代は、どれだけお客さんを精神的に充足させられるか、従業員が仕事を通じて充足出来るかが勝敗を決するのです。共認時代はみんなが共認充足を求める時代です。消費者も社員も共認充足を求めていて、それに答える仕事の代表が社会事業なのです。
■社会事業の取り組む企業あれこれ
1.新たな価値を生み出す!まちのエコロジーステーション「油籐商事株式会社」
○取組経緯
ガソリンスタンドは、大気汚染の原因となる石油の販売や、洗車にともなう大量の水の使用など、環境負荷が高い。そこで、ガソリンスタンドをまちのエコロジーステーションと位置づけ、資源ごみの回収など、できることから始めたのがキッカケです。
○活動内容
ガソリンスタンドを地域の資源ゴミの回収ステーションとしひて利用してもらい、地域のエコロジーステーションとして定着させた。個人や事業所から回収した廃食油をバイオディーセル燃料(BDF)に精製し、トラックなどの燃料として再利用します。また、農郷町から受託した業務では、毎月、町内から、回収した廃食油をBDFにリサイクルし、町有自動車に使用することによって、地域循環型の社会づくりに工険している。
○成功・工夫ポイント
・いいイメージのない「ガソリンスタンド」をもっとよくなりそう!と思い、まちのエコロジーステーションにすることで、問題解決にとどまらず充足提案へとつなげていること。
・今あるものを地域の人々の力や知恵や思いによって、新たな価値を生み出したこと。
参考
2.出資者と事業者をつなぐ社会貢献的ファンド!「ミュージックセキュリティーズ」
○取組経緯
元々少額投資が可能な個人向け音楽ファンドを組成し、その資金を使って才能のあるミュージシャンを世に送り出す仕事をしていましたが、転機が訪れ、ある飲食店の経営者から、ミュージックセキュリティーズの仕組みでレストランファンドが作れないか相談され、飲食店ファンドを設立しました。その後、酒蔵の純米酒ファンドも続けて開始し、これらノウハウをパッケージ化し、「セキュリテ」としてのスタートを切りました。
○活動内容
地域事業者と協働してファンドを組成し、出資者に対し「知る」→「コミュニティ参加」→「セミナー参加」→「出資」→「商品購入」のプロセスで展開しています。約100本のファンドが立ち上げられ、純米酒や林業・農業、途上国のマイクロファイナンスなどの商品やサービスを生み出し、運営するサポートを行っています。
○成功・工夫ポイント
・元々は個人の趣味と実益に応える投資システムだったが、その仕組みを変えずに、社会貢献と実益に応える投資システムに変えた事。
・出資者と事業者をイベントでつなぎ、お互いにサポートすることで共認充足を得られること。
参考
3.NPO団体を育てる!「IBMプロボノプログラム」
○取組経緯
個人的にプロボノ活動をしてきた社員から本業の知識やスキルや経験を活かして、社会貢献活動をしたいという要望があがりました。そこで、ニーズ調査を行ったところプロボノを求める声が多くあることが分かり、実施することになりました。
○活動内容
各地区の事業所や関連会社の社員がチームを結成し、教育分野や障害者就労支援、青少年育成等をテーマに活躍する、計7団体のNPOを経営面から支援します。プロボノプロジェクトのテーマは、営業戦略やコミュニケーション指針の策定、事務局業務の可視化、データベース構築など、NPOのニーズに応じて設定。参加する日本IBM社員のスキルと専門性をフルに活用したプログラムとなっています。
○成功・工夫ポイント
・一方的な供給ではなく、お互いが得意分野を活かして支えあうことで、信認関係によるネット-ワークを構築したこと。
・仕事との成果と支援活動の成果で相乗効果を生み出していること。
参考
4.画期的な水耕栽培を武器に!障がい者とともにつくる「株式会社水夢農会」
○取組経緯
三重県伊賀市で水耕栽培に取り組む企業。障がい者雇用に踏み出したのは、ある会社経営者からの法定雇用率の達成についての相談がキッカケだった。自社で雇用した障がい者に夢農会で働いてもらい、生産した野菜は同社が引き取るという形で、農場での障がい者就労が始まりました。
○活動内容
