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2015年10月13日

共同体と教育~海陽学園はなぜ全寮制を採用したのか~

次世代のリーダーを担うような学校を作ろうと開校時から注目を集めている愛知県の海陽学園。なぜ全寮制を採用しているのか。その背景には社会全般的な「人間力」の劣化に対する危機感がありました。校長先生のインタビュー記事を紹介します。

前回記事
江戸期の子供達に見る無意識の教育
教育における日本らしさとは?

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海陽学園、「日本一学費が高い」説は本当か? 海陽学園 中島尚正校長に聞く

 

海洋学園

日本の私立中高一貫校の中ではまれな、全寮制の学校が愛知県にある。海陽学園だ。愛知県蒲郡市の三河大塚駅から歩くこと15分。名前のとおり海に隣接した風光明媚な広大な敷地に、“日本のイートン校”と呼ばれる学校が姿を見せた。海陽学園の設立は2006年、ほかの私学に比べると歴史は浅い。だが、第1期生の東大合格者は13人(1期の卒業生は101人)をたたき出し、私立が弱いとされていた「公立王国・愛知」でトップ校の仲間入りを果たし、業界関係者を驚かせた。

では、なぜ今では廃れてしまった全寮制を採用しているのか。そもそも、今、学校を作る意味とは。かつて東京大学工学部長を勤めた中島尚正校長に話を聞いた。

 

――全寮制というスタイルも話題です。なぜ全寮制にしたのですか?

しばしば考えているのですが、今の若者は「何か」が足りない。その「何か」を考え詰めたときに、「人間力」だと思いました。漠然とした表現ですが、要するに「他者と上手に折り合いがつけられない」ということです。核家族化が進んで、少子化も進んでいます。そうすると家庭内では親に囲まれて蝶よ花よと育てられます。そうすると子供たち同士で相手のことを思慮しながら、物事を進めることができなくなります。

過去を懐かしむわけではないですが、昔のコミュニティでは年長者と年少者の区別なく遊んでいて、そこにルールが生まれ、他者と折り合いをつけることを肌で学びました。海陽学園では、そうしたコミュニティを再現してみようという試みをしています。

 

東大生の人間力は劣化してきた

――先生は長らく東大工学部で教鞭を執っていたと聞きました。どうして中学・高校の教育に参加したのですか?

今の教育システムでは、人間力を身に付けるのは無理だと思ったからです。高校受験に備えて中学生活を追われ、高校に入ったと思ったら、塾に通って大学受験に備える。やっと大学受験を突破して解放感に浸ったのも束の間、すぐに就活戦線に放り込まれます。「大学で人間力育成を!」なんて言いますが、到底無理な話でしょう。

私は30年間、東大で教授をしてきましたが、やはり、東大生は変質してきました。学力という点では30年前と変化はないと思います。もしかしたら知識面では上かもしれない。ですが、人間力という点では、劣ってきている。工学部というのは忙しいときは寝泊まりして研究に没頭しなければならない、ある種の団体生活です。ですが、さっきのような理由で、上手に他者と折り合いをつけて協力関係を結べない生徒が増えた印象を持っています。

 

――だからこその寮生活ということですね。

そうですね。海陽の寮はイギリスの名門パブリックスクールであるイートン校を参考にしています。イートン校では「ハウスマスター(HM)」がいますが、海陽では、HMに加え「フロアマスター(FM)」が1年ごとに企業から派遣されてきます。彼らも寮に泊まって1年間を共にします。生徒たちは日本を代表する企業の社会人と、生活を通じて学んでいきます。

ここで海陽学園の寮(ハウス)についての説明をしておこう。先ほど校長が言った「フロアマスター(FM)」とは学校で授業を教える教員とは別に、企業から派遣され、生徒たちと一緒に寝食を共にする、寮のマネジャーだ。ひとつのハウスにつき生徒が約60人、それに対して、FMが3人、HMが1人つく。FMは20代の主に若手社員であり、生徒たちのよき“兄貴分”だ。HMはさらに年齢が上で、50代程度、いわばハウスの“オヤジ”と言ったところだろうか。

寮の中ではマンガやゲームはいっさい禁じられている。そして、病欠以外の理由で学校を欠席することは許されていない。生徒たちが登校したら、ハウスは施錠される。海陽では「不登校」や「登校拒否」は、すなわち退学、転学を意味する。

 

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