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2013年04月10日

物流業界の可能性は?~後編:次代の役割は「共同体再生の紐帯」となること


私達の日常や、産業界全体の活動と密接に関わっている「物流業界」は現在、輸送量の頭打ち、物流コストの削減、同業者の激増、という【3重の圧力】にさらされています。物流業界がこの3重苦から抜け出すには、どうすれば良いのか? 物流業界の次代の可能性は、どこにあるのか?

それを探るために、物流業界の歴史を「業態変化」に焦点を当てて見てきました。

 物流業界の可能性は?~前編:「物流業界の現状」
 物流業界の可能性は?~中編その1:「戦後~:大量生産・大量消費の時代」
 物流業界の可能性は?~中編その2:「1970年代~:宅配の登場」
 物流業界の可能性は?~中編その3:「1990年代~:物流コスト削減の時代」

今回の記事では、これまでの歴史分析をベースにして、物流業界のこれからの可能性に焦点を当てます 😮

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1.物流業の業態革命は、「類的価値の供給」にある
これまでの記事で明らかになったように、物流業界の最も大きな業態革命は、1970年代に始まった「宅配」にあります。

1970年以降の日本では、物的な豊かさを実現し、人々は、物的価値から類的価値(人つながりや仲間関係の中で生み出される充足を得ること)へと、意識の向かう先(可能性収束先)を転換しています。そうした中で、「作れば売れる」という生産者優位の時代が終焉し、市場は縮小に転じたのです。
そのような時代にあって両社(ヤマト運輸と佐川急便)は、「迅速・利便・確実に小荷物を届けたい(届けてほしい)」という一般市民の潜在的な期待=潜在需要に応えること、つまり消費者に類的価値を供給することで、新しい市場を開拓してきたのです。これは言い方を換えると、単に「安くモノを運ぶ」という市場的な価値に応えてきた従来の物流から、「お客さんに喜んでもらう」という類的な価値に応える物流への大転換を意味しています。この転換によって、物流業界が陥っていた「値下げ競争」という不毛な戦いから、抜け出すことが出来たのです。
『物流業界の可能性は?~中編その2』

「宅配」で急成長したヤマトが実現したのは、「物的価値の供給」から「類的価値の供給」(お客さんに喜んでもらうこと)への大転換でした。1970年代に人々の潜在意識が大きく変化し、その潜在需要に応えて新しい業態を生み出したからこそ、市場の縮小と反比例して拡大し続けたのです。一方の佐川は、類的価値を生産者=「企業」へと供給し、また企業間をつなげる役割を果たすことで、後発ながらヤマトに並ぶところまで急成長を遂げました。

ところで宅配の誕生した1970年代以降、宅配が提供するサービスの中身は刻々と変化しています。その中身をつぶさに見ていくと、最初のうちは「個人の利便性」が何よりも重視されていたのが、その後「安心・安全」(ex.佐川女子)、さらには「環境」を重視するサービス(ex.エコ配)など、次第に社会的次元の充足を提供するものへと移行しています。これは、人々が求める「類的価値」の中身がより社会的次元へと変化していることに呼応したものです。つまり、人々の意識を注視し続け、先端の類的価値を捉え応えている企業群が勝ち残っているのです。

2.物流業はどこへ向かうのか? ~先端事例の紹介~
では、これからの時代、宅配(ひいては物流業界)に求められるサービスとは、どのようなものになるでしょうか?
あらためて「宅配」という業態に注目してみると、「宅配」はモノを運ぶという役割にとどまらず、生産活動を行いながら、地域住民のネットワークを形成できる業態であることに気づきます。顧客とじかに触れ、そこで(品物を受け取ったり届けたりするついでに、その気になれば)様々な情報を得たり提供したりすることが出来るからです。
高齢者への食の宅配や、介護サービスの宅配などはその萌芽であり、まだ他にも様々な潜在需要が眠っていると考えられます。その視点で、物流業界やそこに近い業界で先端事例を探してみると、「宅配」に限らず様々な業態が登場しています。未来への充足イメージを膨らませていただくために、その先端事例の一部をご紹介します。
①充足を届ける:テトテト