画期的な野菜の水耕栽培システムを武器に全国にパートナーをつくりだしている夢農会。自社の農場で障がい者を雇用するだけではなく、他企業が採用した障がい者も受け入れ、企業の社会貢献活動も支援しています。障がい者雇用のためのNPO水耕栽培福祉普及協会も設立しています。障がい者の雇用に加えて、指導員として高齢者の雇用も行っています。そして、こうした経営ノウハウを新規就農者に提供する水耕栽培福祉アカデミーも開催しています。
○成功・工夫ポイント
・経営効率の高い水耕栽培に加えて、障がい者の雇用を生み出し、さらに他企業が雇用した障がい者を受け入れる経営システムを開発した事。
・このシステムを自社で実践するだけではなく、新規就農者にノウハウ提供を行い仲間を増やしていること。
・利益だけでなく、食の安全や、日本の食糧自給率向上、障がい者雇用、高齢者雇用など、社会の役に立てること。
参考
5.地域のためならどんなことにも尽力!「中島工務店」
○取組経緯
岐阜県中津川市加子母の建設会社。大手ハウスメーカーが戸建て住宅を非木造化、工業製品化したことにより仕事を奪われ、林業と中小建築業者が衰退していきました。それにより人工の流失も起こりました。それに危機感を感じ、地域の活性化、みんなで助け合っていくコミュニティを作るための事業を開始しました。
○活動内容
地域の復興のために、地域の木材で集成材の製造、在来軸組工法のプレカット加工、造成材の加工、製材品の小売りを行っています。また、職業訓練法人「木匠塾」を設立し建築会社の職人と技術者の育成にも力を入れています。
さらに、地元のスーパーマーケットの経営にも参入し、村の消費を支えている他にも、コンサートの開催にも尽力する等、異業種の分野からも地域活性化に貢献しています。
○成功・工夫ポイント
・内容に関わらず、地域に必要とされている事業に積極的に取り組んでいったこと。
参考
6.会社が地域のサロン、大里総合管理株式会社
○取組経緯
・千葉県の大網白里町で主に不動産管理を行っている会社です。アルバイトの学生さんが仕事中に事故で死亡し、環境整備の重要性に気付いた事がきっかけ。仕事場を徹底的に清掃するようになり、それが地域の美化活動へと広がり、さらに様々な地域活動を行うようになりました。
○活動内容
・30人の社員が140の地域貢献活動に参加しています。(駅・道の清掃、学童保育、お昼休みコンサート、バス見学会、フォーラム、料理教室、救命救急訓練、フリマ、農業イベント)。例えば学童保育は会社の建物に放課後の子供達を受け入れています。もちろん社員の子供も受け入れており、会社が地域の子供を育てています。これらの活動は全て社員の自主提案で始められており、やらされている感は全くありません。
○成功・工夫ポイント
・利益追求だけでなく社会貢献しながら利益を上げるのが会社だと経営理念を経営者が持っていた。
・取り組む活動は、社員の自主提案と投票で決定し、社員1人1人が主体的に取り組んでいる事。
参考1・参考2
7.週4日、社会事業に取り組む旅館吉田屋
○取組経緯
・島根県太田市温泉津町の旅館。後継者が無く困っていた旅館を大学の先生に紹介され、新しい経営モデルを試したいと24才で若女将に。旅館は金・土・日の3日だけ営業し、他の4日は社会事業に取り組むことで、経営と社会事業を両立する事に成功しました。
○活動内容
・お休みの4日間は地域維新グループの代表として地域活動に取り組んでいます。地域維新グループはNPO、中間法人、企業からなる就職よりも企業を選んだ若者のグループです。地域の人たちが管理できなくて困っている、田んぼ、みかん園、古民家、お茶園などの管理や、規格外の野菜の流通などに取組、70人で年間2億円の売り上げを上げています。
○成功・工夫ポイント
・これまでの経営にとらわれない発想。あるものを活かすと言う発想で、無理をせずに利益を上げることが可能になっています。
参考1・参考2
■社会事業に取り組む企業の特徴
現代は市場時代から共認時代への転換期であり、社会事業に本格的に取り組む企業は今後も増加して行きます。社会事業に取り組む企業は、市場時代の企業と大きく変わっていく事になると思いますが、先ほど紹介した事例から、社会事業に取り組む企業の特徴を抽出してみました。
①喜んでもらえるなら何でもやる、だから多角化
