2022年02月09日
【駆動物資とは何か?】原猿の同類把握能力の進化(2) 弱オスの「手探り回路」の仕組みを探る~探求力の源泉ノルアドレナリン
前回(原猿の同類把握力の進化(1)本能不全→相手も襲って来ないという状況の同一視へ)は、過密化した樹上で、果てしのない同闘争を強いられ、飢えと怯えに常に苛まれ続けるという、『無限苦行』に陥った弱オスが、アドレナリンを駆動物質に外識機能をフル稼働させ、相手を注視し続けることで、相手も(自分と同じ同じ苦しみ(不全)を抱いているという、相手と自分の状況の同一視に至るまでを扱いました。
今回は、「相手と自分の状況の同一視」に至った弱オスが、安堵感から顕在化した不全解消欠乏(期待)に導かれ、相手を注視することで、相手も(自分と同じく)不全を解消したいという欠乏を持っていることに気づく、つまり、「相手と自分の欠乏の同一視」へと至るまでを、駆動物質と脳回路の視点から見ていきます。
先日の記事『【実現塾】12/11「サル社会の構造③」~(1)欠乏がある限り探索し続ける手探り回路』を振り返りながら整理してみます。
<状況を同一視できた弱オスたちは、大きな安堵が得られ、初めて「同類と闘い続ける無限苦行から脱出できるかもしれない?脱出したい!」という充足欠乏が生起し、その唯一の突破口となりそうな弱オスを “期待発、欠乏発”で注視するようになってゆく。>
このとき作動したのが、未知探求力の源泉ノルアドレナリンを駆動物質とする「探索回路」だと考えられます。この探索回路は、適応不全や未明か課題に遭遇したときなどに作動する適応可能性を探索する回路で、まさに今の弱オスの置かれた状況と合致します。
この探索回路の中心が、脳幹の青斑核(A6核) から脳全体の広い領域に広がる神経回路で、
①「視床、視床下部、中隔、海馬、扁桃体などの大脳中枢系に投射する経路」
②「大脳新皮質の全域に投射する経路」
大きくこの2つの経路に分けられます。
ノルアドレナリンA6神経
(脳の広い領域に投射する)
★期待発の注視とそれまでの注視の違いは?
<それまでの警戒心発の注視は、哺乳類時代の外敵闘争と同様に、向かってくる敵を逸早く察知し、「自分はどうする?(逃げるか?闘うか?)」を判断していた。そのため、敵(対象)を視界に入れている時間は実は一瞬で、瞬間、瞬間の判断で答えを出していた。>
この時の探索回路が、ノルアドレナリンを駆動物質とする、①青斑核(A6核)⇒大脳中枢系(辺縁系)に広がる回路で、爬虫類、鳥類、から哺乳類まで共通で発達しています。ノルアドレナリン は主に【判断核(扁桃体)】に投射され、本能的な恐怖記憶の再現⇒逃げるべきか?/闘うべきか?の判断を下します。
例えば、天敵であるヘビを遭遇した際、ヘビの視覚情報が網膜→視床→視覚野→判断核(扁桃体)に送られ、判断核で瞬時に逃避/闘争の判断を下すと同時に、視床下部を通じてアドレナリンを放出し、血圧や心拍位を上昇ささえ、直ちに逃避/闘争行動に移ります。
<それに対して、期待発の注視は、無限苦行からの脱出に繋がりそうな可能性を相手の中に探索する過程。それは哺乳類時代の「どうやって適応するか?(どの回路をどうつかうか?)」という探索回路と違い、「どうしたら適応できるのか?(どんな回路を作ればいいのか?)」すら不明の未知追求! 欠乏も対象も答えも未知な状態で追求し続ける「手探り回路」と呼ぶべきもの。>
この時の探索回路も、ノルアドレナリンを駆動物質としますが、投射先と作用が異なります。②青斑核(A6核)⇒大脳新皮質に広がる、哺乳類、特に霊長類や人類で発達している回路で、ノルアドレナリンは主に【前頭前野】に投射されます。
逃避/闘争判断の形成と制御に関与するノルアドレナリン
(状況に応じて2つの経路を切り替える)
ノルアドレナリンにより活性化した前頭前野から、判断核(扁桃体)に向けて、抑制性の駆動物質GABAが送られ、判断核の恐怖反応を抑え込み。それにより逃避/闘争行動に移ることなく、その場に留まり、期待発の深い注視が可能になったのだと思われます。
しかし、大脳新皮質のあらゆる回路を駆使し、外識情報を分析や統合を繰り返し、可能性を探索しますが、この探索回路は、もともと欠乏(捕食、危機逃避等)が明確なものであり、本能回路上のどこかに答え(行動方針)がある範囲内の探索回路なので、本能ではどうにもならない状況では答えは見つかりません。まさに、欠乏も対象も答えも未知な状態で追求し続ける「手探り回路」と呼ぶべきものです。
★弱オスの手探り回路はどうやって欠乏を同一視するに至った?
<弱オスたちは、無限苦行からの脱出口を見つけるべく、「仮説」と「検証(実践)」を繰り返して追求を深めてゆく。しかし、そう簡単に答えが出るわけではなく、毎回同一視できる地平が見つかるわけでもない。…答えが出るまでor掴みたい欠乏がある限り探索し続けるこの「手探り回路」は、何世代もかけて徐々に張り巡らされ、…脳回路の組み換えと探索がどんどん豊かになってゆき、知能が進化していった。そして、ついに「自分の欠乏」と「相手の欠乏」を同一視できる地平=無限苦行の脱出口を見つけることができた。>
世代を超えた探索の繰り返しの末、本来、本能上では同じ群れの仲間(追従対象)に対する真似回路を、本能を超えて、周囲の弱オスたちに向けて作動させ同化を試みたのではないでしょうか。真似回路は、相手の行動や動作を見ることで、自分が同じ行動や動作をするときと同じ脳回路が作動すし、脳内に相手の行動を再現することで、相手の意図をや欠乏を理解することが出来る回路です(いわゆるミラーニューロン)。この真似回路により、ついに、「相手も(自分と同じく)不全を解消したい、という欠乏を抱いている」ことを見出したのだと思われます。
ミラーニューロンがあると考えられている領域
(主に運動に伴う大脳新皮質が活動する)
- posted by sai-yuki at : 16:50 | コメント (0件) | トラックバック (0)
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