身体に優しい化粧品の通販を手掛ける「あきゅらいず美養品」の物流を担当。「お客様の手に届くまで丁寧にこだわっていきたい」というあきゅらいずの想いを、一緒に考えて実現している。「ただモノを流通させているわけではなくて、かかわる人たちの想いを手から手へ渡していくリレーの一部。手と手とをつないでいく。想いと想いをつないでいく。そんな気持ちから自然と『テトテト』という名前が生まれました」(HPより)。具体的には、顧客の注文内容に合わせた、正確・丁寧な手作業による梱包や、心を込めて仕上げたお便りの同封などを行う。
(参考:『ありのままでいられる☆*:・°だからみんながキレイ☆~あきゅらいず美養品☆』

【コメント】宅配を通じて供給できる類的価値に照準を当てて突き詰めており、効率最優先の梱包・物流ではなく、お客さんに喜んでもらう梱包(人の手のぬくもりが感じられる物流サービス)を実現している。
②認識を供給する:ナチュラルハーモニー

農薬や堆肥を一切使わず土が持つ自然の力=微生物の力で栽培する「自然農法」により栽培された作物を宅配。レストランへも卸している。自然栽培農家の育成やネットワーク化にも注力。代表の河名秀郎氏は、「自然の食物が人間本来の健康な体や精神をもつくる」、また「企業として行う『究極のサービス』とは、人と社会の幸福の為、有用な認識の発信である」と考え、ネット宅配のHP上で、野菜や発酵食品、またアレルギーの原因など、氏が追求した豊富な事実情報を発信している。
(参考:『自然の摂理を理念とする株式会社ナチュラルハーモニー~自然農法の可能性』

【コメント】企業がネットを通じて事実を発信している事例だが、物流を担う企業は、その物流網を活用し(商品ばかりでなく)事実を供給する役割を担うことも出来る。そのような可能性を示している。現代人は情報の洪水の中を生きており、本当に必要な情報や、情報を精査するための軸(構造認識)を必要としている。したがって、事実や構造認識への潜在期待は大きい。

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(ナチュラルハーモニー HP

③地域密着の御用聞き(小売編):でんかのヤマグチ

東京・町田にある街の電気屋さん。大手家電量販店よりも2~4割程度高い価格帯ながら、月に約1億円を売上げる繁盛店だ。お客さんが喜ぶことは何でもやる。「我々が目指すのは究極の御用聞きだよ!」。社員たちは本業以外のこと、例えば留守の間の犬のエサやりや散歩、スーパーへの買い物、部屋の模様替えなど、ありとあらゆる作業をやりながら、顧客の家電情報も収集している。今では「頼れるのは遠い親戚よりも、近くのヤマグチ」との評価を得るまでになった。
(参考:『これからの充足のカタチ(2)~小さな街の電気屋が生き残っている理由』

【コメント】「究極の御用聞き」を目指す同店は、お客さんの期待に(業界の枠にとらわれず)徹底的に応えることで、地域にファンを広げている
④地域密着の御用聞き(物流編):リディアファクトリー

滋賀県草津市と大阪市にある、正社員4名にアルバイト10名の小さな物流会社で、地域密着型の物流『地域物流』を実践している。「高齢化する地域の役に立ちたい」との想いから、(1)『販売支援』の地域物流(例えば、高齢者では持ち帰ることのできない重たい商品など、お客様がスーパー等で購入した商品をリディアファクトリーが自宅まで運送する)や、(2)『御用聞き』の地域物流(専任スタッフが地域に密着して活動することで、「指定地域内なら3時間以内でお届け」など短時間のお届けサービス、「部屋の模様替え」や「庭の草むしり」など生活に密着したサービスを提供する)を行っている。
(参考:『「お部屋の中までお運びしましょうか?」から始まった、地域物流という新業態』

