2013年10月26日
企業の人材採用戦略-3- インターンシップは採用活動の主流となるか?
※類設計室インターンシップの様子
企業の人材採用戦略-1- この20年、選考手法はどのように変化したか?
企業の人材採用戦略-2- 学生との出会いの場をつくり出す工夫
今回の記事は、近年の新卒採用で注目されているインターンシップについてです。
インターンシップを導入する企業はどんどん増えています。
2011年約1500社→2012年約2800社→2013年は4,000社を超えるとされており、2014年はさらに増加すると見られています。
インターンシップ導入の目的は、いわゆるミスマッチの解消、企業側の学生への早期接触と言われますが、そのほかにも様々な効果がありそうです。
インターンシップが増えている背景は何か、今後の採用活動で「インターンシップ」は主流となるのか、その先の発展形はどのようなものが考えられるか、考察していきます。
1.インターンシップの効果
2.インターンシップの事例
3.海外におけるインターンシップの動向
4.意識潮流とインターンシップ興隆の背景
5.インターンシップは採用活動の主流となるか?
1.インターンシップの効果
類グループ(類設計室)でも今年の夏にインターンシップを開催し、多くの学生に参加していただきました。
インターンシップの効果について、その感想も含めて整理してみます。
◇現実社会の外圧、課題を知る
学生にとっては、現実社会の外圧、生の仕事課題に触れることで、その仕事の社会的意義、背景にある社会的期待へ眼差しを向ける、そして働くことへのモチベーション向上させる、これが一番大きな効果でしょう。
大学での勉強や研究の進め方と実際の仕事の進め方は全然違う、という感想も多く聞かれました。
◇自分の壁を知る
実際の仕事課題に入ると、課題整理やスケジュール管理などの段取りがうまくいかない、質問の仕方や他部署へのヒアリング・調整などのコミュニケーションがうまくいかないなどの壁が顕在化します。
そうした壁を直視する=己の無能を自覚することが気づきとなり、成長の糧となります。
インターン学生同士で成果や壁を共有し切磋琢磨することも刺激になります。これも現実の圧力があってこそです。
◇仕事でこそ人物、組織の本質が現れる
通常の人材採用・選考では面接や筆記試問を中心とするのが一般的ですが、インターンシップを通じて一緒に仕事をすることで人物像がより理解できます。
やはり仕事=現実の圧力ですから、その人となりが一番現れるのは当然です。
また学生から見ても、会社説明会や面接では見えづらい、その会社の本質、人間関係や共認風土を肌で感じることができると思われます。
もちろん良いことばかりでなく、トラブルや問題も含めてオープンになりますが、それも含めて現実です。
◇社員にとっても学びと気づきの機会になる
インターンシップは受け入れ側の企業もマンパワーを投入するので、学生を指導する社員など、時間、コスト、エネルギーの面で一定の負担は生じます。
しかし、開催してみた実感として、指導する若手社員の気づきも多いようです。
いかに仕事の社会的意義や背景を掴み取ってもらうか、どこまで自考を促し、どのようなタイミングでアドバイスを行うか、気づきや学びポイントをいかに深く定着させるか、若手社員も頭をフル回転させて指導に当たることで、成長の機会にもなっているようです。
何よりインターンシップの開催時期は社内も活気づいています。
★インターンシップの効果として、現実の社会外圧、現実の仕事圧力のもとで、学生が仕事世界を知ること、その体験を通じて企業と学生がつながりをつくってゆくことには大いに可能性があります。
★採用活動、就職活動の側面から言えば、特にここ数年は就職情報サイト(ナビ)頼みに偏り、リアリティが薄くなっていたように感じられますが、こうして仕事を通じて学生と企業がダイレクトにつながってゆくことで、リアリティのある関係へ回帰するようにも思えます。
一方で現在多くの企業が行っているインターンシップにも課題(問題)はいろいろありそうです。
ひとつは、インターンシップと採用活動の線引きがあいまいなこと。
インターンシップと採用活動を表立って直結させる企業も徐々に出てきていますが、一般的には採用活動とは直結させないというのが産業界の慣習です。これにはいわゆる倫理憲章(採用と直結するインターンシップは早期にはできない)が関わっているのですが、多くの企業の本音は採用活動の一環でしょうから、中途半端な感じも否めません。
