人類最初の観念機能は「精霊」と言われているが、「精霊を見る」とはどういう感覚なのか。これからいくつか事例を扱い、その感覚に迫っていく。
まず初めに取り上げるのは「シャーマン」。
シャーマンとは、神や精霊との直接接触からその力能を得、神や精霊との直接交流によって託宣、予言、治病、祭儀などを行う呪術(じゅじゅつ)・宗教的職能者。役割を果たす際に、トランスtrance(意識の例外状態)のような異常心理状態になることが多い。男女あるが、地域や民族により比率が異なる。シャーマンになるのには大別して二つの方法がある。一つは、神霊や精霊が特定の人物を選んで試練を課し、強制的にシャーマンに仕上げるもので、召命型といわれる。他は、いろいろな理由から個人が意図的にシャーマンになることを志し、多くは先輩シャーマンの指導により、学習・修行を続けて一人前になるもので、修行型とよばれる。いずれの場合も、神や精霊との直接接触・交流の力能の把握が中心となる。(コトバンク参照)
今回、40歳からシャーマンになったコリンヌ・ソンブランへのインタビューを紹介する。
Corine Sombrun
トランス状態とは何なのか? 女性シャーマンが語る。
(中略)
——自分にシャーマンの力があることをどうやって発見したのですか?
2001年、シャーマンの儀式を録音するために、モンゴルのシベリア国境付近に行きました。民族音楽学者としてBBCワールドの番組作りに携わっていたのです。
(中略)
でも儀式が始まり、太鼓の音を聞いたとたん、震えが走り、その場で飛び上がって、私は自分の身体を叩いていました。大声で叫んだり、狼のような唸り声を上げて。自分の口元が前に突き出しているように感じました。シャーマンに体当たりして格闘しました。彼が持っている太鼓を奪いたかったのです。普段の10倍もの力が出ました。バルジルが2時間かけて私を正気に戻してくれました…。それから、彼は、精霊が私をシャーマンに選んだと告げたのです。
(中略)
——どなたからイニシエーションを受けたのですか?
モンゴルの女性シャーマン、タマリの母でドゥジの妻のアンケチュヤです。トランスは変容であり交感であるということを、彼女は経験を通して教えてくれました。トランス状態にある時、脳は意識が受容しない情報をキャッチしているのだと気づくまでに、長い時間がかかりました。私が質問をしたり、理屈をこねたりすると、彼女は「精霊が教えてくれる」とだけ答えるのです。私は chichi kochkonok、お尻の穴と呼ばれていました。1年のうち4ヶ月間をモンゴルの彼女の元で過ごす、それを7年間続けました…。
——人類学者のフィリップ・デコラによれば、アニミズムは人間と人間以外のすべての存在に同種の内面性や主体性、志向性を認めています。シャーマニズムはアニミズムの儀礼的実践のひとつですが、アニミズムをどう定義しますか?
アニミズム信仰者は、万物、つまり石も、葉も、動物も、すべてに生命があり、私たちと交信していると考えます。すべてが尊重に値し、すべてが魂を持っていると。人類学者は「非物質的な霊魂」という言葉を使います。伝統的な社会の大半で実践されているトランスを介して、この霊魂、この精霊との交信が可能になる。イニシエーションの過程で、すべてが振動していて、すべてが周波数であり、情報であることに気づきました。トランスによってそれが感じ取れるようになるのです。
ある晩モンゴルで、私は宇宙全体との一体感を感じました。ひとつの全体に自分が溶けていくようでした。どこまでも空っぽであると同時に、宇宙で満たされている感覚に浸りながら、見えるものと見えないものというカテゴリーの境界が崩れていくのがわかりました。まさに啓示でした。
——シャーマンはどういう役割を担っているのでしょうか?
シャーマンは精霊の世界と人間との仲介役。不調和がある場合には調和を取り戻すために精霊にコンタクトします。何か大きな決定を下す前には必ず精霊に意見を求めます。
——どういう方法でトランスに入るのですか?
最初は儀式の太鼓の音が誘導になりました。いまは自己誘導でトランス状態に入ります。立ったまま行いますが、必要だと感じたら、腰掛けて行うこともあります。
20年前の私のトランス状態はかなり強烈なものでした。怒りを覚えていたのだと思います。時とともに徐々に制御できるようになり、いまでは安定した状態になりました。最初は私は狼でした。それからバッタになり、クマになり、リス、石…。オーガズムがトランスを誘発するきっかけとなることもあります。最初はとても奇妙でした!
トランスがオーガズムを誘発することもありますが、これは私には一度も経験がありません。ただ、これまでトランスを指導した経験から言うと、トレーニングの初期にはさまざまな反応が見られます。なかにはオーガズムを経験する人もいました。本人はとても恥ずかしがりますが、これは単に生命の力がコントロールも検閲もされないまま表出しているだけ。トランス状態にある間は、力が増し、痛みの知覚が弱まり、時間認識が変化します。「考える」のではなく、「感じる」ようになります。
(中略)
——私たちはみな「トランサー」で、自分でそのことに気づいていないということでしょうか?
トレーニングを受けた人の95%が、程度の差はありますが、容易にトランス状態に入れるようになります。深度は人によって違いますが、すべての人が認知機能が増幅した状態を体験します。
(中略)
自然の中でトランスを体験していると、木の前に立って、木に向かって「私に何を伝えたいの?」と問い掛けることがあります。私はよくありました。アマゾンとモンゴルで暮らしていた時にわかったことがあります。向こうでは自然は過酷で、そして遍在しています。
21世紀の人間の脳のおかげで、私たちには火星表面の鉱物を採取するロケットを作ることさえ可能だけれど、この超分析的な脳が変性意識状態に移行して、木を抱きしめたいと感じるには、ただ、森を歩くだけでいい。合理的な知性が私たちを閉じ込め、私たちを生命から切り離しています。瞑想やトランスによって、誰もがあらためて自分自身を開放するのです。
(中略)
——近いうちに宇宙飛行士にトランスを訓練する日が来るかもしれませんね?
その時、私はこう言うでしょう。これは、芸術家、精神科医、救急医、言語学者、私の訓練に参加するすべての人に言っていることです。「精神年齢が4歳になった時に、喜びとは何かがわかるでしょう」と。
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シャーマンは超自然的(霊的)存在と一体化する何らかの「回路」を開いていると思われる。一定のリズムで太鼓をたたいたり、音に合わせて体を断続的に動かしたり、幻覚性のある植物(アワヤスカ、マジックマッシュルームなど)を摂取したりすることにより、一種の変性意識である「トランス状態」に入り、その一体化回路が開かれるのではないか。
次回以降、いくつかの事例を扱い、さらにそのヒントを探っていく。