社会事業に取り組む企業は、色んな事業に手を出し多角化しているという特徴があります。その多角化の仕方は市場時代の企業と大きく異なります。市場時代は企業規模を拡大し経営効率を高めるために多角化していました。しかし、社会事業に取り組む企業は、地域社会や顧客の期待に応えるために多角化しているのです。土建屋さんの中島産業がスーパーの経営をしたり、旅館の吉田屋さんが農地の管理をしたり、小規模な会社が色んな事業に手を出しており、経営効率という発想とは無縁です。多角化と言うよりも、喜んでもらえるなら何でもやる、なんでも屋という感じです。
②地域社会と向き合えばローカリズムになる
本格的に社会事業を展開している企業ほど地域と密着しているという特徴もあります。市場時代は市場を拡大し経営効率を高めるためにどの企業もグローバル化を目指しました。しかし社会事業に真剣に取り組むとほど地域と企業は一体化して行きます。地域の期待に応えるためには地域密着にならざるをえません。グローバリズムと全く逆の経営路線になっています。
③信任関係でつくられた企業ネットワーク
社会事業に取り組んでいる企業は、企業ネットワークをつくっています。このネットワークも市場時代の企業同士の関係と大きく異なります。市場時代は大企業を頂点としたピラミッド型の元請け下請構造が中心で、元請けの経営効率上昇のため、専門分化され、徹底的に合理化を求められました。利益を生み出す事を目的とした序列的な取引関係です。社会事業に取り組む企業のネットワークは、利益も大事ですが、それ以上に、みんなで力を合わせて事業を実現する充足を一番大事にしています。それぞれが得意な分野を活かして助け合う対等な関係であり、地域を良くしようという思いを共有している信任関係でつくられたネットワークです。
④会社経営だけでなく、地域の経営も企業が担う
市場時代の企業は、利益追求が目的で地域や社会の事は、政府・自治体にお任せ、押しつけて来ました。CSRがアリバイづくりになってしまうのも本音は利益追求が第一だからです。しかし、社会事業出では、地域や社会の課題そのものが仕事というか企業の役割になります。企業経営だけではなく、地域の経営も企業が担う時代になるのです。
■企業の枠を超えて
・社会事業に本格的取り組む企業が増えてきているのは、今が市場時代から共認時代への大転換の時代だからです。そして、企業の目的が利益追求を第一から、みんなの充足を第一へと転換していく中で、企業のあり方も大きく変わっていこうとしています。利益追求第一の時代につくられた企業の枠を越えていく事がこれからの企業には求められています。
・また、従来の企業の枠を超え始めた企業を利益重視型と、本格型に分けましたがどちらに可能性があるのでしょうか。利益重視型からは必死さとか一生懸命さが伝わって来ます。会社経営を強く考えて社会事業に取り組んでいる感じです。一方の本格型からは、楽しさやしなやかさが伝わって来ます。経営的視点もさることながら、社会事業に充足可能性を感じて取り組んでいる感じです。実は、前者の経営者は両方男性で、後者の経営者は両方女性という特徴があります。社会が共認充足を求めて大きく変わって行く中でも、男性はどうしても前の時代を引きずってしまいますが、女性は充足可能性を感じたら簡単に変われるのです。これからは女性経営者が活躍する時代になりそうです。
・一方で女性経営者の本格型企業は自分たちで出来る範囲の活動にとどまっている傾向があります。充足可能性に素直なのは良い事ですが、それだけに身近な充足で満足してしまいがちです。これに対して、男性経営者の経営重視型企業は、企業ネットワークの構築や行政との連携など、社会的なシステムとして社会事業を実現する指向性を持っています。
・女性経営者、男性経営者のどちらか一方に可能性があるのではなく、この両者が車の両輪のように支え合う事で、従来の企業の枠をかろやかに超えた企業が、個人レベルの充足にとどまらず社会のシステムとして実現していく事が可能になるのです。
- posted by nodayuji at : 12:24 | コメント (0件) | トラックバック (1)
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