【コメント】小規模な物流会社でも、地域に根ざして活動し、住民の声を拾うことで、さまざまな潜在需要を発掘し、活躍できる可能性を示している。
⑤地域に活力を生み出す:配彩那覇

沖縄で一人暮らしのお年寄りに食事調理・配達事業を行う「労働者協同組合」。一般企業と違い、出資、経営、労働が一体で、組合員みんなで話し合いながら運営方針を決めている。組合員は定年退職者や主婦ら60代以上が中心。就労機会の少ない人が自ら働く場をつくり、主体的な労働で、地域社会に本当に必要とされているきめ細かなサービスを提供できる。配達の際の安否や体調確認でお年寄りの孤立を防いでおり、大嶺和恵所長は「働く側も多様な分野から集まり、社会貢献にやりがいを感じている」と説明する。
(参考:『協同組合法:出資・経営・労働を一体化した働き方をしている人たちは10万人を越えている』

【コメント】企業自体が地域の人々の手で組織され、全員が主体的に活動することで、地域に根ざし、地域に活力を生み出す存在となっている

いかがでしょう? 次代への充足イメージが膨らんできたのではないでしょうか

3.物流業の新たな役割は「共同体再生の紐帯」となること!
では、いま挙げた先端事例の背景に横たわる普遍構造とは、どのようなものでしょうか?
1つは(ヤマトや佐川、テトテトの例が象徴するように)類的価値を供給し、共認充足を生み出している、ということです。そこには、かつての物的需要に代わる、人々の潜在需要=活力源があります。

’70年以後、貧困の消滅に伴って私権追求はもはや第一の活力源ではなくなり、代わって、周りの期待に応えることによって得られる充足(安心や喜び)、すなわち共認充足こそが最大の活力源となっている。
※共認とは、共に認め合うこと。共認機能はサル・人類に固有の機能で、相手の期待に応えることによって充足を得ることができ、サル・人類の最大の活力源となっている。
『学生に与う3 新しい活力源=周りの期待に応える充足』

もう1つは、“自分達の生きる場を自分たちの手で作ってゆこうとする”共同体再生の気運を、後押ししていることです。ナチュラルハーモニーは、自分達の生きる場を作ってゆくために必要な認識を提供し、でんかのヤマグチやリディアファクトリー、配彩那覇は、地域につながりを生み出し、地域の活力を再生しています。ここには、新たな、かつ巨大な需要源が眠っています。

この共認収束の潮流は、今後100年は続く大潮流であり、現在も私権から共認への大転換は進行中である。そして、その途上の’11年、3.11と統合者たちの暴走を契機として、この大潮流は遂に「自分たちの手で作り出せる能力」あるいは「自分の頭で答えを出せる能力」への期待、云わば自給期待の潮流を顕在化させた。これらの潮流が指し示す次の社会は、おそらく「自分たちで作ってゆく」共同体社会となるだろう。
『学生に与う3 新しい活力源=周りの期待に応える充足』

共認充足と(その先にある)共同体再生は、最先端の社会期待(みんなの期待)であり、ここに応えられる企業がこれから勝ち残っていくのです。したがって物流業界の行く末は、(縮小し続ける市場の物的需要にしがみつくことではなく)この社会期待にどこまで応えられるかにかかっています
今回のシリーズが、読者の皆様、とりわけ物流業界に携わる皆様にとって、今後の可能性を切り拓くための一助となることを願っています。
最後までお読みくださり、ありがとうございました 🙂

参考:『業態革命が必要となってきたのはなぜか』
参考:『供給者が新しい業態をつくり上げ、供給する体制をつくりさえすれば、直ちに実現していく』
参考:『業界の枠を飛び越える自在さ』

※冒頭画像は、日本海新聞(2011年8月28日)より。

 

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