もうひとつは上記とも関わりますが、インターンシップ=就労体験といいながら、1日~3日程度のもの、会社説明と簡単なディスカッションやワークだけのイベントも多いと聞きます。
また就労体験を言うなら、生の現実の仕事課題をやるのが一番なのですが、インターンシップ用に用意された課題を会議室に缶詰になって行うというような、人工的な就労体験も多いようです。
このあたりは企業側の受け入れ負担の問題もあるでしょうが、学生の欠乏、意識とすれ違っているかもしれません。
2.インターンシップの事例
採用直結型のインターンシップ、そうでない体験型のインターンシップなど、いろいろ形式はありますが、各企業とも、優秀な学生を集める工夫、活力を高め能力を引き出す工夫を様々に試行錯誤し、実践している段階です。
その中から成功している事例、活力が感じられる事例をいくつか紹介します。
◆ワークスアプリケーションズ:日本最大級、採用直結型インターンシップ
※インターンシップ募集ページ
ITシステム開発、販売を手掛けるワークスアプリケーションズが毎年開催する「問題解決能力発掘インターンシップ」。1か月間のインターンにもかかわらず、年間数万人の学生が応募、そのうち1000人近くが参加。年々インターンシップを実施する企業が増える中で、学ぶべきことは多い。
※年間2万人の応募者が集まるインターンシップを実現しているワークスアプリケーションズ より抜粋
●論理的思考能力と発想転換力をあわせた問題解決能力を見極める
ロジカル・シンキングとクリエイティブ・シンキングを兼ね備えた人を、「問題解決能力の高い人材」と定義。“壁”にぶつかったとき、どう考えて行動し、ブレイクスルーしていくか。そこをちゃんと見極められるような採用プログラムを構築しようというのが、もともとの発想。参加学生は一つの課題が与えられて、1ヵ月間それにひたすら取り組む。課題は抽象的なもので、ほとんど社員はアドバイスせず、とにかく自分で考えさせ、「問題解決能力」を見極める。
●参加学生に日給1万円
この1万円については、一つは宣伝費として、もう一つは優秀な人材が貴重な時間を費やしてインターンシップにチャレンジしてくれるのだから、その“チャレンジ代”として必要なコストだと割り切っている。インターンシップで優秀な成績を収めた学生には最長5年間いつでも入社可能な「入社パス」が付与される。
●採用と直結したインターンシップ
事前説明会の後、筆記と面接である程度絞り込み、参加するのはエントリー数の1割程度。ただし参加者の定員枠はいっさい設けていない。優秀な人材はそれこそ根こそぎチャレンジさせたい。
参加者のうち、約5%が5年間いつでも入社可能な「Aパス」を、3~4割が3年間有効の「Bパス」を取得。課題の成果はもちろん、最終形にするまでにどのような思考をたどったか、どれだけ考えたか、といった思考のプロセスや深さを見て、入社パスを与える学生を決める。
優秀な人材がすべてであり、その確保のためにコストがかかるのは当然という点で経営陣の認識は一致している。
●優秀な人材は難易度の高いチャレンジを待ち望んでいる
教えられたことをこなすことは、学校教育や受験で慣れているから当然長けている。でも、正解のない抽象度の高い課題だけを与えられて、とにかく自分で考えてやれと言われる経験は、彼らにとって相当なインパクトがある。優秀な学生ほど、そういう難題へのチャレンジを魅力と感じているのではないか。
★注目ポイント:通常の面接中心の選考フローを廃し、自考型のインターンシップ(現実の未明課題に取り組む。社会に出て役に立つ能力の獲得)を採用活動に直結させている。高い圧力の厳しさ、本気度、大きな壁や自分の限界を乗り越える充足体験を売りにしており、優秀な学生を集めることに成功している。
◆Speee:ベンチャー企業が学生たちへ贈る、本気のインターンシップ
※インターンシップ募集ページ
大学生に成長のきっかけを提供しSpeeeの事業や仕事の醍醐味・組織風土や価値観を感じてもらうためにSpeeeの理念に基づいた3種類のインターンを開催。
●外資系・コンサル志望者も多数参加!【新規事業創出プログラム exploit】~世界を進化させよ~
世界を変えるビジネスはいつも若者の想いから始まる。
1泊2日合宿型のリアルなビジネスインターンシップ。マネジメント層のメンバーが中間フィードバックや最終プレゼン時だけでなく、2日間通してつきっきりでサポート。
