生物は、全て外圧(外部世界)に対する適応態として存在しています。刻一刻と変化し続ける外部環境に対して、各部感覚器から外部情報を感知し、それを元に価値判断を下し、どう行動するか司令を発し、各部の運動機能が連携して作動することで適応しています。
そのために、私たちの体内では常に細胞間で様々な情報をやり取りしています。ここで重要な働きを担っているのが、ホルモン様物質や神経伝達物質などの化学物質です。この化学物質とは何なのか?何を伝えているのか?など、「なんで?」がつきません。そこで今回は、脳内で機能する化学物質に焦点を当て、その本質に迫ってみます。
人間の脳は複雑な神経回路網によって構成された一種のコンピュータに例えられますが、実は、脳の一面を捉えたに過ぎません。脳はそれと同時に、さまざまな化学物質の働きによって作動する一種の化学プラントでもあり、さらに、化学プラントとコンピュータをつなぐアナログ回路も併せ持っています。しかも、どの仕組みにおいても、化学物質の働きが決定的に重要な役割を担っています。
■脳内の様々な伝達経路
脳内には神経細胞(ニューロン)の他、多様な伝達経路があります。それらの伝達経路における化学物質の役割を見ていきます。
1)神経細胞(ニューロン)による伝達
神経細胞は樹状突起とよばれる神経情報の受け手にあたる部分と、細胞核を含む細胞体、および神経情報を伝える軸索とに分かれています。神経細胞の軸索は、よく見るとほかの神経細胞に接着しておらず、狭い間隙を挟んでシナプスとよばれる構造を形成しています。このシナプスで次の神経細胞への情報の伝達がおなわれます。
神経細胞が電気的に活性化されると、パルス状の電気活動は軸索に沿って伝わっています。このパルスが神経の末端までくると、神経伝達物質とよばれる化学物質が放出されます。放出された神経伝達物質は次の神経細胞の樹状突起や細胞体上にある受容体とよばれる構造に作用します。
神経細胞(ニューロン)とシナプス
(画像はコチラから借用)
電気信号をか化学物質に変換するのは、一見すると効率が悪いように見えますが、実はこの仕組によって、無機的なデジタ信号を、「質」を伴ったアナログ信号に変えることができます。シナプスは、単純な電気信号(1か0か)のリレーを行う場所ではなく、伝達物質を使って複雑なやり取りをしている場所なのです。この化学物質には様々な種類があり、欠乏や意欲、喜怒哀楽、記憶や学習などの複雑な働きを可能にしています。
2)細胞外スペースの拡散性伝達
細胞と細胞のすきまにある「細胞外スペース」と呼ばれる部分が、脳の機能において重要な役割を持っていうことが分かって来ました。細胞外スペースは、「間質液」という体液で満たされており、化学物質の通り道になっているのです。
拡散性伝達のイメージ
(書籍『脳を司る「脳」』より抜粋)
化学物質は、神経細胞の軸索繊維上にあるコブ状の膨らみの中に蓄えられ、細胞外スペースに直接放出します。特徴的なのは,比較的広範囲に向けて, 特定の相手を定めず化学物質を放出することです。これらは, 固囲にあるニューロンやグリア細胞を同時に活性化し, 脳の状態を変化させます。細胞外スペースを拡散によって伝わり(拡散性伝達), 不特定多数の細胞に対して信号を伝えることから、ここでの化学物質は神経修飾物質と呼ばれます。
この点が,コンピュータには見られない,脳独自の伝達機構です。拡散によって不特定多数を同時に活性化するようなデジタル的ではない, アナログ的な伝達とも言えます。広範囲調に拡散した化学物質は, 脳の広い範囲を同時に調節することから, 覚醒,注意, 集中,気分に関与すると言われています。
3)グリア細胞による伝達
脳に分布する主なグリア細胞はアストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびミクログリアの三種に分類され、ヒトの脳におけるこれらグリア細胞全体の数はニューロンの数を遙かに上回ります。グリア細胞は、ニューロンに栄養を運んだり,軸索を絶縁して電気信号を送る手助けすることが役割だと考えられてきましたが、グリア細胞が情報伝達に関わっていることが分かってきました。
グリア伝達物質放出
(画像はコチラから借用)
ヒトのアストロサイトは、ニューロンがらの信号を受け取るだけでなく、アストロサイト自身も種々の化学物質(グリア伝達物質)を放出する発信能力を有しています。化学物質を放出することで、神経細胞の活動を活性/抑制することで、神経細胞の活動及び可塑性を制御していると考えられています。
■化学物質の本質は、脳回路を駆動させる「駆動物質」
脳内の3つの伝達経路を見てきましたが、どの伝達経路でも、化学物質が重要な役割を担っていることが分かります。この化学物質は、ホルモンや情報伝達物質などと呼ばれますが、これは表層的な捉え方に過ぎません。この化学物質は、伝達物質である前に、価値判断付きの駆動力そのものであり、全ての意欲(欠乏)の発生源なのです。
その価値判断と駆動力は同種の神経細胞に伝達されますが、そこで伝達されるのは価値判断付きの駆動力そのものであり、駆動物質こそ全ての意欲(欠乏)の発生源なのです。これは、脳内に限らず内分泌系でも同様です。そこで、本来の機能・働きを方表現すため、ここでは【駆動物質】と呼び、駆動物質とはなにか?誕生した起源や発生源は?、その本質を探求してきます。