日本でiPhone3Gが発売されたのは2008年7月11日。同機はわが国のスマートフォン(以下スマホ)が広まるきっかけとなったもの。同年はスマホ元年といっていい。以来、14年間で、そのライバルであるAndroid機種も含めてさまざまなスマホが販売されてきた。スマホの便利さを考えると、スマホがなくなればかなり不便なものとなるはずだ。
そんな役立っているスマホだが、利点ばかりでもない。タイトルの通り「スマホは脳に悪い」といわれているのだ。そういわれれば、なんとなく納得してしまうが、じゃあ、どこが(特に子どもたちにとって)どう悪いのか、はっきり知っている人は少ないのではないか(「5G電波が悪い!とする人もいるだろうが、それはまた別の話としてどこかで取り上げます)。
さて、スマホはどこがどう脳に悪影響を与えるのか。
子供は本来、多動症的な存在だ。こっちで物音がすればそれに顔を向ける。あっちで動く影が目に入れば、それを目で追う。これは子供正しい姿だ。注意をあらゆるところに向けていないと草原などの自然環境の中では生きていけない。どこから捕食動物がやってくるから分からないからだ。注意散漫というのは子供の特質である。
では、スマホを使用するとヒトはどうするか。ある人は一つの画面を熱心に長い間ためすがめつするだろうが、たいていの人は関連のページや少し見た後、別の作業(別ページへ遷移したり、メールをしたり、SNSをしたり、ゲームをしたりする。いわゆる「マルチタスク」的な使い方をするのだ。これが実はまずいのである。
「マルチタスクって、いろいろなことに注意を向けるってことでしょ? それって注意散漫のことだから子どもの本質と合っていて、いいのでは?」と疑問を持つ人もいるだろうが、そうではない。
子供は、自然の中で注意散漫の段階から集中力を使える段階へと育っていく。そうでないと獲物や自然の中で、未来に起こること(いつ大雨がやって来るのか、今夜は寒くなるのか、または獲物はどこに移動しているのかなど)が”推測”できない大人になってしまう。要するに思考力を使って事象を追求できない者になるということだ。なにより、仲間と一緒に協働し追求するという最も大切な行為ができない。これでは待っているのは種としての絶滅である。
ヒトの脳はよくできたもので、マルチタスクをしている間は快楽の内分泌物質「ドーパミン」が多く出ている。これは子ども時代に注力散漫であることを良しとした名残だ。ただ、それが大人になってまでその注力散漫(マルチタスク)→ドーパミン発生が残ってしまった(残してしまったのかもしれない。快感はそう簡単に手放せないのだ)。
大人が注意散漫はまずい。
最近ではマルチタスクを奨励するような考えもあるが、これは間違いだ。アメリカのスタンフォード大学のある研究者の「マルチタスク実験」がその間違いを証明している。
この実験は、マルチタスクが得意な人に思考力が問われる課題を与えてみてその結果を調べた。300人のうち、半数の被験者は勉強をしながらネットで次々とさまざまなサイトに遷移してもらった。残りの半数は一つだけのことに取り組むことをやってもらった。両方のその結果で集中力の良し悪しを計測した。結論はマルチタスクが得意というグループがマルチタスクの課題をこなすとその成績はさんざんだった。マルチタスクが得意とされる人でも成績は低い結果が出ることが分かったのだ。
マルチタスクで成果を出す人もいるが、それは人口の1%の割合だそうだ。多くの人にとって、マルチタスクは弊害でしかない。
つまりスマホはヒトの脳が大人になってもマルチタスクでドーパミンを出すという”脳のバグ”をうまく利用した機器なのだ。それにハマるのは楽しくて快楽をもたらすが、集中力を要する課題追求では(あくまでも大人に限ってだが)問題あり、というわけだ。
さて、あと10年も経てば、生まれたころからスマホがあった世代が高校生になり、大学生となって社会人として社会に出て来る。彼らの能力は良いか悪いか、その時、分かるのだろうか。
なお、スマホが脳に一番影響を与える箇所は「前頭葉」といわれる部分である。ここは衝動を抑え思考や理性的な判断を促す。ヒトが複雑な行動を取ることができるのも前頭葉があるためだと考えられている。スマホはここを直撃してドーパミンをドバドバと放出させる。前頭葉のリミッターを外されたドーパミン過剰の子供たちはどのような社会をつくっていくのだろうか。
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