●ベンチャー企業での短期インターンシップ【知的冒険プログラム explore】~自分を進化させよ~
最高の知的ゲームがあなたの可能性を切り拓く。
知的能力をフルに使うプログラム満載の2日間。ビジネスで求められる能力を徹底的に知的ゲーム化した最高難易度のプログラムに仲間と共に挑戦して頂きます。
●エンジニア向け【サービス開発プログラム evolution】~Webを進化させよ~
インターネットの未来はあなたの頭の中から生まれる。
ユーザーの心を本質的に捉える企画ノウハウやチームでアイディアをカタチにしていく開発ノウハウを惜しみなく皆さんに提供します。新しいWebサービスを仲間と一緒に作り上げてみませんか。
★注目ポイント:数名のチームで課題に取り組み優勝を競うコンペティション形式。活力の高い学生同士の切磋琢磨、競争圧力、評価圧力を高める工夫を行っている。採用直結型のインターンシップで、優秀者は途中選考免除などのメリットもあり。
◆オイシックス:高度な実践課題で問題解決能力を磨くインターンシップ
※インターンシップ募集ページ
農作物等のネット販売で注目を集めるベンチャー。求める人材像は「解決困難な問題に対して、解決の糸口を見付け出そうとする人」。3日間の短期インターンシップのほか、本格的な長期インターンシップを用意し、採用活動に直結させている。
●長期インターンシップ
自分で事業を作ってみたい、またはこれから起業をしたい学生の皆様には大幅に権限と責任を与え事業運営をしてもらいます。弊社の長期インターンを通し、学生のうちに会社の経営の仕方と、今まで経験したことの無い問題解決の為の手法を学んで頂き、業務を遂行して頂きます。自分の力が社会でどこまで通用するのか試したい!将来起業したい!などの熱意あふれる学生の皆様のご応募をお待ちしています。
・コンサルティング :Oisix創業で得たノウハウをもとに、EC、食、通販などの範囲で、弊社代表と共にコンサルティング事業を展開。
・新規事業スタッフ :海外事業、オイシックス香港はインターン生が中心となって推進した新規事業。新規事業提案スタッフ・またはプロジェクトの一員として業務を遂行。
・広告営業 :月間100万人がサイトを訪れ、その中の8万人~9万人が実際にサービスを利用している 弊社サイトの媒体価値活かし、イメージとマッチした広告を提案型営業。
・システム開発スタッフ :ECサイトの販売管理・在庫管理などの当社システムの開発・運用業務。LinuxとJava、PHPの経験・興味がある学生を募集。
・商品開発スタッフ :安全な加工食品の商品開発を、弊社バイヤーのサポートとして、商品情報をそろえたり、メーカーと連絡を取って出荷の時期などの調整。
★注目ポイント:学生に大幅な権限と責任を与え、難易度の高い課題、新規事業に携わる。経営者、事業中枢から直に学べる、ベンチャーならではの実践的インターンシップ。
◆類設計室:進行中の設計課題にチームの一員として取り組む、実践型インターンシップ
※インターンシップ募集ページ
類設計室のインターンシップでは、進行中の設計物件にチームの一員として加わり、調査・分析・計画・設計実務・成果プレゼン・評価という一連の流れを経験し、建築設計の社会過程・技術過程を学ぶ。また設計ミーティングへの参加を通じて、技術追求の楽しさを知り、専門分野を越えた総合的視点を身につけてもらうプログラム。
●インターンシップの課題に取り組む上で特に重要な点、参加する上での期待
・インターンシップは、体験や勉強などの準備された課題をやってもらうものではない。今、みんなが本当に必要としている仕事を担当してもらう。だから、設計の”チームの一員”として、資料作成や打合せの参加やチーム会への参加、発表など、新入社員がやるような現実の圧力と評価を受けながら一緒に働いてもらう。
・仕事をする上で大切なこと、仕事のできる人は、自分のやりたいことをやる、自分の得意な能力を発揮するのではない。相手やみんなのために、自分の持っている力を使える人。技術や知識はその中でついてくる。そして、本当に優秀な人は、自分の力だけでなく、周りの力も引き出して実現していける人。インターンシップを通じて、そうした力を実践的に身につけ、その中で技術力も磨いてほしい。
・仕事で一番必要となるのは、課題の背景にあるお客さん(相手)の想い、プロジェクトの背景にある社会的な意味をつかむこと。それらを言葉や図面に表現すること、そのためにみんなを巻き込んでいくこと。これらをチームの仲間や先輩たちから学んでほしい。
