2014年04月08日
これからの働き方はどうなる? 3.新しい働き方事例-1 自由人ネットワーク
これまでの記事は、
これからの働き方はどうなる? 1.戦後労働政策の変遷~市場の要請で変化
労働法制はその時々の「市場の論理」(金貸し、経営者、労働者それぞれの私益追求の力関係)で決まっている。私たちは、規制緩和やワークライフバランスなど、自ら進んで選択したと思わされているが、実態は市場の論理で決まったことを、マスコミ等を通じていいものであると思い込まされているだけ。
労働基準法をはじめとする労働法制の大前提は、労働とは資本家から否応なく強いられる行為であるということ。働くという行為を本当にいいものにしていこうとするならば、この大前提を変えることから始める必要がある。
これからの働き方はどうなる? 2.労働観の歴史~人類本来の労働とは何か?
労働が資本家から否応なく強いられる行為であるという考え方は、西洋的労働観。西洋では奴隷制度に始まり、キリスト教⇒市場社会と、一貫して労働は罰・苦役として扱われてきた。
しかし、原始共同体の労働観が受け継がれてきた日本では、労働は傍を楽にする行為であり、相手や自分の「充足」と一体の行為。だからこそ勤勉に働き、徹底的に追求する日本人の特性が生み出された。
これらを踏まえると、仕事を周りの期待に応合すること、つまり自分と相手の充足が一体であることとして捉えられるかどうかが、働くという行為を改めて考えるうえでのポイントになると思われます。
企業や労働者が置かれる状況や意識は変化しており、近年は、これまでになかった新しい働き方が登場しています。今回からは、新しい働き方の事例を、上記の「応合性」の高さという視点を軸に下記のように分類し、順に紹介します。
①自由人ネットワーク
②企業内における自主管理体制
③既存の枠組みを脱する、超企業型の働き方
まずは①の「自由人ネットワーク」の紹介です。
新しい働き方の実例のひとつが、「自由人ネットワーク」と言うべき、企業を辞め、独立した人々によるネットワークを形成するものです。あくまで個をベースとしながらも、顧客や情報を共有し、業種を超えたコラボレーションによって新しい価値を生み出しているなどの点で注目されます。
また、「1.戦後労働政策の変遷~市場の要請で変化」(http://bbs.kyoudoutai.net/blog/2014/02/001683.html)で見たように、’90年代以降、企業の業績悪化→雇用の規制緩和によって労働市場の流動性は増しています。その状況に対し、安定した雇用にすがるのではなく、逆に自らの流動性を高めることによって対応しようとする動きともとれます。
◆自由人ネットワークの代表的な事例
○ノマドワーキング
「ノマド」とは遊牧民のことであり、いつも決まった場所ではなく、カフェや公園、お客さんのオフィスなどでノートパソコン、スマートフォンなどを駆使しネットを介して場所を問わずに仕事を進めること。「サードプレイス」という自宅でもなく、オフィスでもない、第三の自分の居場所で仕事を行う新しいスタイル。
会社としてノマドワーキングを奨励する事例もあるが、当記事の自由人ネットワークという視点から、属する組織を持たず、個人のスキルのみで生きていこうとするものを指す。近年は、個人のノマドワーカーとして成功し、有名になっている人も多く、注目されている。
画像はhttp://achikochi.takema.net/kaigai2/mon05/05mon_19elstai3.htmよりお借りしました。
○東京R不動産
新しい視点で不動産を発見し、紹介していくサイト。普通の不動産紹介では拾いきれないような、物件の隠れた魅力を掘りおこして紹介。「多少古くても良いので、雰囲気のある家が良い」「倉庫のようなカッコいい物件を事務所にしたい」「一戸建てを改装して住みたい」などのこだわりに応える。リノベーションやコンサルティングも行う。
①「フリーエージェント・スタイル」
東京R不動産という事業を軸に集まった、個人事業主(or小企業)のチームで運営。東京R不動産は会社ではなく、あくまでもメディアであり、「東京R不動産の社員」は存在しない。スピークという運営会社が不動産仲介の仕事を請け負い、その会社と個人事業主が契約する、完全歩合制の「サムライ契約」。個人として契約が取れなければ、収入もゼロ。
