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2016年06月01日

全員経営 自律分散型イノベーション企業⑥~釜石の奇跡~Ⅲ.「率先避難者たれ」の意図

このシリーズでは東日本大震災で津波の被害を受けながら、小中学生の生存率99.8%という驚異的な数字を残した「釜石の奇跡」について、「全員経営~自律分散イノベーション企業成功の本質」(野中郁次郎・勝見明著:日本経済新聞出版社)を元に取り上げています。今回は災害時の避難行動と、一見矛盾しそうな自律的行動がどう繋がっているかを突き止めます。
前回までの記事は
①プロローグ
②ヤマトは我なり~クロネコヤマトの挑戦
③ヤマトは我なり~バスとの連携
④釜石の奇跡~Ⅰ防災教育
⑤釜石の奇跡~Ⅱ姿勢の防災教育
片田教授が、避難行動において徹底させたのは、次の3原則。

第一に「想定は信じるな」。ハザードマップは一つのシナリオにすぎない。そのシナリオをもとに備えれば大丈夫と思う姿勢は正しいかと問いかけ、被害の上限値の固定化を突き崩した。

第二の原則は「その状況下において最善を尽くせ」。自然は何が起こるか分からないからこそ、最善を尽くす。それでも死んでしまうかもしれないが、それ以上できなかったのであれば仕方がない。自然と向き合う姿勢とはそういうものだと。

そして第三の原則は「率先避難者たれ」。いざというとき、率先して逃げる。

特にこの「率先避難者たれ」は、子どもたちが従来、習ってきた倫理観から逸脱する面もあった。

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片田教授が言います。

「率先避難者たれとは、人にかまうな自分の命を守り抜けと教えるわけです。自分だけよければいいのかと疑問に思った子どももいたでしょう。実際、非常ベルが鳴ってもみんな逃げ出さない時、自分一人だけでは逃げにくい。でも、そうやってみんな死んでいく。そのとき、最初に部屋を飛び出す勇気を持てば、みんなが同調する。だから、自分の命を守ることはみんなの命を守ることにつながるんだと。子どもたちはしっかり理解してくれました。」

同じような意味の言葉で「津軽てんでんこ」があります。これは1990年第1回「全国沿岸市町村津波サミットで生まれた標語で、訳すと「津波が来たら、取る物も取り敢えず、肉親にも構わずに、各自てんでんばらばらに一人で高台へと逃げろ」という意味。極めて利己的な考えと誤解されやすいが、この言葉を提唱した津波災害史研究家の山下文男氏によると、そうではなく「あらかじめ互いの行動をきちんと話し合っておくことで、離れ離れになった家族を探したり、とっさの判断に迷ったりして逃げ遅れるのを防ぐのが第一である。」ということ。つまり「てんでんこ」は、自分勝手、好き勝手に逃げる、ではなく、予め確認した可能性に向けてお互いの役割として逃げる、ということになるのです。

 授業参観日に、片田はまず子どもたちにこう話した。
「今日、家に帰ったらまずこう言うんだよ。ぼくは津波の時は絶対逃げるから、お父さんもお母さんも逃げてね、と。信じてもらうまで、できうる限りの努力を持って伝えるんだよ。」

そして親にも言った。
「今日、家でお子さんが、自分は絶対逃げると懸命に話すでしょう。お子さんが心配なのはご両親の命です。だから、お子さんの言葉を真正面から受け止めてください。自分の命に責任を持つことを家族で信じ合う信頼感によって、津波てんでんこを可能ならしめる家庭であってください。そうして初めてお宅の家庭防災ができるのです。」

片田教授は、その日の下校時に親子で白地図を持たせ、津波が来た場合の避難場所や経路を書き込んで、個別の避難地図を作らせています。周囲に適当な避難場所がなければ、地域の個人宅に「うちの子が来たら一緒に逃げてやってください」と頼むようにし、引き受けてくれた個人宅には「子ども津波ひなんの家」のシールを交付し、地域も巻き込んでいきます。

さらに市内の他小中学校で賛同してくれた教師と一緒に、防災教育の教材づくりも行っています。例えば、小学校6年生の算数の「速さ」の単元で、津波が自宅に到達する時間を計算させる。各教科の中に津波防災を組み込むことで、教師たちにも「姿勢を与える」ことの大切さを気付いてもらっていきます。

片田教授がさらに中学生に対して促したのが「助けられる人から助ける人へ」の意識転換。「地域のために何ができるか」を考えさせた。

例えば、釜石東中学校では生徒会が中心となり、地域貢献と防災学習を結びつけた「EASTレスキュー」という独自の活動を始めました。生徒は年1回、防災練習、応急措置、非常炊き出し、竹ざお担架作りなどのメニューの中から選んで受講する。生徒たちは色とりどりの着ぐるみを着て、「てんでこレンジャー」に扮し、学んだ知識を伝える津波防災意識啓発のDVDも自主製作した。避難時に避難先を書いて玄関先につるす「安否札」を作成し、各世帯に手渡しする活動は、全国各地の防災教育を顕彰する「ぼうさい甲子園」で2年連続優秀賞を受賞した。

子どもたちは「率先避難者」として自律的な行動をとるためのを作るために、準備と訓練を着々と積み重ねていくのです。

 

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