・仕事の他にも認識勉強会など、いろんな人と触れる機会があるので、どんどん吸収していってほしい。また同じフロアで働くので、打ち合わせの内容や社内での会話もすべてオープンになり、トラブルやクレームなどの大変なところ、社員の至らない不十分なところも見せることになる。そういった現実や壁も含めて共有し、一緒に考える仲間になっていってほしい。
★注目ポイント:学生は特別扱いされることなく、新入社員と同じように進行中のプロジェクトに取り組む。現実の仕事世界を知り、仕事で必要な心得に気づき、仲間と働く充足を得る、それらを含めて「仕事そのもののリアリティを体験する」現場型、実践型のインターンシップ。
◆G-net:ホンキ系インターンシップ「社長に弟子入りプログラム」
※インターンシップ募集ページ
岐阜を拠点に活動するNPO。2001年設立。学生、雑誌編集者、都市プランナー、起業家からサラリーマンまで20代全般を中心としたスタッフが、社会教育、まちづくり、文化芸術振興等に取り組んでいる。活動主旨は、学生の成長意欲・社会参画意欲と、地域企業の事業活性のコーディネートを通して、地域全体を元気にすること。教育機関を始めとする多様な組織(地方自治体、地域企業、商工会議所、金融機関等)と「長期実践型インターンシップ(ホンキ系インターンシップ)事業」を軸とした連携を行い、さまざまな活動を展開している。
【ホンキ系インターンシップ】
魅力的な経営者の元で、右腕として働く「社長に弟子入りプログラム」。
自らの行動で社内や社会を変えていく超カッコいい経営者と共に学生がホンキで挑戦することで自らを磨く、これまでにない新しい形のプログラム。
●1.ホンキで受け入れてくれる超カッコいい「師匠」(=成長のモデル)がいる!
ホンキ系インターンは社長に弟子入りし、社長と共に事業に挑戦。長期間の受け入れにあたって、経営者自身の時間(コスト)を費やすことになります。でも、学生と一緒に事業を加速していきたい!そんな想いをもった経営者なので、学生に対してホンキで向き合ってくれます。どうせインターンするなら、突き抜けた会社の、カッコいい社長の下でチャレンジしませんか?社会見学じゃない、【期間限定の正社員】として、実際の”仕事”を経験できます。
●2.地域・社会・会社の課題解決に対して、影響を与えることができる!
インターンシップ=自己成長、経験を積めるだけではありません。インターンで挑戦するプロジェクトは、学生のためにわざわざ作ったものではありません。実際に仕事の現場で、会社のミッション実現のために取り組んでいる事業をインターン生に任せてくれます。より重要な仕事に師匠である経営者と一緒にチャレンジすることができる!だからこそ、地域産業のリアルな現場が体感でき、挑戦の担い手としてシカケテいけます。
●3.G-netによる徹底的な「サポート」
ホンキ系インターンは、インターン開始までの学生と企業間のマッチングで終わらず、インターンが開始されてからのサポート体制が万全です。個別に担当のコーディネーターがつき、期間中の悩みや課題などをトータルでサポート!またインターンOBOGのみんなが新たなチャレンジャーを応援してくれます。月に一回、研修会を実施しており、仲間が広がる!そんな出会いの場でもあります。
★注目ポイント:社長(経営者)に弟子入り、インターン用の課題ではなく生の現実課題、大企業では決してできないような体験を提供。同時に、地元企業、NPO、大学等の連携により、単体企業を超えて地域の活性化を目標としている。
3.海外におけるインターンシップの動向
特に英米ではインターンシップが採用活動、就職活動と直結しており盛んに行われています。日本とは採用活動、就職活動の慣習が異なりますが、その動向を簡単に見ておきましょう。
英米の就職活動に最も必要となるのは、学歴、専攻、職歴、大学の成績と言われますが、職歴を持てない大学生はインターンシップを行い職歴の代わりに記載するので、在学中のインターンシップは必要不可欠とも言われます。企業にとってインターンシップは優秀な人材を早期に囲い込む手法であり、学生にとっては職業体験を積み自分を鍛える場であると同時に就職エントリーでもある(採用されなくても就職活動のツールになる)ということが、企業・学生の双方にはっきり合意されています。
◆アーンスト・アンド・ヤング:1,2年生からはじまるインターンシッププログラム
