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2016年05月26日

全員経営 自律分散型イノベーション企業⑤~釜石の奇跡~Ⅱ.姿勢の防災教育

このシリーズでは東日本大震災で津波の被害を受けながら、小中学生の生存率99.8%という驚異的な数字を残した「釜石の奇跡」について、「全員経営~自律分散イノベーション企業成功の本質」(野中郁次郎・勝見明著:日本経済新聞出版社)を元に取り上げています。

前回までの記事は
①プロローグ
②ヤマトは我なり~クロネコヤマトの挑戦
③ヤマトは我なり~バスとの連携
④釜石の奇跡~Ⅰ防災教育

さて前回紹介したように、子どもとその親を巻き込んで、20年先を見据えた防災教育の取組みが始まります。まずは想定される津波の恐ろしさを感じてもらう・・・などと、私たちが考えやすい手法を片田教授はしませんでした。
防災教育には、「脅しの防災教育」「知識の防災教育」「姿勢の防災教育」の三つがあるそうです。

「脅しの防災教育」とは、過去にどんな大災害があったかを教え、自分たちのまちの危険性を伝える。「恐怖喚起のコミュニケーション」と呼ばれる。聞いた子どもは自分たちのまちが嫌いになる。何より、外圧的に作られた危機意識は長続きしない。人間には怖い気持ちは忘れようとする心のメカニズムがあるからだ。

「知識の防災教育」は、津波被害を想定したハザードマップを見せて、知識を与える。すると子どもたちはそれ以上は被害は起きないと上限値を規定してしまう。それは自然の前では何の意味も持たない。

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一方、片田教授が取り組んだのは「姿勢の防災教育」。自分の命を守ることだけにどれだけ主体的になれるか。教授は子どもたちの釜石への郷土愛を育むことから始めた。

「ぼくはこう話しました。釜石は綺麗な海があり、魚も美味しい。君たちはどんなに幸せな生活をしているだろうか。ただ海の惠をもらうということは、ときには自然の大きな振る舞いにも付き合わざるを得ない。でも恐れる必要はない。適切な対応ができれば災いをやり過ごすことができる。津波から生き延びる知恵をつけるのはこの地で暮らすお作法なんだ。お作法として、そのときだけは逃げて、自分の命を守る主体的な姿勢を持っていよう、と」

様々な自然災害に対処してきた人類は、日常的には自然外圧を遠ざけて生存域を拡大してきたと言えます。しかし人類の想定を超えた災害はある日突然、やってきます。その突発的な非常時に、人は大抵、自然外圧→死に真正面から向き合えない。

例えば、教室で突然、非常ベルが鳴っても誰も飛び出そうとしない。「逃げなきゃ」とは思っていなくても、今がそのときだとすぐには思わない。周りのみんなの様子をまず見ている。“自分は今正常な状態に置かれている”と考えようとする心理が常に働くから。これは「正常化の偏見」と呼ばれる。このとき「火事だ」と叫ぶ声や煙の臭いなどの第二報が入り、正常化しようがない状態になって初めて、今がその“逃げるとき”と思えるのです。片田教授はこの人間の思考パターンを子ども達に理解させることに重きを置いたのです。

「子どもたちはどんな津波が来るのかを知りたがります。でもそれは分かりません。だから言いました。本当に知らなければならないのは“敵”ではなく、“”だ。人間は危険とまっとうに向き合えない。だからこそ、自分を律し、避難することはとても知的な行為なのだと教えたのです。」

圧倒的な自然外圧に対して逃げることは、“無知で恥ずかしいこと”ではない。「きっと大丈夫」という設定≒願望≒勝手な思い込みの方が危険なのだ。このような心理状況に陥りやすいことを自覚するのは、大人になるほど難しいかもしれない。片田教授の取組みは、可能性ある子どもたちに故郷を大事にするという想いと自然への畏敬の念を抱かせる教育にもつながっていると思います。

 

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