2014年10月01日
老人共同体の実現に向けて その萌芽となる事例の紹介~皆を巻き込む「きよぴー&とまと」
これまで、高齢者が作る地域共同体の萌芽の事例を紹介していきました。
今回は「きよぴー&とまと」を紹介します。
この記事を通しての気づきは、事業内容ももちろん重要なのですが、それ以外に
A 地域に根ざした事業は、やはり地域に根ざした人々が核となっていること
B 地域の人の居場所をつくっていくこと、
という点です。
但しそれだけでは成功できません。「きよぴー&とまと」が成功しているのはなぜなんでしょうか?その秘訣を探ってみましょう。
「きよぴー&とまと」は、八王子市清川町の街中にある店舗を拠点に、折り紙教室や作品展示、世代間交流イベントなど様々な活動と、手づくり惣菜の販売や配食サービスを行っています。
活動を通じて同町を中心とする地域住民の食生活の利便と、地域の活性化に貢献しています。副代表の梅沢香代子さんと、事務局長の片貝剛さん、そして活動に参加しているメンバーへのインタビューがありましたので、それを元に活動内容を紹介していきます。
■活動内容と目的
「きよぴー」とは「清川ハッピーステイション」の略称で、「とまと」は5年前から八王子市内で配食サービスを続けている団体で、「きよぴー&とまと」は、この2グループが合体し、地域の活性化に貢献する一つのボランティア団体です。
現在は、清川町の中心部にある商店街を拠点として、地域住民の世代間交流や生きがいづくりにつながる様々な活動を主催し、地域のシニア世代の主婦が中心となって手づくりの惣菜販売やお弁当の宅配を行っています。2年前に「きよぴー&とまと」のメンバーと地域の有志とで、ソフト面から地域を支える会として、隣の空き店舗に新組織「You&I」というサロンスペースを立ち上げ、地域交流の場として活動の輪を広げています。
○サロンスペースの「You&I」
定休日である水曜日以外の11時から16時までは喫茶店として利用でき、壁面をギャラリーとして開放していますので、絵や写真、工芸品など、皆さんの作品を展示しています。 また、毎日のようにフラダンスや折り紙などの教室、映画や音楽の鑑賞会などを開いています。いろいろな催しを行っているのは、できるだけ多くの人に参加してもらえるようテーマを広げているからです。
「きよぴー&とまと」で購入したお惣菜やお弁当はこのサロンで食べることができます。
さらに、月1回朝市を実施し、周辺の農家の新鮮な作物や手づくりのお菓子などを売っています。そして年5回、地域の子供たちを集めて川遊びや凧づくりと凧揚げ、芋掘りに出かける世代間交流活動を行っています。
また、活動していく中で地域の人達から色々なニーズが寄せられるようになってきたので、新組織「You&I」は地域の要望に応えるために男性6人で「お助け隊」というチームを組みました。具体的には、一人暮らしで何かとお困りのお年寄りの家などの包丁研ぎやまな板削り、庭の草むしりや電球の取り替えといったお手伝い活動をしています。こういった活動には、参加する人に生きがいにつながる仲間づくりをしてもらいたいという意図があります。
なお、教室への参加は1回500円、ギャラリーの作品展示は1作品ごとに300円をいただいています。サロンスペースの家賃や運営費用をまかなうためです。
○「きよぴー&とまと」
惣菜店のほうは11時~17時までの時間帯で営業しています。毎日、きんぴらやひじき、唐揚げといった惣菜やいなり寿司などのお弁当を50種類ほどつくり、1パック120~150円で販売しています。当初は配食と喫茶・軽食で計画しましたが、それだけでは家賃が賄えなかったことと、ちょうど近所の惣菜屋さんが閉店して皆困っていたので、どうせお弁当をつくるのなら、と始めることにしました。
配食は、昼と夜2回、20軒のお宅に配達しています。代金は1食500円です。配食弁当の内容は、月1回メニュー会議があり、そこでメニューを決めています。しかしそれに加え、その日の担当者が自慢の一品をつくってくれます。登録している料理好きなボランティアスタッフは110人ほどおり、スタッフたちは毎日入れ替わり立ち替わりなので、「毎日違う種類の惣菜があって嬉しい」と好評です。さらにクッキーや生姜蜂蜜かりんとう等のお菓子を企画し、メーカーにつくってもらって販売しています。