(ロンドンを本拠地とし世界各国で会計、税務、アドバイザリー・サービスなどのプロフェッショナル・サービス事業を展開)
※リクルートワークスNo.102「新卒選考ルネサンス」海外事情に見る日本の選考手法の限界●海外レポート1:アメリカ より要点抜粋。
新卒採用に対するアーンスト・アンド・ヤングのアプローチは、全力投球という言葉で最もよく表現される。エントリーレベルから才能ある専門職の人材を採用してビジネス上の競争に臨むだけでなく、将来のリーダーをこの新卒採用者から育てていくのである。そのため好景気、不景気にかかわらず、新卒採用には一貫して濃密な予算を割いている。
アーンスト・アンド・ヤングの新卒採用のリーダーは、採用プロセスは早い段階から人材を探すことから始まる、と言う。1、2年生のうちからアーンスト・アンド・ヤングについて知ってもらい、高い可能性を持つ人材を探し始めたい、と考えている。そのため、このグループを対象としたキャンパス内でのイベントを開催し、低学年を取り込むための方法としてリーダーシップ・プログラムを提供している。リーダーシップ・プログラムへの参加を許可された学生の多くは、引き続きインターンシップ・プログラムに参加する。インターンシップ・プログラムには3つの役割がある。3つの役割とは、大人数の将来性がある学生と親しくなる、最も有能な学生は誰かを見極める、そしてほかの学生にアーンスト・アンド・ヤングについて話すアンバサダー(親善大使)集団を形成する、である。
インターンシップは10週間という期間だが、この期間中に学生が十分に顧客と接し、実際のプロジェクトに参加する機会を与える。そして、インターンたちがトレーニング、カウンセラー、パフォーマンス・フィードバックで確実に成功裡に終えることに投資している。
◆プライスウォーターハウスクーパース:段階化、多様化されたインターンシッププログラム
(ロンドンを本拠地とし、世界159カ国18万人を擁する世界最大級のプロフェッショナルサービスファーム)
※リクルートワークスNo.102「新卒選考ルネサンス」海外事情に見る日本の選考手法の限界●海外レポート2:イギリス より要点抜粋。
PwCは「ベスト・タレント」の確保が企業の長期繁栄を築くという戦略のもと、インターンシップを中心とする新卒採用プログラムの改革を続けている。PwCの新卒採用改革の全容は、改革イコールインターンシップの充実化といっても過言ではない。それはその万能性だ、と言う。
当時の審査基準であった大学名、専門知識や“何をやってきたか”ということより、現場における、働く人間としての能力やスキルがより重要な要素であるという事実がビジネス分析により実証された。そこで “エンプロイアビリティスキル”として明確化し、新卒採用のコア基準とした。しかし、当時の書類審査・面接・筆記試験では学生の性格や実績を見られても、現場における能力・スキルの審査は不可能であった。ここから、“現場での長期スクリーニング”を可能にする、インターンシップを充実させる必要性が高まったのだ。次に、インターンシップの充実化は、新卒採用市場リーダーとしての企業ブランディングを達成するために不可欠だった、と説明する。ターゲットであるエンプロイアビリティの高い学生ほど意識も高く、大学1年目など早い段階から、能力・スキルを高める絶好の機会であるインターンシップの席の獲得に真剣だ。「そのような学生層にアピールし続けるには、“PwCは成長する機会を提供する企業”であるというメッセージを送り続けなければならない」と語る。
さらに、「学生側にも、採用過程において自らの能力・スキルを実際に試す機会が与えられるべきであり、その視点からもインターンシップの充実化が必要だった」と言う。また、学生も十分な情報を得たうえで進路の意思決定をすることができ、ミスマッチも起こりにくい。
現在のプログラムは、1日のセミナーから4年に及ぶ学位取得コースまで多彩なものとなっている。
PwC新卒採用プログラムの最大の特徴は、その“段階化”にある。学生がインターンシップの席を獲得するには、大学1年時から1日・1週間単位の「インサイト」プログラムに参加する必要があり、そのなかの成績優秀者が、翌年のインターンシップ・ビジネスプレイスメントの席を確保することができる。「この段階を踏んだ過程でベスト・タレントを見極めることができるし、学生が長期にわたってPwC社員とビジネス関係を維持できるかも見る」と説明する。