チームを組むことで、個人ではできない大きな仕事を可能にするとともに、思い立ったときに今日から1ヶ月休むというようなフリーランス的な自由も残している。メンバーは、東京R不動産の仕事もできるし、兼業をすることもできる。メンバーが新たに会社を立ち上げる場合には、東京R不動産グループから出資し、アドバイスも行う。
②後見人システム
採用に際しては、実務メンバーが面接するとともに、面接した人が後見人になるようなシステムをとっている。原則として新卒禁止だが、固定給とサムライ契約の中間契約とすることで、新卒採用にも取組みはじめている。
画像はhttp://blog.livedoor.jp/koumei-netbird/archives/51707839.htmlよりお借りしました。
○co-lab
クリエイター専用のシェアオフィス。
①シェアードコラボレーションスタジオ
クリエイター(アーティスト・デザイナー等)とクリエイティブワーカー(社会起業家・研究者等)のためのコラボレーション誘発型シェアオフィス。新しいことをやりたい、イノベーションを起こしたいという思いを持った人たちが集まることで、集まった人同士が化学反応を起こす。
②クリエイション・ドゥー・タンク
co-labをひとつのクリエイティブな集合体として捉え、そこに集まる人たちの集合知でアウトプットを生み出していく。たとえば、メンバーが個人として受けてきた仕事を、co-labのメーリングリスト等に「こんな仕事があるんですけど、一緒にやりませんか」というふうに投げ、手を挙げた人とチームを組んでプロジェクトを行う。あるいは、co-labの運営企業がco-lab内のメンバーをキャスティングしてプロジェクトを起こす。
画像はhttp://co-lab.jp/locations/sanban-cho/news_sanban-cho/page/14よりお借りしました。
◆自由人ネットワークが持つ、脱市場・脱業界の可能性
以上の事例は、以下の点で新しく、注目されます。
①現実の充足を仕事化している
労働を苦役と捉える労働観においては、労働とは仕方なく生きるための収入を手にする手段に過ぎません。別の言い方をすれば、現実の市場原理は変えられない=充足できないものとして否定し、仕事とは別の「生活(プライベート)」で充足を得る、という割り切りです。しかし、彼らは現実を否定せず、(金儲け以上に)その現実の中で充足を生み出すことを大切に仕事にしようとしています。これは、大きな転換であり、西洋的な労働観とは明らかに考えを異にしています。
②業界の枠を超えたプロジェクトの実現
また、彼らはネットワークを形成することによって「業界」の枠組みを超えた仕事の仕方をしており、これは大企業にはできない働き方です。また、その仕事の中身が、市場縮小の時代を捉えたものになっている点も、市場拡大を旨とする大企業とは異なる点であり、総じて脱大企業の動きとも捉えられます。
◆自由人ネットワークの限界:持続性・普遍性を持ち得ない
しかし、これらの働き方には、社会的な「持続性・普遍性」という観点で見た場合には、個人の「自由」と引き換えにした、以下のような課題も見られます。
①人材育成をネットワーク内に包摂できない
②あくまで特定のスキルを持った個人が条件であり、誰もが参加できるわけではない
人材育成を他企業に依存していること、強い淘汰性を持つこと。これらは、現在のままの形態では普遍化しない(=ニッチでしか成立しない)ことを意味しています。
つまり、上記のような取り組みは、利益を至上命題とする「市場の論理」を超えようとする試みのように感じられますが(おそらく潜在的にはそれを志向していますが)、個人の自由を前提とした取り組みであることが、限界をつくり出しています。
この課題を突破するためには、組織化が必要になりますが、組織化は必然的に個人の自由を制限します。いずれこのジレンマに陥ることが予想され、個人の自由を制限してでも組織化し、普遍的な形態をつくっていく集団が現れるか否かがポイントではないかと思われます。
○かつての職人・町工場におけるネットワークとの違いは?