■活動エリアとスタッフ
清川町と隣接する町の一部、合わせて600世帯ほどが対象です。この地域の高齢化率は35%くらいでしょうか。スタッフは、サロンのほうは約10人で惣菜と配食のほうは110人です。120人ほどのうち一部は遠方から来てくれている人もいますが、ほとんどがこのエリアの住民です。70歳以上が95%ぐらいだと思います。
■業 績
全体で日販3万円程度を維持しています。そのうち7割を惣菜が占めていて、配食が2割弱といったところで十分維持できています。「きよぴー&とまと」のスタート当初は日販1万7000円程度でしたが、少しずつ増やしてきた感じですね。スタート時にメンバーから出資金を集めたのですが、3年で完済しました。
■活動経緯
梅沢さんは、八王子の駅前など市内で6店舗のお弁当屋さんを経営していました。60歳になった1996年の時に、ここまで店を育ててくれた地域の人たちに恩返しをしたくなって、お弁当を宅配するボランティアを始めたのです。17年前の当時は今のような配食サービスなどありませんでしたから、毎日の食事づくりに困っているお年寄りが多いことから思いついたのです。そして、子供の学校の同級生の親仲間など地域の人に声をかけたら200人以上もの人が賛同してくれたそうです。そのとき「私に何があっても清川の人たちが守ってくれる」とまで思えたそうです。
そうした中で、清川町のある方から「空家になっている家があるから使ってほしい。」と申し出があり、ボランティアで配食サービスを行う「オレンジの会」を立ち上げたのです。
5年ぐらいしてその空家が売却されることになり、新たな場所探しのために八王子市に掛け合ったところ、使われなくなっていた市の福利厚生施設の厨房を貸してもらえることに。但し、市内の他のボランティア団体と共同でという条件つきでした。そこで、「洗い屋本舗」という食器洗いの男性ボランティアチームなどと合同で借りることにし、オレンジの会を「とまと」に改名して活動を再開しました。
ところがまた5年ぐらいしてその施設も取り壊されることになり、地域の仲間に相談したら、本間重利さん(きよぴー&とまと前代表)から「空き店舗があるからそこを借りて、せっかくなら地域の活性化に役立つような活動もしたらどうか」と言われたそうです。そうして本間さんも加わり「きよぴー」を立ち上げ、2006年3月に「きよぴー&とまと」ができたのです。
■成果とやりがい
奥様を亡くされた一人暮らしの男性のお年寄りが何人か、惣菜を毎日買いに来て、「安くて家庭の味が食べられるのが嬉しい」と話しているそうです。また、配食は安否確認も兼ねているので、地域貢献も出来ています。
梅沢さん自身は、大好きな料理ができ、やはり大好きな多くの人とこうして交わえることが生きがいです。誰かの役に立つことも大切ですが、自分自身が楽しめることが何より大事ではないか
と思っているそうです。
「お助け隊」や配食サービスでお宅に伺うと、「あなた方がいないと生きていけない」と言ってもらえることがあります。地域で困っている人を地域の人が助けられているというところに意義を感じています。
・・・・・・・・・・
成功の鍵はどうやら「巻き込み力」のようです。
この場合、成功とは継続のことです。「きよぴー&とまと」は度重なる活動場所の喪失に対して、継続困難にぶち当たりました。その度に回りの皆を巻き込み、事業内容を拡大・変化するなど常に置かれた状況にきちんと適応していったのです。対象エリア600世帯のうちスタッフが120人なのだから、お客さんもスタッフも必ず誰かの顔馴染みなのでしょう。
そして、地域課題を担い続ける(≒継続)ことで、事業活動が電気・ガス・水道と同じように、地域生活のインフラとして不可欠な存在になったのだと思います。それゆえに、現在「きよぴー&とまと」が抱えている課題は後継者の育成だそうですが、皆が顔馴染みという現状を踏まえれば、きっと誰か出てくるような感じがします。
- posted by komasagg at : 22:03 | コメント (0件) | トラックバック (0)
コメントする