次に特徴として挙げられるのはプログラムの“多様化”である。「インサイト」プログラムに加え、まず「ヘッドスタート」は、高卒の時点で進む事業分野をはっきり決めた者が、PwCに勤務しながら4年間で保険や税の資格を獲得していくというプログラムである。「フライングスタート」は大学とPwCが提携し、就業経験を学位取得の一部としたコースである。また「インスパイアード」は、学業成績ではほかのプログラムの応募条件には満たないが、何らかの分野において著しい成果を挙げた者が応募できる枠であるという。
★注目ポイント:欧米のコンサルファームなどでは優秀な人材を採用することに多額の投資を行うことが一般的だが、新卒採用においても、早期かつ段階的なインターンシッププログラムを整備し、優秀人材の確保(人材選別)を戦略的に行っている。
4.意識潮流とインターンシップ興隆の背景
インターンシップには企業側の採用戦略、人材育成戦略という側面もありますが、学生の側から見れば、就職活動というだけでなく、大学では得られない経験、現実の圧力を知る経験です。ひと昔前の「遊び第一」の大学生とは大きな意識の違いです。その底流にある意識潮流の変化としてキーになるのは「同類圧力への期待」「自給期待、自考力期待」です。
◆新たな活力源を求めて共認充足に収束⇒同類圧力への期待
※企業革命の切り札は、社内ネット
私権圧力が衰弱すると、人々は活力源を求めて共認充足に収束し、更に仕事課題に収束してゆく。今や、活力源は同類圧力(互いの期待や競争が生み出す圧力)しかないことを、人々は嗅ぎ取っており、それ故に無意識に同類圧力が加わることを期待する時代、云わば圧力期待の時代に入ったと云えるだろう。
◆自分たちでつくりだす、答えを出す能力⇒自給期待、自考力期待
※新しい活力源は、周りの期待に応える充足
私権圧力が衰弱した以上、その強制圧力によって抑圧されてきた人類本来の活力源が再生されてゆくのは、当然の理(ことわり)である。
事実、’70年以後、貧困の消滅に伴って私権追求はもはや第一の活力源ではなくなり、代わって、周りの期待に応えることによって得られる充足(安心や喜び)、すなわち共認充足こそが最大の活力源となっている。
つまり、社会の表層での統合者たちの暴走を尻目に、人々は最も深い潜在思念の地平で私権充足から共認充足へと収束先の大転換を遂げてきたのである。
この共認収束の潮流は、今後100年は続く大潮流であり、現在も私権から共認への大転換は進行中である。
そして、その途上の’11年、3.11と統合者たちの暴走を契機として、この大潮流は遂に「自分たちの手で作り出せる能力」あるいは「自分の頭で答えを出せる能力」への期待、云わば自給期待の潮流を顕在化させた。
これらの潮流が指し示す次の社会は、おそらく「自分たちで作ってゆく」共同体社会となるだろう。
こうした意識潮流の先に、企業の人材採用戦略はどのようなものになるのか、学生の就職活動はどのようなものになるのか、企業と学生の関係はどうなるのか、次回の記事で追求します。
5.インターンシップは採用活動の主流となるか?
★インターンシップの成功事例では「本気」「実践型」といったキーワードが多く見られます。
現実の課題、それゆえの圧力の高さと、同類圧力期待、自給期待、自考期待がマッチしている結果でしょう。
こうしたインターンシップの取り組みは今後とも増加すると思われます。
★一方で一般的には、単発イベント的、人工的なインターンシップも多いですが、こうしたプログラムでは活力のある学生を惹きつけられなくなってくるだろうと思われます。
(これは大企業を中心とする新卒一括採用の慣習と規制の問題も関係しています。現在でもベンチャーの方がユニークなインターンシッププログラムを提供しています)
★本流は、「現実の圧力に貫かれた本物の仕事課題で企業と学生がつながってゆくこと」。
今後、インターンシップという形式にも囚われない、より仕事課題に直結した様々な取り組みが登場するでしょう。企業としても工夫のしどころです。
(大学教育の欠点は現実の圧力に晒されていないこと、したがって大学生と現実の仕事との距離があることが本質的な問題です。そこを解消してゆくことは、採用、就職活動を抜きにしても、社会的な人材育成として意義のある取り組みと言えるでしょう)
- posted by iwaiy at : 8:57 | コメント (0件) | トラックバック (3)
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