上記の働き方は、一見すると、かつて日本に広く存在し、現在でも残っている職人や町工場のネットワークとも似ている。仕事を融通し合い、共助の関係を築いている。
しかし、決定的な違いがある。職人や町工場のネットワークは「組織」であり、仕事を個人の気分や好き嫌いで選り好みすることはない。個人の自由より先に、組織としての信頼に応えることがある。その価値を全成員が共有していることで成り立っている。現在の自由人ネットワークにも、当然同様の「空気」はあるが、個人の自由を尊重するために共有された価値とはなっておらず、組織としての耐力は弱いと言わざるを得ない。
◆組織化を進め、持続的なシステムを構築し始めている事例
上記の事例と一見同じように見える働き方の中で、やや異色な事例があります。異色という意味は、上に課題として挙げた人材育成のシステムをはじめ、個人の自由を絶対とするのではなく、あくまで対象(クライアント・地域)の期待に応えることを前提として働き方が形作られている点です。
○studio-L
コミュニティデザイン=地域に住む人が自分たちの地域の課題を解決するためのお手伝いをする仕事を行う。現在は、全国で80程度のプロジェクトが進行中。
たとえば、島根県隠岐諸島のひとつ海士町では、総合振興計画を住民参画によって策定。公募によって集まった15歳から70歳までの約60名が60回以上にわたるワークショップや勉強会、合宿などを開催し、最終的に24の「住民による具体案」を提示。計画を実現させるための住民チームの活動支援や取組を支える行政側の仕組みづくりなども進めており、すでに5つのプロジェクトチームが立ち上がり、住民主体の活動が大きな盛り上がりを見せている。全国でも非常に注目されている事例。
①全員が個人事業主
拡大生産の時代は組織にぶらさがっていれば仕事ができたし、仕事があった。しかし、これからの時代は新しい価値で新しい仕事をつくりだしていかなければならない。既存の仕組みでは上手くいかないものがあることがわかってきた。そのためには組織のスピードよりも個のスピード感、決断力、実行力が重要。
かといって、決して個人主義者というわけではない。あくまでも、最も相手(地域)の期待に応えやすい組織形態を追求した結果。「個人のしあわせでなく、複数のひとが相互にしあわせだなと思う気持ちを高めたいですね。studio-L は、生活を豊かにしていくためのデザイン会社なのですから」
②インターンシップで、事務所内外の信頼関係を築く
新入社員は、全員が伊賀事務所でインターンシップを行う。
伊賀事務所のインターンには「これをやりなさい」、「いついつまでにここまで成長しなさい」という定めはない。
実際に携わる仕事は、「穂積製材所プロジェクト」と呼ばれ、民有地である製材所の敷地を公共的な空間として展開し、都市農村交流を通じて森林問題や過疎化の課題解決につなげている。「泊まり込みの家具スクール」や「製材体験」などがその一例。伊賀事務所は生活もこの地域になるので、地元の人からの評判がはっきりわかれる。決められた時間に終われないこともあり、どこからが生活でどこからが仕事なのかもわからない。内でも外でも人間関係と信頼関係を積み上げなければならない。ものごとを相手の立場にたって読み取る力が問われる。
資料整理から事務所の掃除のような雑用もこなしながら、たとえば木材を使って子どもたちと椅子をつくるプログラムを実施したり、地域貢献できる企画を立ち上げ、成果が認められれば、非営利活動の主担当になり、さらに実績を積むと全国のプロジェクトに同行できるようになる。
画像はhttp://colocal.jp/topics/think-japan/local-design/20120802_9046.htmlよりお借りしました。
企業集団としての持続性(普遍性)という観点からは、やや特殊性が強いかもしれませんが、この事例のように個人の自由を超え、相手の充足を高めることを軸とした組織づくりを行えるか否かが、現在の自由人ネットワークが継続性を持ち得るか否かを規定すると思われます。一時の個人の充足のためなどではない、「志」が問われます。
逆に、そのような企業が増え、ネットワークが形成されていけば、社会的に大きな影響を与えるとともに、大きな役割を担い得るでしょう。今回紹介した事例を含め、今後も注目です。
今回は「自由人ネットワーク」を紹介しましたが、次回は「企業内における自主管理体制」の事例を紹介します。
- posted by 岩井G at : 14:45 | コメント (0件) | トラックバック (4)
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